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フクダヒロムが語る、Suspended 4th『SLEEPLESS』での新たなる“ベース・ヒーロー像”
- Interview:Koji Kano (Bass Magazine)
国内ベース・シーンにおいて圧倒的な存在感を放ち続ける、新世代を象徴するベース・ヒーロー、フクダヒロム。そして驚異的なアンサンブル力を武器にロック界を席巻する4人組が、フクダの“ホーム”であるSuspended 4thだ。
前作より5カ月のインターバルでリリースされた最新EP『SLEEPLESS』には、彼らの現在地を指標する6曲が収録。そのなかでフクダの放つ低音に耳を傾けると、強烈な“フクダ節”とともに、ベーシストとしての新たなる形姿も存在していた。
現在発売中のベース・マガジン2025年5月号でもフクダのインタビューを掲載しているが、ベーマガWebでは本誌に入りきらなかった別内容のインタビューをお届けする。今作の制作を通して見出したという、フクダの新たな“ベーシスト像”に迫っていきたい。
“ちゃんとバンドをやってみよう”ってテーマができあがったんです。
——今作『SLEEPLESS』と前作『STORMED』(2024年11月発売)は、制作時期が同じだったと伺いました。ついては、両作品に共通するテーマなどはあったのですか?
今までのSuspended 4thって、メンバー同士が演奏で殴り合っているような、“俺が俺が!”って主張をぶつけ合いまくりながらも、そのなかでちゃんと音楽を成立させているイメージだったんです。でも『SLEEPLESS』と『STORMED』の2枚を作るうえで、“ちゃんとバンドになってみよう”というテーマがありまして。
——“スリリングなアンサンブルで魅せていく”というのはサスフォーの個性でもありましたよね?
そう。今までの殴り合うようなスタイルもサスフォーの個性だったんですけど、そうじゃなくて、ぶつかり合うというよりかはお互いを引き立て合う、出るところは出て引っ込むところは引っ込むという、“ちゃんとバンドをやってみよう”ってテーマができあがったんです。そのひとつのきっかけとして、新しく正規ドラマーとして吉村(建太郎)の参加が決まったことも大きくて、彼がサスフォーに新たな風を吹き込んでくれたんですよね。僕個人としても、今まではとにかく技を入れ込む、エゴをぶち込みまくるベース・ラインだったのが、引くところは引く、いわゆる“ベーシストらしいプレイ”に切り替えたのが前作『STORMED』からのテーマだったんです。

ピザ・オブ・デス/PZCA-112
——『SLEEPLESS』では吉村さんのほかに、箱木駿さん、諸石和馬さんという3名のドラマーが参加されていますよね?
はい。まだ吉村の正式加入前だったこともあって、せっかくならいろんなドラマーに頼みたいね、と。“この曲にはこのドラマーが合うんじゃない?”といったように、楽曲に合わせてドラマーをチョイスする形で制作していきました。贅沢でしたね(笑)。
——今作でのフクダさんのベース・プレイに耳を傾けると、もちろん注目点は目白押しなのですが、まず「DYNAMIX」は5弦ベースでのプレイですよね?
フェンダーのアメリカン・デラックスの5弦を使いました。5連ペグ期のもので、確か1998年製かな? 最近のライヴでは5弦のメインとして使っているモデルです。デフォルトだと白のピックガードなんですけど、それを黒のものに変えました。
今までのサスフォーだと、チューニングが低い場合、ドラムとベース間で音域の乖離がすごくて、Eより下の音を使うとアンサンブルとして成立しないような感じがあったんです。それもあってチューニングを下げた楽曲をあんまり作っていなくて。でもドラマーが変わったことでリズム体にも変化が生まれて、もっと下に行っても成立するかも、ということで完成した曲なんです。
——特にAメロ部分では、白玉のローB弦による地鳴り感と高音弦のスラップのコントラストがすごく際立っていました。
例えば3弦やローBのオクターヴ上とかでスラップを弾いても良かったんですけど、それだとなんか突き抜けて来なくって。馴染んじゃうというか。なのであえて高音弦で弾くことで耳に突き刺さるような、フックのある感じに聴こえているのかなって思います。そこはちょっと狙ったポイントなんですよ。
——その他のセクションでは一貫した16分が疾走感を生み出しています。
そうですね。サビではずっとサムのダウン・アップを続けているんですけど、これはBULL ZEICHEN 88の「虹」のベース・ラインを引用しているんです。「虹」は4分半くらいの曲なんですが、1曲通してずっとダウン・アップで弾き切っていて、ほぼ筋トレみたいな、筋肉がないと絶対弾けない曲なんですよ。
——どういった流れでBULL ZEICHEN 88の「虹」をインスパイアしたんですか?
