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エレベでは七変化するけれども、
アコースティックでは決まった音がある。
━━「Cook Like Monk」はマリンバのサウンドが、セロニアス・モンクのパーカッシブなピアノのイメージにつながる感じがありました。「Rhythm-A-Ning」を思わせるコード・チェンジも使われていたりして、モンクへの粋なオマージュになっていますね。
最初に作ったときにはピアノを使うアレンジでしたが、曲のメロディもちょっとおちゃらけたというか、モンクっぽさがある一方で、ピアノだとイマイチおもしろいサウンドにならないんじゃないかと思って、今回採用するかどうか迷っていたんですよ。でも、ピアノの代わりにマリンバを使って、さらに大坂(昌彦/d)君にセカンド・ラインのリズムを叩いてもらえば、メロディのチープな感じが出過ぎない範囲で生かせるんじゃないかと思ったわけです。幸い、ヴィブラフォンの香取(良彦)さんもむしろマリンバのほうが好きだということでしたし、楽器も無料でレンタルできたので、無事に完成させることができました。
━━今回はマリンバだけでなく、ウーリッツァーのエレピやオルガンも無料で借りられるという幸運にも恵まれましたね。
借りるスタジオが違っていたら実現していなかったかもしれませんからね。どの楽器も独特のカラーを持っていて、ウーリッツァーもオルガンも生の楽器として成立するだけの存在感が認知されたと思うので、場面に応じて使えたらいいなと思っていました。僕自身、アルバムを聴いたときにずっと同じカラーが続くというのが嫌いで、ピアノ・トリオやビッグ・バンドでも2、3曲聴いたら飽きちゃうところがあるので(笑)。どうすれば飽きない作品になるかっていうのも、全体を通じて考えた部分でした。
━━「黄昏のリヨン」は、サッカー・ファンである納さんの思い出がつまった曲ということですが、納さんご自身の解説にもあるように、いかにもダニー・ハサウェイの名盤『Live』を彷彿させる空気感ですね。その一方で、クリヤ・マコトさんのウーリッツァーがハービー・ハンコックを思わせるところが、ひねりのひとつなのかなと思いました。
僕にとって一番重要なルーツのひとつであるアルバムの雰囲気を出したかったというのもありますが、僕のことをコンテンポラリーなことをやるジャズ・ベーシストだと思っている人たちがいるとしたら、ここまでアルバムを聴いてきてそういう人の足をすくったろかいなという気持ちもありました(笑)。ややこしい曲が続いたあとで、こういうシンプルな曲を持ってくれば、箸休めにもなりますし。クリヤさんのウーリッツァーのソロはもう、狙いどおりで(笑)、ありがたい限りです。どの曲もそうですけれど、フィーチャーしたソリストはみんな、僕の思っていたとおりの世界を作ってくれました。曲のアレンジはできても、ソロはあくまでもその人のセンスなので、実際にやってもらうまでわからないんですが、こういう曲でこういうサウンドを聴いたらこう行くだろうというのは、あらかじめ想定して人選を考えました。
━━ドラマーも、個性的な4人を贅沢に使い分けている感じですね。
そこはやはり、ベーシストとしての長年の付き合いで、その人の得意なところや好みを見抜いて、各人が一番自由に良いところを発揮できることを想定して作曲したということもあります。
━━「三つの視座」はふたたびビッグ・バンドの曲で、劇的な展開が堪能できますが、終盤で混沌とした状態になって突然のカットアウトというのが、さらに劇的な効果を上げていますね。
混沌とした部分は、あとから適当なところで切るからと言って演奏してもらったんですが、最初にミックスしてもらったときにはフェードアウトになっていたんですよ。普通、何も言わなければそうするだろうなというところなんですが、カットアウトにしたら、“これ、故障じゃないですよね?”っていう問い合わせのメールが来たりもしたんですよ(笑)。まさに思ったとおりの反応があって、嬉しかったです。
━━次の「貉」ですが、個人的に一番印象的だったのは、いかにもワルな感じの、ゴリゴリとした太いアタックのベース・サウンドで、曲調を決定づけている感じでした。1曲目のエレベの音も、曲調に合っていて良いなあと思いましたが。
「貉」ではフォデラの6弦を使ったと思いますが、ケンパーのProfiling Amplifierでフェンダーかアンペグのシミュレーションを通したら、フォデラとは思えないような音になったんですよね(笑)。1曲目もケンパーで、バキバキのスラップの音を作りました。ラインで直よりは太くてエッジが出る音になるから、存在感が出るし、モニターしていても気持ちいいですね。エレベはどの曲もケンパーを通したと思います。
━━納さんの場合、アップライトはストレート・アヘッドの王道を行くような音を守るいっぽう、エレクトリックでは曲に合わせていろいろなサウンドを作っている印象があります。ベースのサウンド作りについては、基本的にどんな考え方をしているのでしょうか。
アコースティックに関しては、昔から一貫してこのジュザック以外浮気したこともないし、好きな音色も決まっているんです。それに対してエレベは、状況に合わせて4弦、5弦、6弦、フレットレスなどを持ち替えています。エレベだとジャコやマーカス、リチャード・ボナ、ウィリー・ウィークス、ジェームス・ジェマーソンなど、曲に応じていろんな音が聴こえてくるんですよね。それじゃあ、“納浩一って何よ”っていう話になりますが、そこは七変化でええやん、と割り切っています(笑)。エレベでは七変化するけれども、アコースティックでは決まった音があって、それを全部合わせたら納浩一のベースの世界ができあがるっていう、そういうスタイルに持って行こうと、ずっと昔から思っていました。ジャコみたいに個性的なサウンドを確立しなくても、ジャズでもサルサでもレゲエでも、その音楽にとってベストな音色なりプレイ・スタイルなりを作れるようになればいいんじゃないかなと、バークリーの学生だった頃に思ったことがあったんですよね。
━━「Milesmiles」は最初のお話にあったように、アルバム中最もストレート・アヘッドなサウンドですが、EQのリユニオンも兼ねているそうですね。
EQでの活動は僕のなかでは非常に重要な時代で、今は活動できていないけれども、メンバーが集まるのはこれが最後になるなら、ひとつの形にしておきたいなという気持ちがありました。もともとEQの曲ですが、いろんな音の動きが重なり合うと、4人だとどうしてもひとつひとつの音が弱い感じがしていたので、かなり前からビッグ・バンドのアレンジにしたいなと思っていたんですよ。