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    サム・ウィルクスが語る“エレキ・ベースの伝統”と“エフェクターの魔術”

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Translation:Mariko Kawahara
    • Photo:Hide Watanabe
    • Special Thanks:Billboard Tokyo

    2024年10月30日(水)の福岡・早良市民センターを皮切りに、静岡県の掛川で開催される“FESTIVAL de FRUE 2024”を含め全国7ヵ所での来日公演を行なうサム・ウィルクス。ここでは来日を記念して、昨年10月に本誌が行なったインタビューをWEB版として再掲する。

    鍵盤奏者のジェイコブ・マンとのデュオでのビルボード東京公演の際に敢行した本インタビューでは、彼らのデュオ名義のアルバム『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』(2022年)、そしてサムがソロ名義で2023年10月に発表した『DRIVING』の話を中心に、ルーツやベーシストとしての美学を語ってもらった。エフェクトを駆使しエレキ・ベースの可能性を拡張するLAアンビエント・ジャズのキーマンは、いかにして現在のスタイルを確立したのか 。その裏側に迫った。

    僕はもともとジェームス・ジェマーソンが好きだったから、エフェクターなんか無関係だと思っていた。
    だけど、ティム・ルフェーヴルの影響で初めてオクターバーを買ったんだよ。

     両方入っているよ。ジェイコブと約1年間をかけて5、6回セッションを行なったんだ。セッションでは、自由にインプロをやったものも録ったし、どちらかが作ってきた曲や共作した曲にも取り組んだ。過去のセッション素材から、取り組む価値があると思われるものに肉付けしていったものもあったね。さまざまなプロセスで作られた曲が収録されたアルバムなんだ。

     全部ベースの音なんだよ(笑)。ハーモナイザーやオクターバー、ディレイ、リヴァーブ、コーラス、ヴィブラート、フランジャーといったモジュレーション系のエフェクトを使っているよ。

     このプロジェクトでは大抵の場合、ペダル・ボードだけで音を作っているよ。あとがけをするとしたら、Eventide H3000のステレオ・エフェクトかローランドのRE-201 Space Echoを使うくらいだね。フレットレス・ベースを使った「Soft Landing」では、H3000とSpace Echoを使ってベースが全体の音像にしっくり収まるように調整したんだ。

     素晴らしい表現だね。

     僕はプレベの発明から始まった“エレキ・ベースの伝統”に強くインスパイアされているんだ。モンク・モンゴメリーからジェームス・ジェマーソン、ウィルトン・フェルダー、チャック・レイニー、ピノ・パラディーノ、キャロル・ケイまで、プレベにはエレキ・ベースの伝統が宿っているからね。もちろんジャズ・ベースやリッケンバッカーも大好きなんだけどね。

     メインで使っているブルーの1966年製フェンダー・プレシジョンと、今回持ってきている1983年製の黄色いプレシジョンだね。1966年製は2010年にニューヨークのRudy’s Musicで手に入れた。そこにあったヴィンテージのフェンダーを全部試してみたよ。僕のベースの試し方はいたって単純でね、4弦3フレットのGを弾くだけなんだ。あのベースでそれを弾いたとき、僕の魂全体が震えたのを憶えているよ。自分がそのサウンドと強烈に結びついたんだ。“これだ!”と思ったね。

     常にラウンド・ワウンド弦だね。選択肢が広がるからさ。僕はソウルと同じくらいロックンロールも弾きたいし、スラップも好きなんだ。偉大なフレディ・ワシントンはPベースでスラップをしていたけど、フラット・ワウンド弦を張っていたら僕は彼のように弾くことができない。一方で、ラウンド弦でも左手で弦をミュートすることでフラット弦のようなサウンドを作ることができるからね。

     そうだね。3本でとってもソフトに触れているよ。

     そう。19歳のときに「What Is Hip?」を当時通っていたUSC(南カリフォルニア大学)でプレイしたんだけど、あれで僕の人生は完璧に変わったね。「What Is Hip?」を耳コピしたことであの奏法を習得して、そこからレコーディングでも活用するようになったんだ。

     サウンドが変わってしまうからね。演奏性よりも、何より大事なのはサウンドで、僕はレオ・フェンダーが意図したとおりのサウンドが好きなんだよ。それに、僕はその不自由さ自体も愛してるんだ。


