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    INTERVIEW – 本村拓磨[ゆうらん船]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Ryo Mitamura

    去年はフィッシュマンズのあと、
    ずっとアシッド・ハウスにハマってて。

    ━━ところで今作では、本村さん自身も3曲でミックスを担当したんですよね?

     はい。先行でリリースされた「Parachute」と、「Hurt」、「Heaphone 2」の3曲ですね。

    ━━どういう経緯でミックスをやることに?

     それはもう……。成り行きなんです(笑)。今までもバンドでYouTubeに上げるライヴ映像とかのミックスをたまにやってたんですけど、今回「Parachute」が劇伴として使われるというお話が急に来まして。ただその締め切りがギリギリだったので、池田さんではスケジュール的にミックスが間に合わないという話になり。それで、とりあえず自分がやってみようという話になって。

    https://open.spotify.com/track/5WvkQCdRc38KbXgxO6HWTM?si=102e844cefaa495d

    ━━今までミックスの経験はあったんですか?

     バンドでYouTubeに上げるライヴ映像とかのミックスをたまにやっていたくらいで。でもその話をしたら、池田さんが“じゃあもっちゃん(本村)がやればいいんじゃない?”って。“えええ?!”ってなったんですけど、“とりあえずやってみればいいんだよ”みたいな感じになって(笑)。

    ━━ミックスにあたっての機材環境とかはどんな感じだったんでしょう?

     知り合いでスタジオを持ってる人がいて、そこを使わせてもらったんです。マイクプリもコンプレッサーも貸してもらって。ソフトとかは、“やるからにはイチから揃えないと”みたいな感じで、DAWをAbleton Liveに変えたり新しいものを買って、そこでひたすらミックスを細々と進めました。

    ━━ミックスの際は、どんなことを意識しましたか?

     録音は基本的に池田さんがマイクを立ててやってくれたので、その録り音の良さをできるだけ生かしたいなって思っていました。この前嬉しかったのは、池田さんが “「Parachute」を、なんで俺こんなミックスしたんだろう? って思いながら聴いてたけど、よく考えたらもっちゃんがやったやつだった!”って言ってて(笑)。池田さんが一瞬でも自分でやったと勘違いしたっていうのはそういう良さを殺さずにできたのかな、みたいな(笑)。

    今作のレコーディング直前に友人から譲り受けたというリッケンバッカー 3001。“彼はよく対バンとかをしていた間柄だったんですけど、就職して子どももできて、ベースを弾く時間がなくなったから、みたいな感じでもらって。それで、彼の意志も継いでこの作品で使わなきゃ! という気持ちになったんです(笑)。今作では4弦は基本このリッケンを使いました”。
    今作の録音で使用された本村所有のDI、RUPERT NEVE DESIGNS製RNDI。

    ━━「Parachute」はベース的にはどんなことを考えましたか? コードがシンプルで、ベースのフレーズで変化をつけていく曲なのかなと思いましたが。

     ずっとミニマルにループしていくようなアンサンブルになっているので、ベースもループ感があって踊らせるような、円のグルーヴを作りたいという思いでした。でもドラムのフレーズはループするというよりは、8ビートっぽいどんどん前に進むような感じだったので、休符で攻めるのか、ビートを刻むのか、みたいなのはけっこう悩みました。

    ━━結果、休符を感じさせるものになりました。

     “ドゥードゥードゥー”って刻むところを、“ドゥーッドゥーッドゥーッ”って弾いてる感じですかね。音と音がキレイにつながらないで、ちょっとした息継ぎを入れてるんです。テヌートで音は切れてるんだけど、次の拍のアタマのギリギリ近いところまで伸ばしているイメージ。クオンタイズされた感じで区切るんじゃなくて、呼吸してるみたいにリズムが作れないかなと。

    ━━ループしながら静かに高揚していく感じが出てますよね。

     そうですね。“ちゃんとビートを刻む”っていうと、ちょっと若々しい感じがするじゃないですか? そういうインディ・ロックっぽいものとダンサブルなベースの間をちゃんと見つけたいなっていう。

    ━━「Hurt」についても聞きたいと思います。この曲のシンセ・ベースは、ローランドのTB-303でプログラムしたんだとか?

     去年はフィッシュマンズのあと、ずっとアシッド・ハウスにハマってて。それで303大好きっ子になってしまって(笑)。でも音はTB-303の実機じゃなくて、ローランドのソフトウェアのサブスク“Roland Cloud”にある303の音源と、自分がハードで持っているCyclone analogic製のTT-303というクローン・モデルの音のふたつを組み合わせて作りました。

    ━━当然シンセ・ベースとなると、エレキ・ベースとはアプローチの発想の仕方も変わるものですか?

     全然違いますね。やっぱリズムが全然ブレませんから(笑)。安定したリズムがあるとこんなに自由な発想が生まれるんだと思って、自分のエレキ・ベースの演奏をめちゃくちゃ反省しました。

    ━━リズムが安定することで、何が一番変わるんでしょう?

     “ほかの楽器が自由になる”ことですかね。最終的にリズムの揺らぎは作りたいんですけど、揺らぐためには何か一本基準が必要なんだなって。一本背骨があるからこそ、ほかの楽器がウネウネできる、みたいな。ゆうらん船のリズムってわりとフリーキーなところがあるんですけど、今回こういうブレないリズムが入ることによって、みんながどういうタイム感で演奏しているのかが可視化されたのがおもしろかったです。

    ━━「Headphone 2」のクレジットは、作曲以外のすべての楽器が本村さんになっていますね。

     そうですね。これはアタマから終わりまで全部ひとりなので。これはゆうらん船を始める前に内村くんが書いた古い曲なんですけど、セルフ・リメイクみたいな感じで仕上げました。これを作ったときは、個人的にエイフェックス・ツインに死ぬほどハマっていたんですけど、その影響がリアルタイムで反映されていますね。「Bucephalus Bouncing Ball」っていう曲のシーケンスを再現したプリセットが、その時期に新しく買ったシンセに入っていて、それをファズ・ギターと組み合わせて使ってみたり。めっちゃ楽しかったですね。

    https://open.spotify.com/track/4U7JoHs9HrfyLfYEItS0Bw?si=6e5f7ae8c8b647f1
    本村所有のCyclone analogic製のTT-303。
    本村所有のモーグ製Sub Phatty。今作では「at dusk」で使用された。そのほか、本村は今回の制作期間中にコルグ製のアナログ・モデリング・シンセサイザー、MS2000を入手。こちらは「Headphone 2」で使用された。
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