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新井和輝(King Gnu)が語るベース・キャリアの全貌【インタビュー前篇】
- Interview:Shutaro Tsujimoto(Bass Magazine)
- Photo:Kosuke Ito
CHAPTER 3
音楽家としての幅を広げた
ジャズやエレクトロニックからの影響
もともとはプレイヤー的なマインドが強かったので
「生で演奏してない音楽ファック!」
みたいな感じだったんですけど(笑)。
やっぱりジェイムス・ブレイクの衝撃ですかね。
──新井さん自身、ロバート・グラスパーのようなリアルタイムのジャズをどう見ていましたか?
グラスパーの周辺はやっぱりセンセーショナルでしたね。当時は、ジャズはストレートアヘッドなものよりもリアルタイムのものがカッコいいと思っていました。もちろんグラスパーやデリック・ホッジには影響を受けてきましたけど、今は逆にビバップとかトラディショナルなものを聴くことのほうが多いですね。
──最近はどんなものを聴いていますか?
フィリップ・ノリスっていう、エメット・コーエン(p)のバンドとかで弾いてるウッドのベーシストは今かなりホットですね。去年ブルーノートに師匠の河上さんと観に行ったんですけど、もううますぎて(笑)。飛び道具的なソロとかが一切なくて、スケールも決してアウトしないで素晴らしいものを聴かせる人で、めちゃくちゃ正統派なジャズで自分を表現してるところが最高だなって。
──ウッド・ベースは大学時代に始めたとのことですが、自身のなかでどういう位置付けだったんですか?
最初は“エレベに還元させるため”と思って始めたところはあったんですけど、師匠の河上修さんのウッド・ベースが強烈なので徐々に魅力を感じるようになっていきました。ちなみに大学のときはビッグ・バンドもやってましたけど、そこではウッドじゃなくてエレベでやってましたね。
──ウッド・ベースを学んだことでエレベに還元されたものは何だったと思いますか?
ウッド・ベースって弓もあるし、音価をコントロールする方法が違うじゃないですか。基本的な弦楽器の作法って“減衰する弦の振動に対してどこで左手を離して止めるか”だけど、ウッドは逆に音量を上げていくこともできるし音の長さも操れる。それを経験することでエレベで弾くメロディもより有機的になったり、知らず知らずのうちに還元されてるんだろうなとは思います。
あとは、ミュートのニュアンス。King Gnuの「硝子窓」は、レコーディングでは手刀でミュートして弾いているんですけど、ミュートならではの“おいしさ”みたいなものはウッドをやることで自然に蓄積されている感じはしますね。ウッドとエレキはやっぱりおいしいところが違うから、“お互いに還元”というよりは、お互いのおいしい部分の違いを体感でわかっていった感覚です。
──新井さんのウッド・ベースがじっくり聴ける作品というと、甲田まひる(p)さんの『PLANKTON』(2018年)ですね。石若駿(d)さんとのピアノ・トリオ作品です。
これは河上さんのベースで弾いたからそれも相まって超大変でした。半ベソかきながら練習していましたよ。やっぱりジャズに対するコンプレックスは一定以上あるし、そのなかで人の楽器を使って全篇ウッド・ベースで、しかも石若とっていうのはかなりシビれたっすね(笑)。
──石若さんとの出会いはいつでした?
石若の存在を知ったのは、日野元彦(d)さんの追悼ライヴを日野皓正(tp)さんが毎年六本木のアルフィー(Jazz Live Alfie)でやっているんですけど、ベースがJINOさんだったのでローディーとして行ったときです。駿はその日に俺がいたことは覚えてないと思いますけど、同い年のやつが日野皓正さんとバキバキにやってるのを観て“ヤバっ”て思わされたのが最初の出会いで。
──最初に共演したタイミングはいつですか?
