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轟音のなかで浮遊する
情感あふれるベース・ライン
オルタナやシューゲイザーを雛形とした轟音ファズ・ギターと甘美なヴォーカル、そして重厚かつ繊細なリズム・セクションによって完成度の高いスリーピース・サウンドを追求してきた羊文学が、待望のニュー・アルバム『our hope』を4月20日にリリースした。ここではベーシストの河西ゆりかに、『our hope』の制作背景について語ってもらった。使用機材や音作りについては現在発売中のベース・マガジン5月号にて掲載しているが、Bass Magazine Webでは本誌に入りきらなかったフレーズメイクについての話題を中心にお送りしよう。3人というミニマムなバンド編成において、“ベースは楽器と楽器の接着剤”だと語る彼女のアレンジ哲学に迫った。
3人の音しかないので、
ベースがコード感の核になる。
━━ここではフレーズメイクの話を中心に聞いていきたいと思います。羊文学のベース・ラインは、ルート弾きなどボトムに徹するようなものが多いと思いますが、河西さんはルート弾きをする際にはどんなことを考えていますか?
まず羊文学には3人の音しかないので、やっぱりベースがコード感の核になると思っています。ベースが音をたどっていないとわけがわからなくなっちゃうんですよね。楽器の数が少ないから自然にそうなっている、という感じです。
━━音選びはルート音を選ぶことが多い一方で、例えば「ラッキー」とか「光るとき」のサビで聴けるような、“ドーン、ド・ドーン”という大きい波でのリズムから直線的な8ビートへの変化など、羊文学のアンサンブルからはリズム・チェンジの巧みさを感じる場面が多いです。3人というミニマムな編成だからこそのリズム面での工夫も今作の聴きどころのひとつだなと。
そうですね。ベースはルートを弾いていないといけないと思っているので、リズムで変化をつけるようにはしています。そこはけっこう、ドラムを聴いて合わせにいくことが多いかもしれません。
━━普段、リズムの作り方としては、フクダ(ヒロア)さんのドラムが先に決まって、ベースがそこに合わせるというパターンが多いんですか?
ドラムに合わせることもあるし、ギターに合わせることもあるんですよね。どっちのパターンもあるって感じです。
━━リズムについては、けっこうメンバーと言語化して話し合ったりもするほうですか?
はい、たまにありますね。特にプリプロのときとかは。でも、そこまで細かいことまでは話していないかもしれないです。「くだらない」とかは、ギターが延々と同じフレーズを弾いている曲なので、ドラムとベースをどうしようっていうのはけっこう話しながら考えましたね。
━━ループするコード進行のなかで、リズム・セクションが多彩なプレイでダイナミズムを生む楽曲になっていますよね。特に終盤でベースがハイ・ポジションに行くところでは、ガラッと情景が変わる感じがしました。
そうですね。ベースとドラムで変化をつけようということで、この曲のベースはけっこうポップな感じでいこうと思っていました。
━━“メロディアスなプレイ”というところでは、今作だと「マヨイガ」のサビ終わりのベース・ラインも印象的でした。ここではどういう考えで “ベースで動こう”と判断したんですか?
動きのあるベース・フレーズは、アンサンブルに空白があるときに“ちょっと埋めようかな”という気持ちで入れています。「マヨイガ」は弾いていて気持ちのいいベースにしたかったというか、歌メロがすごくメロディアスなので、最後はベースも歌と一緒に盛り上がって音を埋めていこうと思っていました。
━━アルバム1曲目の「hopi」も、冒頭からベースの動きがフックになっている曲ですね。
最初この曲はアンビエントみたいなイメージだったので何もしないほうがいいと思ったんですけどね(笑)。アルバムの始まりということもあるし何かフレーズを入れようと。デモに入っていたベース・ラインをちょっと参考にしながら、始まりっぽい、階段を登っていくような感じで作りましたね。