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    納浩一が語る、アンプ・ブランド“Genzler”の魅力

    • Interview:Shinichiro Sekiguchi
    • Photo:Takashi Hoshino

    2023年5月31日、6月1日に東京・中野ゼロホールにて行なわれた、ベース・アンプ・ブランドGenzler(ゲンツラー)の正規輸入代理店を務めるイースペック株式会社が主催する、音響機器・舞台演出照明機器の展示会“機材展2023”にて、同ブランドのキャビネットを普段より使用しているジャズ・ベーシスト納浩一をキャッチした。自身の使用モデルへの愛とともに、ゲンツラーの魅力をたっぷりと語ってくれた。

    パワーがあって、サイズはコンパクト。
    しかも音にクセがない。

    ━━納さんはゲンツラーのベース・キャビネット“BA12-3”を愛用されているそうですね。

     会場の大きさや楽器によって、いくつか使い分けているんですけど、小さなお店だったり、今回のイベント(機材展)のようにウッド・ベースを演奏するときはゲンツラーのキャビネットにすることが多いですね。ヘッドはいつも使っているものがあるんですけど。

    ━━ゲンツラーのキャビネットに出会ったきっかけは?

     5、6年前にツアーで台湾に行ったんですよ。その会場のお店に置いてあったんです。小さな口径のスピーカーが並んだデザインがおもしろいなと思って、試しに弾かせてもらったら、すごくいい音で。日本では見たことがなかったので、“これは台湾メーカーですか?”って聞いたら、“いや、違います”と。それで帰国して、調べてみたら日本でも売っていることがわかったので、買ってみたんです。ちょうどこういうコンパクトなキャビネットを探していたこともあって。

    ━━購入して、改めて使ってみた印象はいかがでしたか?

     やはりいいですね。それに現場をたくさんやっている僕のような人間にとっては、軽くて持ち運びが楽というのも大きいんですよ。電車で持ち運べるほどじゃないですけど、駐車場からステージまでとか、階段の上り下りくらいなら、まったく問題ないです。それにアコースティック・ベースの場合、大きなスピーカーだとハウリングを起こしてしまうので、これくらいのサイズがちょうどいいんです。今回のイベントで使っているヘッドはお借りしたものですけど、普段は自分のヘッドにつなげてます。

    ━━それまで使ってきたキャビネットと比べて、どのような違いが感じられましたか?

     ツィーター付きとは言っても、僕がイメージするツィーターに比べると、高音域が柔らかく感じますね。ツィーターの効きが強いと、アコースティック・ベースなんかでは、硬い音になってしまうんですよ。僕の聴感上ですけど、そこまで高い音域が強調されていないような気がします。マーカス・ミラーのように、バキバキとスラップをやりたい人には物足りないかもしれませんけど、ヴィンテージ・ベースのようなものを弾く場合、大きな口径のスピーカーだけだと、音圧は出ても音の輪郭がぼやけてしまうんです。だから音の輪郭を出すには、こうした小さな口径のスピーカーがあったほうがいいんですよ。オーディオと一緒ですよね。

    納が普段より使用しているキャビネット“BA12-3”。4つの3インチ・ネオジウム・ドライバー(ラインアレイ)を取り込み、パターン制御を備えたベンチ式バスレフ設計と12インチ・スピーカーのメリットを融合した、次世代型ベース用キャビネットだ。

    ━━今回の機材展ではウッド・ベースを弾かれるようですが、ウッド・ベースとの相性は良さそうですね。

     そうですね。特にウッド・ベースのような、それほど高音域のいらないサウンドが好きな人にはいいでしょうね。

    ━━ヘッドはゲンツラーのアンプ・ヘッド“MAGELLAN 800”をお借りになったようですが、そちらの印象はいかがですか?

     すごく素直でストレートな音ですね。出力は何ワットくらいあるんですか?

    ━━800ワットのようです。

     昔、800ワットのアンプと言ったら、めちゃくちゃ重かったのに、こんなにコンパクトなサイズで800ワットというのはすごいですね。

    ━━MAGELLAN 800のコントロールのセッティングはどのようにしていますか?