    ▲ツアー用の1983年製フェンダー・プレシジョン・ベース。2014年にロサンゼルスのNorman’s Rare Guitarsで手に入れた。“ツアーに1966年製は持って行きたくなくて、別のベースが必要だった。その日、お店にはプレベが5本あったんだけど、これが僕のサウンドに一番近かったんだ。でも、この楽器の弾き心地が良くなったのは2021年になってから。2020年にウッド・ベースを始めたことが関係していて、ウッドの練習をとおしてサウンドにより気を配ることができるようになったんだ。このベースも今じゃ超気に入っているんだよ。1966年製とは少し違うけど、どちらも素晴らしいベースだよ”。

     コードが大好きなんだ。アンサンブルのなかでベースを弾くときにも、コードのオーケストレーションが自分の望んだとおりに鳴っていないときにはフラストレーションを感じていた。それであるとき、ポップ・シンガーと仕事をした際にベースのみでコードを伴奏する機会があったんだけど、そこから通常のベース的な演奏よりもハーモニックなプレイをするほうが楽しいと思うようになったんだ。その後、サム・ゲンデル(sax)とデュオをやるようになって、僕のエフェクト・ボードも巨大化し、そこからは別次元のハーモニックな世界が広がった。彼とのデュオをとおして、僕は真の伴奏者になっていったんだ。

     トニー・レヴィンとティム・ルフェーヴル。僕はもともとジェームス・ジェマーソンが好だったから、エフェクターなんか無関係だと思っていた。だけど、ティムの影響で初めてオクターバーを買ったんだよ。ボスのOC-2だった。ティムは現代の最も重要なベーシストのひとりだと思っていて、彼の“楽器から音を引き出す”アイディアは革新的で天才的さ。彼のオクターバーの使い方は奥が深いよ。ティムは、ダリル・ジョーンズとトニー・レヴィンから影響を受けているはずだよ。

     トニーはキング・クリムゾンでの活動はもちろん、ポール・サイモンやジョン・レノンとのセッション・ワークも好きだけど、一番すごいのはピーター・ガブリエルとのプレイだと思う。「Sledgehammer」でのOC-2とフレットレスを使ったプレイとかね。あと僕は、アンソニー・ジャクソンの大ファンでもある。オージェイズの「(For the Love of) Money」で、ディレイやリヴァーブ、フランジャーを使っていたプレイは素晴らしいし、彼がチャカ・カーンと一緒にやった作品では、よくコーラス・エフェクトを使っているよね。そのアイディアがエンジニアのアリフ・マーディンのものかアンソニーのものかはわからないけど、とにかく素晴らしいよ。

     マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズとザ・スミスのジョニー・マーを愛してる。あと、レディオヘッドが大好きだから、ジョニー・グリーンウッドもだね。それからワー・ワー・ワトソンも大好き。彼のワウやディレイの使い方にはインスパイアされていて、そもそも僕がステージで座って弾くのは彼の影響なんだ。学生の頃、何度か電話で彼と話す機会があったんだけど、“どうして座って弾いているんですか?”と尋ねると、“座って金をもらえるんだったら、なぜ立つ必要がある?”と彼が言っていて(笑)。最高にクールだと思ったね! それから僕も座って弾くことにしたよ。まぁ、ふたつのペダルを同時に踏んで弾かないといけないっていう理由もあったんだけどね。

     それから、僕のベース・サウンドのもうひとつのインスピレーションはルイス・コール。ルイスのシンセ・ベースは本当に素晴らしくて、ノウアーでプレイすることは僕にとってとても重要なことなんだ。エレキ・ベースで、できるだけルイスのシンベに近い音を出すよう心がけているけど、これが本当に大変なんだよ。ペダルをたくさん使うようになったのは、ノウアーのためというのも大きかったよ。あとはフィッシュのマイク・ゴードンにも影響を受けた。ベースを始めた頃にインスパイアされていたけど、彼もまたトニー・レヴィンの大ファンなんだよな。グレイトフル・デッドのフィル・レッシュも大好きだね。

