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    Interview – 亜沙[和楽器バンド]

    • Interview:Kengo Nakamura

    唯一無二の世界を描く、原点回帰のボカロ・カバー・アルバム

    和楽器とバンド・サウンドを融合させるという唯一無二の音楽性で、国内にとどまらず海外でも活動を展開してきた和楽器バンド。もともと、ニコニコ動画界隈で活躍していた凄腕プレイヤーたちが集まり、ボーカロイド楽曲のカバーによって話題を呼んだという経歴からすると、このたびリリースされたボカロ楽曲のカバー・アルバム『ボカロ三昧2』は、まさに“原点回帰”とも言える。自身がボカロPとしても活動してきたベーシストの亜沙にとっても特別な思い入れがあるであろう、ボカロ曲を集めた本作について、その制作背景を聞いた。

    あれを変えちゃうと、
    “そこはスラップやっとけよ”って思うだろうし(笑)。

    ━━新作は、和楽器バンドの原点とも言えるボカロ曲のカバー・アルバムとなりましたね。

     以前からメンバーの間では、“いつか『2』を出したいよね”っていう話は、雑談でけっこうしていたんですよ。それで、次のリリースはどうしようかという話になったときに、デビュー作の『ボカロ三昧』から時間も経っているし、8周年のメモリアル・イヤーということもあって、このタイミングでやるといいんじゃないかって。

    ━━選曲としては、わりと最近の楽曲も多いですよね?

     そうですね。選曲に関しては、今のボーカロイドのシーンに比較的明るかったのが俺と町屋(g, vo)さんだったので、ふたりで候補曲を出していったんです。俺自身、なんだかんだ、ボカロのトレンドを追っていたりもするので。

    ━━もともと亜沙さん自身がボカロPでもあるわけで、“ボカロ”という文化には思い入れも強いんでしょうか?

     やっぱりルーツがそこなので、大切にしているというのはありますね。音楽にはいろんなジャンルがあるじゃないですか。メタルとかメロコア、ヴィジュアル系、ジャズ、ファンク……そのどこから出てきたのかって自分のアイデンティティにもつながるものだと思うし、俺自身、いろんな音楽が好きですけど、どこに帰属しているかって考えると、それはやっぱりボカロ・シーンだという意識はあります。

    ━━そのボカロ・シーンも、例えば出始めの10年くらい前と今では、ずいぶん変わっている部分があるのかなと思います。

     俺個人のキャリアの話をすると、2012年に「吉原ラメント」がボカロの楽曲としてヒットしていろんなきっかけを得たんですけど、実はボカロ曲の初投稿自体はけっこう早くて、ニコニコ動画が出たばかりの2008年頃にやっているんですよね。全然伸びなかったんですけど(笑)。その頃から考えると、ボーカロイドのシーンはすごく変わったなと思います。一番最初の頃って、投稿していたボカロPの人たちにはバンドをやっていた人が多くて、いろんな曲調があったんですよね。本当にもう有象無象というか(笑)。それが、だんだん“ウケる曲調”みたいなものができてきて、それによっていわゆる“ボカロっぽさ”みたいなものが出てきた。そういう意味では、今の楽曲のほうが、より“ボカロっぽい”というんですかね。まぁ、そもそも、初期の頃はここまでボカロが世の中に浸透するとも思っていなかったですけど。

    左から、山葵(d)、亜沙、蜷川べに(津軽三味線)、神永大輔(尺八)、鈴華ゆう子(vo)、町屋(g, vo)、いぶくろ聖志(箏)、黒流(和太鼓)。
    『ボカロ三昧2』
    ユニバーサル/UMCK-1717〜8(CD Only盤)

    ━━今作の制作にあたっては、前回の『ボカロ三昧』のときとは向き合い方が違ったりもしますか?

     基本的には、自分のなかでは変わったつもりはないですね。ただ作り方が変わっているんですよ。前作のときには、スタジオに入ってその場でアレンジしていくって感じでしたけど、最近はずっと宅録でやっています。自分としても、スタジオに入ってベースを弾くよりも宅録のほうが納得したフレーズが弾けるっていうことに気づいたんですよね。

    ━━アレンジに関しては、町屋さんがベーシックを作って、そこに各メンバーがそれぞれのパートのアイディアを入れていく感じなんですよね?

     そうですね。ただ俺の場合は、町屋さんのデモは聴きますが、あまり意識しないようにしています。矛盾した言い方ですけど、“聴いているけど聴いていない”感覚というか。完全にインプットしちゃうと、そのフレーズに影響を受け過ぎてしまうんですよね。もちろん基本的なリズム・パターンやどうしてもキメなければいけない部分はちゃんと考慮しますけど、細かいところはまずは自分でやってみて、うまくハマらないなっていうときに、“町屋さんはどうしているのかな”ってガイド的に聴くみたいに、聴くべきところと、あえて聴かないところっていうのはバランスを取っていますね。

    ━━そういう意味では、今作の収録曲は“カバー”なので、影響源としてさらに、原曲のベース・フレーズという要素もありますよね?

     そうなんです。それこそ「天ノ弱」だったら、あのスラップのフレーズを踏襲しないと、あの曲にならないんですよね。あれを変えちゃうと、聴いている人は“そこはスラップやっとけよ”って思うだろうし(笑)。だから、そういうところはもちろんしっかりやるし、原曲のラインももちろん考えるんですけど、和楽器バンド・バージョンでやるときには、わりとリズム・パターンやキメが変わっていたりもするから、原曲は本当に参考くらいにとどめておいたほうがいい場合もありますね。

    ━━「グッバイ宣言」は、原曲の1Aメロの終わりにチョーキングでベースが入ってくるところがありますが、そこは今作でも踏襲していますね。

     これは町屋さんのデモにも入っていたし、俺自身もカッコいいなと思っていたので踏襲しました。ちょっと律儀な感じになっていますよね(笑)。その部分以外だと、「グッバイ宣言」は16分でピッキングしているところがけっこう大変だったんですけど、“これはミックスで聴こえなくなっちゃうだろうな”と思いつつ弾いていたら、案の定聴こえない感じだったので、“16で弾く必要があったのかな?”と思っています(笑)。

    ━━間奏のところですか? 多分和太鼓と混ざっているとは思うんですけど、粒立ちのいい感じは伝わってきますよ。

     お、そうですか! よかった。そう、間奏のところの“ダーツクツク”みたいなところはミュートで16分のゴーストになっているんです。ほかの楽器と混ざっているから、わかりづらくなっていると思うんですけどね。今回の楽曲は16分のフレーズが多いんですよ。多分、原曲にそういう要素が多いからだと思うんですけど。これも、今のトレンドなのかなって思います。やっぱりボカロの曲って“詰め込む美学”みたいなものが多かったりしますよね。もちろん、10年くらい前からそういう部分はありましたし、例えばkemu(編註:現PENGUIN RESEARCHの堀江晶太)くんとかはめちゃ音を詰め込んで速くて、それがカッコ良かったから、昔から16分の文化みたいなものはあるのかもしれないんですけど。

    「グッバイ宣言 」和楽器バンド

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