     チャンネルはクリーンにして、ツマミはどれもほとんどフラットです。本当にちょっとだけ気になるところを持ち上げたり、カットするくらい。アンプに挿して、そのままフラットで出せば、それだけで素直ないい音が出るという印象ですね。

    軽量高出力を謳うゲンツラーのフラッグシップ・アンプ・ヘッドのMAGELLAN 800。クラスDパワーアンプ設計により2.83kgという軽量さと800Wの大出力を実現している。プリアンプ回路はクリーン/ドライブの2チャンネル仕様で、可変ミッド・フリケンシー(150Hz~3kHz)付きの3バンド・アクティヴEQを装備する。

    ━━ちなみに、ウッド・ベースのピックアップ・システムはどのように?

     ウッド・ベースにはいつもピックアップをふたつ付けていて、それを一旦プリアンプでブレンドさせてからアンプに入れてます。

    ━━そのあとPA卓に?

     そうですね。今回のイベントではヘッドの裏からラインで取って、キャビネットの前にはマイクを立てずに、スピーカーは自分のモニターとして使ってます。

    ━━このキャビネットはどのようなベーシストにお薦めしたいですか? また、使い方については?

     それほどパワーのあるサイズではないので、あまり音量を必要としないジャズ系とか、小さな小屋で弾くにはいいですよね。それとエレベとアコースティック・ベースをどちらも弾く人で、アンプを分けたい人とか。エレベは大きなキャビネットでもいいですけど、アコースティック・ベースの場合、大きなスピーカーだとハウリングが起きるし、音量が大きいとアコースティック・ベース本来の良い音にもならないんですよ。今回の会場(中野ZERO本館 大ホール)くらいなら、このサイズでも十分にモニタリングできます。小さなスペースでエレベを弾く人にもいいでしょうし、据え置きのスピーカーを探しているジャズの小屋にもお薦めですね。

    ━━MAGELLAN 800ヘッドはどのような人にお薦めしたいですか?

     パワーがあって、サイズはコンパクトで、しかも音にクセがない。音色のコントロール幅も広いようなので、幅広いタイプのプレイヤーに対応できるんじゃないでしょうか。

    ━━では、納さんにとってゲンツラーの魅力とは?

     ヘッドはまだそれほど使いこなしていないので、キャビネットの印象になってしまいますけど、ひとつは個性的なデザイン。それとさっきも言ったツィーターですよね。僕が使ってきたツィーター付きのキャビネットは、ツィーターに耳を近づけると、“シャーッ”というすごい高域成分が聴こえたものですけど、このツィーターの帯域はもうちょっと下あたりが出ているんじゃないかなと。

    ━━ツィーター特有のクセがあまり感じられないと。

     そうですね。なかにはツィーターが苦手なベーシストもいるじゃないですか。特にヴィンテージのジャズ・ベースなどを弾いている人は、嫌な帯域が出るからと、ツィーターを切ってしまっている人も多いと思うんです。でもツィーターがあったほうが、音の芯は出やすいと思うので、そういう人は試してみるといいでしょうね。

    ━━ツィーターに苦手意識のある人は一度試してみると良さそうですね。

     だからこれにはツィーターのコントロールが付いていないんでしょうね。大抵、ツィーター付きのキャビネットには、裏側にツィーターのレベル・コントロールがあるんですけど、付いていないというのは、そこを含めたトータル・バランスを考えたうえで、設計されているからなんじゃないかと。いずれにしてもユニークなモデルですよね。誰も考えていなかったような音を追求していく、そういう姿勢が好きですね。

    納が“機材展2023”のデモンストレーションにて使用した機材群。右に置かれているのが自身のウッド・ベース。左は上からDI、中央がアンプ・ヘッドのMAGELLAN 800、下がキャビネットのBA12-3。

    ◎Profile
    おさむ・こういち●1960年10月24日、大阪生まれ。京都大学卒業後バークリー音楽大学に留学。1985、1986年度のバークリー・エディ・ゴメス・アウォード受賞。1987年に同大学作曲編曲科を卒業。帰国後は都内のライヴハウスやスタジオ・セッションを中心に活動。渡辺貞夫グループのレギュラー・ベーシストであったことや、大坂昌彦(d)、小池修(s)、青柳誠(p)との“EQ”での活動などが有名。『ジャズ・スタンダード・バイブル』などを執筆。2022年7月にはリーダー・アルバム『CODA』を発表した。
    Official HP

    ゲンツラーに関するお問い合わせは、イースペック(☎︎06-6636-0372)まで。
    https://genzler.jpn.org/