「DYNAMIX」のデモが来たとき、ベースはひたすら16分を刻んでいる状態だったんです。そのテンポ感とか、ひたすら16分を刻んでいる感じを受けて「虹」のベース・ラインが頭をよぎったんです。“これしかない!”と思って、IKUOさんに直接LINEして、“どうしても「虹」みたいなベース・ラインを使いたい楽曲があるんですけど使ってもいいですか!?”って聞いたら、ふたつ返事で“いいよー、楽しみ!”ってお返事をいただいて使わせていただきました。
ちょっと変えているので、完全に引用というわけではないんですけどね。「虹」を聴いたことがない人がいたらぜひ聴いてみてください。多分“あ、これね!”ってなると思います。
——今回のように聴いてきた楽曲が自身のフレーズとして生きた、みたいなことは多々あるんですか?
少なからず自分が楽器を始めたての頃によくコピーしていた楽曲とか、ルーツになったフレーズは脳内に焼き付いていて、それが実際のフレーズに引用されるケースはよくありますね。今回とはちょっと違う話かもだけど、1stシングル「KARMA」でのタッピングは、レコーディング当日までフレーズが決まっていなくて悩んでいたとき、レコーディング・スタジオで流れていた『ウォーキング・デッド』の曲から閃いたもの。
ストリングスのフレーズを聴いたとき、“これ使えるかも?”と思って、引用して「KARMA」に入れたんです。なのでそういう風にインスピレーションを受けてアレンジするっていうのは僕の場合けっこうあるかもしれませんね。ただ今回の「DYNAMIX」は、もう明確に「虹」が脳内に出てきて、“これしかない!”って感じでした。

ともに切磋琢磨して成長していけるドラマーって感じですね。
——「BURNIN’ SQUAD」では、ギターとのユニゾンをメインにシンプルなベース・フレーズで構成されていて、それが楽曲のヘヴィ感、ラウド感に関与していると思いました。
まさにそうですね。この曲だとBメロ以外は“ベーシスト”に徹している感じです。ここでヘタにベースがウネウネしちゃうと曲の重厚感がなくなっちゃうので、僕はあくまでもベース・ラインに徹しつつ、Bメロだけはビートの感じが変わるので変化を付ける意味でもスラップに展開しました。
——ここでのスラップは、いわゆる“ベーシストとしてのスラップ”の使い方といいますか……
はい、僕のイメージにはあまりない、楽曲に寄り添ったスラップ・フレーズと言いますか、テクニカル系ではないフレージングですよね。ここも冒頭で話した、“ちゃんとバンドになる”っていう心境の変化が表れている部分だと思います。これまではあまりそんなこと考えてもいなかったんですけど(笑)。
——楽曲に寄り添ったというと「CENTRAL HELL」もその印象が強いです。
これは難しい曲ですよね。コード進行が“そういくの!?”って感じで。鷲山(和希/vo,g)の天邪鬼な性格がよく出ている曲だと思っています。これに関しては僕に馴染みのないコード進行だったので、あまり複雑なことをできなかった、っていうのが正直なところですね。楽曲的にも、楽器陣よりもヴォーカルのメロディが際立つほうがいいバランスだと思ったので結果的にうまくまとまりましたけど、ベース的には少し悔いが残るというか、もうちょっと凝ったことをしても良かったなって気持ちもありますね。
——こういったバキバキでモダンなサウンドの楽曲もあれば「Set Me Wonder」のようなドライ音に振り切った楽曲もあったりと、今作は音作りの面でも興味深いなと思いました。
「Set Me Wonder」なんて全然歪ませてないですからね。しかも僕が普段使わない、トーンを絞ってリア・ピックアップで弾くというセッティングで、これは鷲山からの要望に基づいてセレクトした音色なんです。“そういう音が欲しいならリアでトーンを絞るしかないわな”って感じで。
——渋い、というか、これまでのフクダさんのイメージにはなかったサウンドですよね。
そう。だから僕もすごく新鮮で、この曲をきっかけにジャコ・パストリアスにいよいよ興味を持ち始めたり。今までは“僕のプレイスタイルとは違うかな?”ってところでちょっと避けていた部分があったんですけど、“ジャコみたいなスタイルやサウンドもカッコいいじゃん!”って興味が湧いてきましたね。
——基本的に足下のエフェクターで音作りしたんですか?