俺が下北沢のMusic Bar rpmでセッション・ホストをやってたときに、石若が飛び入り参加してくれて。ちょうど安藤康平(MELRAW/sax)と石若が仲良くなったタイミングで、俺と安藤くんはもともと友達だったので彼が呼んでくれたんだと思うんですけど。フライヤーを見ると2015年6月のことなので、Srv.Vinciに入ったのと同じ時期ですね。
──石若さんも、この頃すでに常田さんのソロに関わってましたよね。
そう。なので、たぶん下北でのセッションの次に石若と一緒になったのはミレパかな。当時は“Daiki Tsuneta Millennium Parade”名義だったと思うんですけど。
──エレクトロニック系の音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか? 新井さんのシンべを多用するスタイルにもつながると思うので聞いてみたいです。
もともとはプレイヤー的なマインドがかなり強かったので“生で演奏してない音楽ファック!”みたいな感じだったんですけど(笑)。やっぱりジェイムス・ブレイクの衝撃ですかね。そこからエクスペリメンタルなエレクトロに興味を持って。あとは同時期に大希に出会って、大希が作ったそういうトラックを聴くようになったのも大きいです。初めてカッコいいと思わされたのが大希のビートだったし、MetomeとかSeihoとか、日本人のビートメイカーの音楽も掘るようになって。あとはバンドだとyahyelも出てきた頃で、「Once」(2016年)とかめっちゃ聴いていました。
──元yahyelのMONJOE(杉本亘)さんとは2022年に「Lambo」でコラボしていますね。
MONJOEは一番好きなトラックメイカーのひとりですね。大希とMONJOEと、あとはFriday Night PlansでトラックメイクをやっていたTeppei Kakudaくんも大好きです。
──海外のビートメイカーについてはどうですか?
特に好きなのは、ムラマサ、フルーム、ボン・イヴェールとかですね。あと最近はスクリレックスがホットで、「千両役者 (ALBUM ver.)」のビートでもリファレンスにさせてもらいましたけど。それから、大希と出会ったくらいの時期はちょうどフライング・ロータスの『You’re Dead!』(2014年)とかが出てきたタイミングだったんですよ。
──サンダーキャットのベースですね。
そうそう。アブストラクトなビートにエレベを組み合わせるアプローチが流行り出していて。その動きと俺らがやっていたことも少しはリンクしていたような気はします。
▼ インタビュー後篇に続く ▼
◎Profile
あらい・かずき●1992年生まれ、東京都出身。大学時代に勢喜遊(d)を通じ、常田大希(g,vo)、井口理(vo)と前身バンドSrv.Vinciとしての活動を開始。2017年4月のKing Gnu始動以降も、さまざまなアーティストのライヴやレコーディングに参加し活動の幅を広げている。King Gnuとしては2023年11月29日に約4年ぶりとなる新作アルバム『THE GREATEST UNKNOWN』をリリース。2024年1月から3月にかけては全9公演、約38万人を動員した全国5大ドーム・ツアー“King Gnu Dome Tour「THE GREATEST UNKNOWN」”を開催、4月からはアジア諸国4都市7公演をまわる初のアジア・ツアーを行なった。2024年9月25日(水)には、5大ドーム・ツアーの東京ドーム公演の模様を収めた初の映像作品『King Gnu Dome Tour THE GREATEST UNKNOWN at TOKYO DOME』を発売。また、11月27日(水)には『THE GREATEST UNKNOWN』のアナログ盤がリリースされた。2025年2月からはファンクラブツアー「KING GNU LIVEHOUSE TOUR 2025 CLUB GNU EDITION」を開催する。
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◎本記事が掲載されている号
『ベース・マガジン2024年5月号(SPRING)』では本記事に加え、新井が『THE GREATEST UNKNOWN』や5大ドーム・ツアーなど最新モードについて語るインタビューのほか、ドラマーの勢喜遊とのリズム体対談、フロントマンの常田大希が語る新井の魅力、愛器紹介、ディスコグラフィなども掲載! さまざまな角度から “King Gnuの低音論”に迫る、全40ページにわたる総力特集となっています。
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■Featured Bassist
新井和輝(King Gnu)
King Gnuの低音論――最強バンドの深淵に宿る、ローエンドの哲学
<コンテンツ>
Interview1 新井和輝〜『THE GREATEST UNKNOWN』とは何だったのか
Interview2 新井和輝 × 勢喜遊〜リズム・セクションが明かすKing Gnuのライヴ哲学
Interview3 常田大希〜コンポーザーが語る“King Gnuのボトム”
Interview4 新井和輝〜ロング・インタビューで辿る、ベース・キャリアの全貌
Playing Analysis King Gnuのベース・ライン〜エレキ・ベース篇/シンセ・ベース篇
Discography 参加作品で辿る新井和輝の軌跡
Kazuki’s Gear 新井和輝の愛器を徹底解剖
Selected Scores ベース・スコア「一途 (ALBUM ver.)」、「硝子窓」