UP

スリーク・エリートが広げるベースの世界 vol.2 〜 Nordstrand ACINONYX feat. 後鳥亮介(indigo la End)

  • Photo:Takashi Yashima、Hiroki Obara(PLEK)
  • Translation:Tommy Morley

さまざまな海外ブランドの輸入代理店であり、メインテナンス・マシンPLEKを日本に広めた功労者でもある東京の工房、スリーク・エリート。代表の広瀬創氏がもともとベーシストであり、ベース愛に溢れることで知られている同工房が今お薦めするブランドを、indigo la End の後鳥亮介とともに検証していこう。

Sleek Elite Selection②

スリーク・エリートが取り扱うブランドから今のイチオシをピックアップしよう。

Nordstrand

 ノードストランドを主宰するキャリー・ノードストランドは1970年生まれ。米国ミネソタ州で育ち、10歳頃からサックスをプレイするようになる。彼に転機が訪れたのは1990年。進学したカリフォルニア大学リバーサイド校内のジャズ・バンドでCD制作の話が持ち上がったが、指揮者がキャリーを含むサックス担当メンバーの代わりに、自身が懇意にしていたプレイヤーを起用。これにショックを受けたキャリーは、同じ頃、両親とともに訪れたケニー・Gのコンサ ートでベースを演奏していたヴェイル・ジョンソンのプレイに衝撃を受けたこともあり、ベーシストへ転向することを決意する。

 その後、レコーディング・エンジニアリングを学ぶ専門学校に通い、ノースハリウッドの有名レコーディング・スタジオ、デボンシャー・サウンドなどで勤務する。これらの経験についてキャリーは、“デボンシャー・サウンドは当時の音楽シーンでもとてもおもしろい場所で、スタジオ・シーンとはどんなものであるかを知ることができました。私は常にサウンドのクオリティ、オーディオに関する体験、頭のなかで鳴っていたサウンドを形にしてそれをキャプチャーするテクニックについて深い興味を持ち続けていました。それ以来、ずっとその探求を続けていて、私の製品のデザインに確実に巨大なインパクトを与えてくれました”と語る。

 また、それらの活動のかたわら、友人が経営するギター・ショップに出入りして楽器の知識を吸収すると、TRAVELER GUITARの立ち上げを手伝うなど1993年頃から楽器の製作を開始。1996年にはAzola Bassesに参加して木工部分を中心に担当、1998年からは名匠ジョン・サーのもとでマスター・ビルダーとしてその手腕を発揮した。

 2002年の末になり、ついに自身のブランドを設立。現在はピックアップ製作で有名なノードストランドだが、当初はベース本体を製作する工房としてスタートした。自身のベースに搭載するピックアップを自ら設計・製作すると、そのクオリティの高さが評判を呼び、徐々にほかのビルダーからも注文が入り始め、ピックアップ・ブランドとしての認知が拡大。2006年にはアングルのついたポールピースを採用したシングルコイル・ピックアップ“Big Single”を発表して大ヒットを記録した。

 現在は、数々のベース&ギター用ピックアップ、ベース用プリアンプをリリースするとともに、数々の有名メーカーのピックアップをOEM供給し、また2017年に立ち上げた“ROCKET SURGEON”ブランド名義でのエフェクター製作なども手がけている。

ACINONYX
SHORT SCALE BASS

現代に蘇ったショート・スケール・ビザール・ベース

  • Nordstrand/ACINONYX

Specifications
●ボディ:アルダー●ネック:メイプル●指板:ローズウッド●スケール:30.7インチ●フレット数:21●ピックアップ:オリジナル・シングルコイル×2●コントロール:ヴォリューム、ピックアップ・セレクター・スイッチ、プリセット・トーン・スイッチ●ペグ:ヒップショット●ブリッジ:ヒップショット・カスタム●カラー:レイク・プラシッド・ブルー(写真)、オリンピック・ホワイト、サーフ・ グリーン、ブラック、ダコタ・レッド●価格:149,600円

 確かな品質を誇るピックアップ・ブランドとして世界各国の有名ベース・メーカーにピックアップを供給していることで知られるノードストランド。同社から登場したショート・スケール・ベース が“ACINONYX(アシノニクス)”だ 。本器の製作は、マーズ・ヴォルタなどでの活動で知られるベーシストのホアン・アルデレッテがノードストランドの工房に持ち込んだ1本のベースから始まる。ホアンが持ち込んだのは、“Goya Panther II”という1960年代に製作されていたイタリア製のショート・スケール・ベースで、音色はもちろん、その愛らしいルックス、ボタン式のピックアップ・セレクターやプリセット・トーンといった機構に魅せられたキャリー・ノードストランドは、“Goya Panther II”を再設計し、現代に蘇らせるプロジェクトを立ち上げた。

 特徴的な1:3のヘッド・ストックは、オリジナルのデザインを踏襲しながら、オリジナル器で問題となっていた1弦が2弦のペグ・ポストに干渉してしまう状態を解決し、ペグからナットへ全弦が真っすぐ通るように意図されたもの。また、オリジナルの4点止めから3点止めボルトオンに変更されたジョイント部や、ネック・エンドに設けられたホイール・ナット、コンパウンド・ラジアス指板など、“現代のベース”として通用するスペックを持っている。メタル・カバーのピックアップはもちろんノードストランド製。平均約3キロという軽量さも魅力だ。

Details

ピックアップは、メタル・カバーがクールなノードストランド製シングルコイル。P-90タイプを基盤にしつつ、ブレード・ポールピースを採用している。

プリセット・トーンは、フラット/ハイ・カット弱/ハイ・カット強/ミッド・カットの4ボタン。
低音弦側に寄せられた大きめのポジション・マークの位置はオリジナル器を踏襲。
スタジオの定番機器1176コンプレッサーに付いているスイッチから着想を得たピックアップ・セレクター(ボタン側面に効果の図解あり)はミックス/フロント/リア/ミュートの4ボタンで、すべてのボタンを押し込むと両ピックアップがシリーズ接続になる。
スパイラル・サドルを備えたブリッジはヒップショット製の特別モデル。弦間ピッチは17mmと、やや狭めの設定だ。
ジョイントは変則的な3点止めボルトオン。これはできるだけ軽量化したく、本器のような小型ベースの弦テンションであれば、3本のネジ止めでも充分という判断であったと同時に、キャリー曰く“非対称や奇数を優先して偶数を避けるという日本製デザインのコンセプトへのリスペクト”でもあるという。

▼ 次ページでは後鳥亮介による試奏をお届け! ▼