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INTERVIEW – 山本慶幸[トリプルファイヤー]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto

7年ぶりのアルバム『EXTRA』が映し出すトリプルファイヤーの低音論

トリプルファイヤーのベーシストとして活躍しながら楽器のリペアマンとしての顔も持つ山本慶幸が、約7年ぶりの新作アルバム『EXTRA』を引っさげて久しぶりにベース・マガジンに登場! 本作で山本はフラット・ワウンド弦や自作のスポンジ・ミュートを駆使し、デッドな質感を追求したベース・サウンドを構築。ヒップホップ作品も数多く手がけるサウンド・エンジニアのillicit tsuboiがじっくりとミックス処理を施したことで(ミックス作業には1年ほど費やされたそうだ)、そのベース・プレイはウーファーを震わせるようなロー感をカバーしながらも現代的な軽やかさやタイトさも兼ね備えたような、実に心地よい低音感をまとって届けられている。本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆者としてもお馴染み、同バンドのギタリストでありコンポーザーの鳥居真道(g)が作り上げるデモを“完璧に再現すること”を目指しながらも、山本独自の解釈や音価の細部にまでこだわったプレイの追求がアンサンブルをストイックに引き締めるさまも見事だ。本記事では山本に『EXTRA』の制作背景や使用機材の話に加え、バンド活動と並行してリペアマンとしても腕を振るう彼の謎に包まれた活動スタイルや音楽観にも迫った。

前作の『FIRE』(2017年)あたりからバンドの音楽性が変わっていくなかで、“ロックな音を出すな”と言われるようになって。

━━久しぶりのベース・マガジン登場ということで、少しプロフィール的な話から聞かせてください。山本さんはバンドマンでありながらリペアマンとしても活躍していますが、リペアマンとしてのキャリアはどのくらいになるのでしょう?

  もう10年以上は経っていますね。

━━現在、年間どのくらいの数のリペアを手がけていますか?

 ありがたいことにどんどん忙しくはなっているので、年間でギターとベースあわせて200本くらいです。すごく時間がかかるものから簡単なものまで、いろいろあるとは思うんですけど。

━━そもそも、どういう経緯でバンドマン兼リペアマンという活動スタイルになっていったんですか?

 トリプルファイヤーは大学生の頃からやっているんですけど、ギターの鳥居(真道)くんが入ったのが僕が大学を卒業するかしないかぐらいの時期で。僕以外の3人は“これから大学5年生”っていうめちゃくちゃな状況だったんですけど、僕自身も“あんまり正社員とかで働きたくないな”、“バンドをやりたいな”と思っていました。それで、バンドをやりながらその活動が生かせる仕事はなんだろうって考えて、リペアを始めた感じです。“バンドをやっていれば近くにいくらでもお客さんがいるんじゃないか?”という邪な考えもありました。

右上から時計回りに、山本慶幸、鳥居真道(g)、大垣翔(d)、吉田靖直(vo)。

━━リペアの知識はどうやって勉強したんですか?

 リペアの学校とかに行くのが正しい道だとは思うんですけど、自分の場合は知り合いや友達のギターを実験台にしてたくさん直したり、いじくり回したりしていくなかで少しずつ技術を身につけていきましたね。

━━現在でも周りにいるバンドマンからの依頼は多いですか?

 今は全然多くないです。むしろ知らない人だったり、リペアをやっているお店(Astronauts Guitars 二子新地工房)の近所の人とかのほうが多くなっています。

━━山本さん自身のベースはどんなセッティングにしていますか?

 “プレベは弦高を高めにして強く弾いたほうが良い音が出る”という昔ながらの考え方でセッティングしていて、それをずっとキープしてますね。

━━メンバーの鳥居さんのギターの調整も山本さんがやっているのだとか?

 そうですね。“こういう風にしなよ”みたいな部分はけっこう触ったりしますし、鳥居くんから“ピックアップ変えたい”と言われてパッと変えたりとか。

━━さて、今作『EXTRA』のお話に入っていきます。約7年ぶりのアルバムとなりましたが、レコーディング自体はかなり前に終わっていたんですよね?

 ベース、ドラム、ギターは1番最初に録り終わっていて、それが2020年の年末くらいだったと思います。

━━アルバムを聴いていて、低音の音像に驚かされました。すごく深い帯域までローが出ていて、でも軽やかさもあり、エレキ・ベースの音ではあまり聴けないような低音感がとても新鮮です。レコーディングの際は、音作りに関してどんなことを意識していましたか?

 今作でも前作に引き続き、録る前からillicit tsuboiさんにミックスをお願いしようと話していたので、ベースの音はtsuboiさんにたくさんイジってもらう前提で弾いていました。だから個人的には、 “こういう音にしたい”みたいなこだわりはあまりなかったです。僕はライヴでも、“PAさんがきっといい感じの音にしてくれるだろう”と思いながら、“自分はとにかくちゃんと演奏することに集中しよう”っていうタイプなので。

『EXTRA』
SPACE SHOWER MUSIC
PECF-1197

━━レコーディングの段階では、ベースはあくまでオーソドックスな音を目指した、という感じでしょうか?

 そうですね。ただ過去の作品と違うのは、このレコーディングの少し前くらいからフラット・ワウンド弦を使ったり、ミュートのスポンジ(※下の写真は山本が自作したミュート用スポンジ。使用しないときはマジックテープでボディに装着している。)を付けたりし始めていて、素の音自体が前よりもデッドな感じになっていました。サステインがあまりない音というか。

━━そういう音を目指し始めたきっかけはありますか?

 ベースの音に関してはけっこう鳥居くんからの要求が多いんですけど、前作の『FIRE』(2017年)あたりからバンドの音楽性が変わっていくなかで、“ロックな音を出すな”と言われるようになって。それで以前はギブソンのサンダーバードをメインで使ってたんですけど、少しずつフェンダーのベースを使うようになりました。そこからは長らくジャズ・ベースを使っていたんですけど、今作のレコーディング前にプレシジョン・ベースを買いまして。“古めかしい仕様にしてみたらどんな音がするんだろう?”と思って、プレベにフラット・ワウンド弦を貼ったりミュートを付けるようになったらすごくハマったんです。最近はジャズベにもプレベにもフラット・ワウンド弦を張っています。

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