そうです。でも鷲山がミックスしているので、そこで音色がいじられていることもあると思うんですけど、基本的に音作りは自分の足下で完結させています。
——今作のレコーディングのために新しく導入したエフェクターはありますか?
いっぱいありますよ! 例えばワウ・ペダル(ジム・ダンロップ/JCT95 JUSTIN CHANCELLOR CRY BABY WAH)ですね。これはトゥールのベーシストのジャスティン・チャンセラーのシグネイチャー・モデルなんですけど、ワウとフィルターとファズが合体したペダルなんです。「BURNIN’ SQUAD」のイントロからAメロに切り替わるところのフィルターとして使っていて、エンジニアにプラグインで音作りしてもらうっていう手段もありましたけど、あえてアナログにこだわったセクションなんです。
——「BURNIN’ SQUAD」のフィルター・ファズ部分、どうやって音作りしたのか気になったんですよ。
ですよね。おもしろい音作りができたと思っています。「BURNIN’ SQUAD」だと、ボスのODB-3も使いました。普段はあまりボス製のエフェクターはバンドで使わないんですけど、ODB-3特有の、あの尖った感じが欲しくって。
——アメリカン・デラックスの5弦以外に、今作で使用したベースを教えてください。
アメデラ以外だと、メインの1961年製のジャズ・ベースと、「BURNIN’ SQUAD」で使った半音下げ用のカスタムショップ製ですね。5弦は「DYNAMIX」、「Set Me Wonder」、「CENTRAL HELL」で使いました。
——冒頭に新ドラマー吉村さんのお話もありましたが、リズム体として、吉村さんとのコンビをどのように感じていますか?
すごく学ぶことが多いです。「Set Me Wonder」における、バック・ビートの概念をバンドに持ち込んでくれたのも彼だし、そういったものに順応した結果、バンド全体のグルーヴがガチっと合うようになった。よりちゃんとした形でライヴでも表現できるようになってきたので、すごく彼からは恩恵を受けていますね。
ビートが安定していて“俺はここだぞ”って存在感がしっかりとあって、そのうえでフレキシブルにみんなの音を聴いて臨機応変に立ち位置を変えてくれる。あと誰かがズレていきそうになったら助けてくれたりとか。全体を見れるドラマーなので、ベーシスト的にも助かっています。今までのサスフォーのドラマーとはタイプが全然違うし、ともに切磋琢磨して成長していけるドラマーって感じですね。
——そんなリズム体の真価が観られる、『SLEEPLESS』ツアーも5月から始まりますね。
そうなんです! やっぱり学生さんとかだとチケット代がネックになっている人もいるんじゃないかなと思って、今回のツアーはチケット料金を1,000円下げたんです。だから“サスフォーは知ってるけどライヴは行ったことない”という方も、今回のツアーにはぜひ来てほしいです。特に若い世代は“U-22割引チケット”もあるので。とにかくいろんな人に今のSuspended 4thを観てほしいと思っています。ぜひライヴに遊びに来てください!



Web版では触れていない3曲でのベース・プレイのほか、抜き譜例を用いたフレーズ解説など、別内容でお送りしています。
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◎Profile
1994年11月3日生まれ、愛知県出身。小学生でドラムを、中学1年でギターを始め、中学3年でベースを手にする。マキシマム ザ ホルモンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズに影響を受け、スラップに開眼。2014年に結成されたSuspended 4thに2015年に加入し、名古屋市栄での路上パフォーマンスが話題を呼び、2019年に1stミニ・アルバム『GIANTSTAMP』でピザ・オブ・デスからデビューを果たす。2025年4月2日に3rdミニ・アルバム『SLEEPLESS』をリリースし、5月からは全公演ワンマンで行なわれるリリース・ツアー“SLEEPLESS TOUR”を開催する。
◎Information
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