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INTERVIEW – 岡峰光舟[THE BACK HORN]

  • Interview:Koji Kano

今作は全体通して12フレットより上に行く
ってことはあんまりなかったかもしれない(笑)。

――「ユートピア」はギター・バッキングに合わせた休符の効いたリフで構成しつつ、サビ後半で一気にメロディアスに展開しています。この切り替えは楽曲が一気にひらけたようなイメージです。

 うん。そこは目指したところかもしれない。最初はシンプルに鼓動のようなベースから始まって、Bメロで一瞬『宇宙戦艦ヤマト』のガミラス帝国みたいなシンセ音が出てくるんですけど(笑)、これをベースで弾いているんですよ。そういうおもしろさも入れつつ、サビはドッシリしつつもダンサブルな感じというか、ジャミロクワイとかマルーン5みたいなちょっとオシャレなハネ感を出したかったんです。マイナー・コードでもハマる感じにしていくと、“THE BACK HORN流ダンサブル”なサビになるというか、ダークなグルーヴになるんですよね。

――2番Bメロ後はフレーズ/サウンドともにかなり尖ったスラップ・ソロに移行します。ここはかなり攻撃的に歪んでいますが、音作りやフレーズ感はどのように?

 ここはベーシストらしいベース・ソロというよりは、ちょっと尖った、ナイフで切り裂くようなフレーズ感をイメージしました。結構いろいろな音を重ねていて、Logic上で加工したトラック、Line 6のHX Stomp内のエフェクトでいじったトラック、(pandaMidi Solutions製)Future Impactでいじったトラックと、ひとつの音を複数のトラックに分けて音作りしているんです。それらをミックスさせることで、混沌としている感じが表現できたと思います。

――確かに複数のキャラクターの音が混在している感じはしました。

 栄純からのデモ段階だと、鍵盤の低いベース・シンセの音色が入っていたので、その感じでやりたいなとも思ったんですけど、人力では限界があるというか、シンべのように抜けてこなかったので、多数のエフェクトを加えて変化を持たせた、逆にローを削ったイメージのサウンドになっていますね。

「ユートピア」MUSIC VIDEO

――「疾風怒濤」でもスラップを聴くことができますが、Aメロのフレーズはスラップと指弾きを組み合わせた緻密なフレーズ展開になっていますね。

 まさにそのとおりで、スラップと2フィンガーを切り替えて弾いていて、小節の最後の部分のみプルでアタックを際立たせた展開にしています。2番からは歪んだ状態でのスラップになっていて、スラップの細かい感じは出ていないけど、蠢いている感じをイメージしました。その違いがおもしろく表現できたと思います。

――Bメロでの攻撃的に歪んだ大胆なサステインを始め、この曲は今作中でも特に攻めたベース・プレイになっていますよね。

 この曲はトリッキーでおもしろいですよね。実はこの曲だけ制作時期が違って、2017年の『情景泥棒』の頃に作った一曲なんです。曲自体はおもしろいけど作品に入れるには馴染まなかったこともあって、しばらく棚上げしていたんですよ。ただ改めて聴き返してみると、今風にアップデートしたらハマるんじゃないか、ということでリアレンジして今の状態になりました。今作のなかではカオスな曲ではあるけど、時代にもアルバムの流れにもハマる一曲になったと思います。

――多種なジャンル感が混在するところが“カオス”を感じさせますね。

 そうですよね。この曲こそ特にジャンル感も考えずに“なんちゃって”で弾いてる部分があって、レゲエ風な部分もあくまでも“レゲエっぽさ”を意識しています。イントロのベース・フレーズは栄純が持ってきたんですけど、彼が作った“なんちゃって感”が逆に曲の胡散臭さにハマってるし、“この人嘘ついてそう”みたいな怪しさがありますよね(笑)。

「疾風怒濤」MUSIC VIDEO

――バンドの新たな一面でもあるジャズ・テイストの「戯言」は管楽器や鍵盤などサウンドも多彩ですが、全体を通してベースがアンサンブルをリードするアレンジになっています。

 ジャズやジャズ・パンク的な要素で考えると、ランニングしていく感じに引っ張られるところですけど、フレーズを作るうえで大事なのってやっぱりグリスだと思うんですよね。そういったニュアンスを入れることでうねり感やリード感が出てきますから。歌が入ってからはシンプルに音数を減らしつつ、大きなグリスでうねりを出してローで支えて曲を引っ張っていく感じを意識しています。サビはシンプルなんだけど、こだわって休符を入れていて、それもノリを出すためには必要な要素ですよね。

――ビートが目まぐるしく変わるなか、それぞれで異なるキャラクターのフレーズを展開していますね。ただ、ハイポジに行きがちな部分を我慢して、あくまでもロー・ポジションで重心を低く構えているような印象も持ちました。

 今作は全体通して12フレットより上に行くってことはあんまりなかったかもしれない(笑)。シンプルにどっしり鳴らしたいっていう思いに引っ張られた部分かもしれないし、この曲はテンポ・チェンジもいろいろあるけどリズムで引っ張っていく曲だと思ったので、そういう意識がより低音的な意識になった要因でもあるのかな。音色もジャジィな感じならもっといなたい音がハマるとは思うんですけど、あえてフラット弦を張ったアクティヴのJBタイプでギラっとした音にしています。それが自分らしさであり、自分なりの表現方法、アプローチの仕方なんですよね。

――“12フレットより上に行っていない”っていうのは、今の岡峰さんがそういうモードだったということですか?

 今作は“シンプルなベース・ラインを弾きたい”っていう私的コンセプトがあったんですけど、それとローをしっかり出したいっていう思いが合致した結果なのかも。ローをしっかり出すと抜けは悪くなるけど、それを犠牲と思わない精神というか、フレーズが全部一音一音はっきり聴こえなくてもいいのかなって。しっかりロー感があって、グルーヴが生まれていれば問題ないのかなとも思えたんですよ。昔はしっかり一音ずつフレーズが聴き分けられるようにしたかったから音もミッドに寄ってたし、そういった音作りにおける自分のモードもここ最近で変わってきたのかもしれないです。

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