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追悼 スライ・ストーン|そのグルーヴを支えた名手たち──ラリー・グラハムからケニ・バークまで〈ベース名演10選〉【後篇】
- Text : Hisafumi Maeda
- Photo : Michael Putland / Getty Images
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6. Sly Stone – I get high on you
◎ベーシスト:ボビー・ヴェガ
7作目のアルバム『Small Talk』(1974年)を最後に、ベースのラスティ・アレンとドラムのビル・ローダンが揃ってロビン・トロワーのバンドへ移った。そのため、続くアルバム『High on You』(1975年)は、スライのソロ名義でリリースされている。
このアルバムでベースを弾いているのが、サンフランシスコ──ベイエリアを拠点に活動するベーシスト、ボビー・ヴェガだ。ミュートの効いたファンキーなピック弾きを得意とするボビーは、15歳でボ・ディドリーとの共演をきっかけにプロとしてのキャリアをスタート。なんと16歳にして、このアルバムに参加している。
この曲では、アタックの強いゴリゴリとしたピッキングで楽曲を牽引している。ピックはティアドロップ型を使用しており、横の丸くなだらかな部分でピッキングしているのが特徴だ。これは、弦に触れる面積が大きくなることでビッグなサウンドが得られるということと、求めるトーンに応じて親指の握り込み具合を変えることで、弦に触れる面積を自在に調整できるという理由によるもののようだ。
7. Sly Stone – Who Do You Love?
◎ベーシスト:ボビー・ヴェガ
以前、ボビー本人に話を聞いたところ──スライのアルバム『High on You』(1975年)に参加した時期に、彼はタワー・オブ・パワーのホーン・セクションや、ウォーのハープ奏者リー・オスカーの「Feelin’ Happy」にも参加していたという(この曲、メチャクチャかっこいいピック弾きファンクで必聴です!)。
その際、ボビーはピックを使って、タワー・オブ・パワーのベーシスト、ロッコ・プレステアの2フィンガー・プレイのニュアンスを真似て弾いたそうだ。スライとのセッションでも、ラリー・グラハムのように親指を使ってスラップで弾くのではなく(ボビーはスラップもうまい)、あえてピックを使い、ロッコのようなフィーリングで演奏していたという。
その結果、「Who Do You Love?」は、スライとタワー・オブ・パワーのグルーヴが混ざり合ったようなサウンドになっている。このようにボビーは、ロッコから大きなインスピレーションを受けている。実際、ロッコが生体肝移植で病床に伏していた際には、ボビーが代役としてTOPに参加していた。
余談だが、この「Who Do You Love?」のイントロ部分は、ミシェル・ンデゲオチェロの「If That’s Your Boyfriend」のイントロで引用されている。
8. Sly & The Family Stone – Back on the Right Track
◎ベーシスト:ケニ・バーク
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの10枚目のアルバム『Back on the Right Track』(1979年)は、デビュー以来所属していたエピックを離れ、ワーナーへと移籍しての第1弾作品。スライのセルフ・プロデュースではなく、モータウンで活動していたマーク・デイヴィスがプロデューサーとして起用されている。
ここでベースを弾いているのが、ケニ・バークだ。ケニは、シカゴのファミリー・グループ“ファイヴ・ステアステップス”のメンバーとして活動した後、セッションマンとしても活躍。カーティス・メイフィールド、ビリー・プレストン、テリー・キャリアーなど、ソウル系からロック系まで幅広いアーティストと仕事をしている。
ソングライターやヴォーカリストとしても優れた才能を持ち、ラリー・グラハムのお気に入りアーティストでもある。
この曲では、ラリー・グラハム直系とも言える、粘り腰の“黒いスラップ”が炸裂。思わず腰が踊るグルーヴだ。イントロでの♯9thをクォーターチョークした繊細なニュアンス付けや、10thを使ったリフなど、アーバンな佇まいのファンクに仕上がっている。
9. Sly & The Family Stone – The Same Thing (Makes You Laugh, Makes You Cry)
◎ベーシスト:ケニ・バーク
スラップによるプレイで、ハードなミュート・サムピングと、タメのあるグルーヴが心地よい。メジャー・ペンタトニックの6thの音を印象的に使っており、それがポップな佇まいも感じさせるベース・ラインとなっている。
ケニは、ジョージ・ハリスンが主宰する“ダークホース・レコーズ”の専属アーティストだったこともあり、ポップ・フィールドにおけるファンキーな味付けのセンスは抜群だ。
彼はソロ・アルバムもリリースしており、ダーク・ホースから1stソロ『Keni Burke』、RCAから『You’re the Best』と『Changes』を発表している。なかでもブレイクした「Risin’ to the Top」は、メロウ・グルーヴのクラシックとして知られ、サンプリング・ネタとしても有名な1曲だ。この3枚のソロ作は、どれもファンク好きにはたまらない内容で、カッコいいベース・ラインが満載。ぜひチェックしてみてほしい。
あわせて、ここで紹介した内容は、筆者が執筆したリットーミュージック刊『ファンク・ベースの教科書(音源付き)』でも詳しく解説しているので、こちらもぜひ読んでもらいたい。
10. Sly & The Family Stone – Africa Talks to You (“The Asphalt Jungle”)
◎ベーシスト:スライ・ストーン
最後にスライ自身のベース・プレイを紹介する。『暴動』(1971年)は、スライ自身がひとりでかなり作り上げたアルバムで、ベースを弾いている曲も多い。「Luv n’ Haight」「Poet」「Africa Talks to You」「Brave & Strong」「Spaced Cowboy」などがその代表だ。
ベースの音は、プレシジョン・ベースのピック弾きと思われる。ポールピースと弦の距離がかなり近いセッティングだったようで、ピッキングの際に弦がポールピースに当たる“ブチブチ音”が生々しい。そして、ピッチ感やサウンドの質感からも、フレットレスである可能性が高い(この年代には、フレットレスのプレベがすでに発売されていた)。
そうした特徴は、「Luv n’ Haight」の2:02〜2:32、「Africa Talks to You」の5:01や7:31、さらにはボーナス・トラック「My Gorilla Is My Butler」の1:22〜1:32あたりで特に顕著に感じられる。
昔々、初めてこの“ブチブチ”と極端にサスティンを削った、ランダムで無骨なベースを聴いたときは、「ヘタウマ」というか──なんだこれは?という印象だった。だが、繰り返し聴いているうちに、このアシッド臭漂うベースには強烈な中毒性があり、いつしか忘れられない存在になっていた。
今では、この質感こそがヒップホップのビートメイカー──J・ディラによる“ディラ・ビート”の発想の源になっているような気さえする。
◎執筆者プロフィール
前田”JIMMY”久史(まえだ じみー ひさふみ)●高校を卒業したのち、北海道でのハコバン生活を経て25歳頃に上京。その後は小泉今日子、一世風靡セピア、X JAPANのToshI、ダイヤモンドユカイ、しばたはつみ、森川智之などさまざまなアーティストのサポート、スタジオ・ワークを行ない、沢田研二、鳳蘭、布施明などのミュージカルのバンド・マスターを担当。近年ではMalaga Virgen、Cybalic Encounters、Freaky Marketでの活動に意欲を燃やす。また、後進育成のため学校法人ESPにて講師として活躍するだけでなく、海外にも遠征。2000年頃から現在まで『ベース・マガジン』にて奏法に関連した記事を多数プロデュース。『プロ・ベーシストに近づくためのメソッド集』『究極のピック弾き練習帳』『ファンク・ベースの教科書』など多数の教則本も執筆している。
◎https://ameblo.jp/jimmy-bassman