     それはシークレットにしていて……ゴメンね。

    ジャヴァンの「SEDUZIR」でのフレットレスが大好きでね。

     サウンド、テクスチャー、ハーモニーだね。インディ・ロックの多くのミュージシャンは、メジャー7thのコードが大好きなんだ。もっとエレガントに表現すると、彼らは絵画でいう“印象派”的なハーモニーが好きなんだよ。ジャズ・ミュージシャンほど深く理解して使っているわけではないとしても、僕は彼らのコードの使い方に惹かれるんだ。特にブロークン・ソーシャル・シーンやザ・スミス、
    コクトー・ツインズ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインといった人たちがそうだよ。まだまだ名前は挙げられるけどね。

     ここで使ってるのは僕が最初に買ったマーカス・ミラー・モデルのジャズ・ベースで、フレットレス用にネックを交換したものなんだ。この曲では、ロー・ボルジェスとミルトン・ナシメント、あとジャヴァン(Djavan)にインスパイアされている。特にジャヴァンの「SEDUZIR」でのフレットレス・サウンドが大好きでね。

     この曲はアコースティック・ギターで作ったんだけど、頭のなかでウッド・ベースが聴こえてきたんだよね。確かワンテイクで録ったと思うよ。至って自然な反応で弾いたパートだったんだ。

     常に勉強することと、音楽の基礎を見直し続けることの大切さだね。耳を磨き、スケールやハーモニー、コード・トーンを理解すること。メトロノームを使ってタイム感を養うこと。そして常に時間をかけて自分を表現すること。アルフォンソはそれらの練習プロセスを磨いてくれて、僕がより良いミュージシャンになる手助けをしてくれた。僕は毎日、彼のもとで学んだことを感謝しているんだ。

     実はあの曲には2種類のベース・トラックが入っているんだ。僕が送ったふたつのベース・トラックが両方採用されていてね。ひとつはメインのトラックで僕らしく弾いたもの、もうひとつは白紙が最初のデモで送ってくれたシンプルなベース・トラックをもとに、最善を尽くして僕のサウンドに飾り立てたもの。ベーシストとして僕を雇う人は、彼らが考えたパートを少しでも良くしてほしいと思っていることが多いから、僕はそれを決して怠らない。必ず送られてきたものを完璧に覚えて演奏したものを送るけど、同時にそれとはまったく違うアプローチを提案することも大切だと思っている。だから僕は両方やったんだ。そして白紙は両方ともを気に入ってくれたので、どっちも使ったんだよ。とても複雑な曲で、フレーズを覚えるのがかなり難しかった。クレイジーなコード進行のなかで16分の7拍子とか、8分の9拍子とかが出てくるから複雑なんだ。でも素晴らしいのは、音楽性が最高に豊かだってこと。白紙は、別に変拍子の嵐にしたかったわけじゃないと思う。いちいち拍を数える必要は実はなくて、それは音楽的に完成されたフレーズだからなんだ。あの曲のおかげで、僕は間違いなくより良いミュージシャンになったと思うよ。

     ルイス・コールを通じて源から連絡があり、僕に曲を送ってくれたんだ。コードがクレイジーだったな(笑)。コード表がなかったから、まずはハーモニーを知るためにピアノで耳コピして譜面を作った。それから3種類のテイクを録って送り、源はそのうちのひとつを採用してくれた。すごくうまく行ったよ。でも演奏はすごく難しかったな。実際にはデータのやり取りで作業しているけど、僕とルイスが一緒にいるようなフィーリングで弾かないといけなかったからね。

    ◎Profile
      サム・ウィルクス⚫︎ロサンゼルスを拠点にするジャズ・ベーシスト、作曲家。“スケアリー・ポケッツ”のメンバーとしての活動や、チャカ・カーンやジェイコブ・コリアーとのサイドマンとしての共演など幅広く活躍し、日本ではルイス・コール率いるノウワーへの参加やサム・ゲンデル(sax)とのデュオ作品でその名が知れ渡った。2018年に初のリーダー作『Wilkes』を発表。2022年にはジェイコブ・マン(k)との『Performthe Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』、2023年にはソロ名義の最新作『DRIVING』が高い評価を集めた。また2023年は長谷川白紙や星野源といった日本人アーティストとのコラボレーションも話題となった。

    ※本記事は『ベース・マガジン2024年2月号』のコンテンツをWEB用に再構成したものです。