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INTERVIEW − 石川紅奈

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Photo:Takashi Yashima

ミシェル・ンデゲオチェロもエスペランサも、ひとりの女性としてすごいなと思います。

━━ウッド・ベース奏者だとニールス・ペデルセンが好きと資料にありますが、彼の音楽に出会ったきっかけは?

 顧問の先生がニールス・ペデルセンを好きで、ケニー・ドリュー(p)のトリオでスタンダード・ナンバーを弾いている『By Request』というCDを部活のみんなに貸してくれました。それを聴いて、想像を絶するテクニックに“ベースってこんなことができるんだ”と刺激を受けて、そこからベースをすごく練習するようになりました。

━━高校生でジャコ・パストリアスやニールス・ペデルセンの良さをわかるというのがすごいと思うのですが、最初からスッと入ってきたものですか?

 そうですね……でも、ジャコが弾いてるウェザー・リポートの「Birdland」などは父が好きだったので、小さい頃から知っていました。だから“Birdlandの人か!”みたいな感じで入りやすかったのはあると思います。

━━そこからジャズ・ピアニストの小曽根真さんとの出会いなどを経て音楽を本格的に志し、高校卒業後は国立音楽大学ジャズ専修に入学しました。ベースは井上陽介さんと金子健さんに師事したとのことですが、それぞれからどんなことを学びましたか?

 おふたりはタイプの違うレッスンをしてくださいました。(金子)健さんはご自身のジャズ・スクールも持ってらっしゃるので基礎から教えるのがすごく上手な方で、メロディ譜に指番号が書いてある楽譜を見て、それをちゃんと弾いたり、スケールのパターンの練習などを教えてもらいました。(井上)陽介さんのレッスンはどちらかというと実践的で、早い段階から一緒にセッションをさせてもらう機会も多かったです。おふたりからは全然違うものを得ることができたと思います。

━━国音のカリキュラムのなかで習っていたんですか?

 陽介さんには半年くらい国音の受験対策も兼ねて習っていた時期がありますし、健さんもレッスンのカリキュラム的には1年で終わりでしたが、その後もスクールに通ったりしていました。おふたりからは、ベースだけじゃなくて人間的にもいろいろ教わりましたね。

━━現在メインで使用しているウッド・ベースは、高校卒業後に手に入れたものですか?

 大学に入って少し経った頃に購入しました。オリエンテのHO-30というモデルなのですが、高校の部室に置いてあったのもオリエンテだったんです。弾き慣れていたし、自分の実力もあって、そのときに自分が“鳴らせる楽器”が欲しいと思っていたんです。そうしたときに、健さんのベースをいつもメインテナンスしている方を紹介していただき、いくつか提案してくださった楽器のなかから選びました。もともと中学校の吹奏楽部で使われていたベースだったようで、2003年に生まれたけっこう新しい楽器です。

━━現在はベーシスト兼ヴォーカリストとして活動していますが、歌うようになったきっかけは?

 幼い頃から聴いてきたり、普段聴いていた音楽は歌が入ったもののほうが多くて、歌というもの自体が好きでした。それから大学のときに小曽根さんがクリスチャン・マクブライドを招いてのクリニックをやってくださり、200人ぐらいのホールで演奏しているのを観たのですが、生音で信じられない音量で弾いているのを目の前にして、“あ、これにはなれない”と思ったことも大きいです。でもネガティヴな意味ではなくて、身体や手の大きさ、力も違うのは当たり前のことなのに、なぜかそれを考えることを抜かしていたことに気づき、“同じになりたい!”というよりかは、ちゃんと“自分の音”で楽器を鳴らせるようにならないとダメなんだなと、感じさせられました。

━━それはいつ頃のことなのでしょう?

 クリニックがあったのは入学してすぐのことです。いきなりすごい演奏を観て、ショックを受けました。そのあとも在学中はベーシストとして勉強していたし、ベーシストとしても仕事していました。大学卒業後、ベースは好きだから弾き続けたい気持ちと、この先どう活動して仕事をしていこう、という不安な気持ちも抱えるなか、大学のときの“曲が覚えられない”という悩みを国音の先生でサックス奏者の池田篤さんに相談した際、“メロディを歌いながらベース・ラインを弾いてみたらいいよ”といただいたアドバイスを思い出しました。そこからベースを弾きながらメロディを歌う練習を始めました。そうしているうちにメロディをハミングするだけじゃなく歌詞を乗せて歌ってみたくなって、 “本格的に歌を習いたい”という気持ちになり、何よりわくわくしました。それでヴォーカルのレッスンも受けるようになり、ライヴのアンコールで最後の曲だけ歌う、みたいなところから人前で歌うようになりました。

━━ウッド・ベースを弾きながら歌う女性というとエスペランサ・スポルディングがまず思い浮かびますが、彼女はどんな存在ですか?

 もちろん聴いていました。ベースを弾きながら歌うことが可能なんだということを教えてくれましたし、とても希望をくれた存在です。

━━ほかに影響を受けたベーシスト兼ヴォーカリストはいますか?

 ポール・マッカートニーのベース・ライン、歌も曲も好きです。あとミシェル・ンデゲオチェロが好きです。エスペランサもそうですが、音楽家として、ひとりの女性としても尊敬しています。彼女たちには自分のスタイル、ルーツを感じる強い音楽があるし、私も日本人の自分だからこそできる音楽を作っていきたいと思わされます。

4月19日発売のベース・マガジン2023年5月号では本インタビューの続きを掲載!
メジャー・デビュー作『Kurena』の制作背景やベース・プレイについてたっぷり語ってもらいました。楽しみにお待ちください!

◎Profile
いしかわ・くれな●1994年4月16日生まれ、埼玉県出身。音楽好きの両親の影響で中学生の頃にエレキ・ベースを手に取り、高校1年生の夏にウッド・ベースを弾き始める。高校3年生のときに出会った世界的ピアニストの小曽根真に才能を見出され本格的に音楽の道を歩み始め、高校卒業後は国立音楽大学ジャズ専修でベーシストの井上陽介と金子健に師事。都内を中心に、小曽根真と神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト“From OZONE till Dawn”や壷阪健登(p)とのポップス・ユニットsorayaなど、幅広い活動を展開している。2021年に丸の内コットンクラブに出演した際のマイケル・ジャクソン「Off The Wall」の弾き語り映像は、ジャズでは異例の160万回以上の再生数を記録した。2023年3月にオリジナル曲とカバー曲を3曲ずつ収録した『Kurena』でジャズの名門ヴァーヴ・レーベルからソロ・アーティストとしてメジャー・デビューを果たした。
◎Information
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◎『Kurena』
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