PLAYER
その作品としてどうあれば伝わるか、
音としておもしろいかを考えている。
━━今作のベース・プレイは、フィルターを通したサウンドが印象的だと感じたんですが、「FANTASY」はスラップを採用したファンキーなベース・ラインですね。
祥太と“スラップがバキバキの曲っていいよね”って話をしていたんですよ。スラップでもいろんな種類がありますけど、例えばあの往年のマーカス・ミラーみたいなサウンドとか、ジャズべのカッコよさとか。今回は全篇でスラップをするわけでもないですけど、ベース・ラインが立つ曲を作りたいと思っていて、それが「FANTASY」につながったと思うんです。ベース・ラインが前に出ていくようにとか、踊るようにって言ったらちょっと大げさですけど、ベース・ラインが自由に泳ぐことで曲全体の循環をどんどん流して、音像のなかでベースが率先して全体を引き寄せていくようなグルーヴ感をイメージして作りました。
━━サビでは、前半1小節目は駆け上がるようなラインで、後半は下がっていくようなライン。まさに泳ぐ感じが表現されている感じがしました。
メロディ自体がサビの入りはロング・トーンになっているので、そこで楽器で歌うものがあったらいいなと考えていました。ベースの駆け上がっていく感じとか、そういうグルーヴ感がより伝わってくるライン作りはもともと好きなものでもあるんです。歌ものであって、こういうベースがあって、4つ打ちが効いてくる。そこのバランスをいろいろ考えて作りました。
━━そのラインの次の1音は、上がっていったあとは小節のアタマで入っていますが、下がっていったあとはクッて入っていて、そこでまた違うノリが生まれるところも魅力的です。
こういう4つ打ちの曲でのベースのポジションは、ベース・ラインが泳ぎっぱなしよりかは、ところどころにスウィート・スポットを作っておくことがすごく大事だと思っているんです。ずっと動きっぱなしもカッコいいんですけど、キレイに着地するポイントがあってこそ、泳いだ部分がすごく生きてくる。あとは呼吸ですね。ベース自体もブレスをするというか、そういうのって歌と一緒で全部つながってくるかなってこの曲に関しては思います。
━━「SUNNY」は休符がかなり効いていて、ドラムも相まってタイトでシックなリズムを感じますが、Bメロからはサステインの長いプレイで優しい印象に切り替わっています。この対比が曲に広がりを持たせますね。
これは管楽器を入れたり、ある種R&Bのように作ったんですけど、そのオーケストレーションをすごく大事にしました。歌詞にもつながってきますけど、意志が強く出ている場面があったり、一方で平常心を持って歩いているようなパートがあったりするので、その場面ごとにどういった役割の楽器を配置していくかが、この曲において大切にした部分です。僕は音像を絵的にイメージしながら作ることがあるんです。例えば、最初にビートが入ってきたときのゆったり歩いているようなラインみたいな、1個1個スタンプを押してくようなフレージングがあると、ほどよい場面の切り替わりになるというか、そこで歩いている様子を表わせたりするのかもしれない。サビのロング・トーンとかは、場面としては主人公が立ち止まって、物事をかみしめている場面かもしれないし、そういった部分でベース・ラインも演出の一部として関わってきますね。
━━なるほど。ベース・ラインに曲を循環させたり、情景を表わしていく役割があると。
これは完全にイメージの話なんですけど、音楽における促進力に関しては、やっぱりドラムとベースが緩急をつけやすい楽器だと思うんですよね。そういった位置づけで弾いたのかな。
━━「MISTY」は湿ったサウンドで、ベースの音価のコントロールが巧みだなと感じました。
この曲のベースは、使い方としてはちょっとギターに近い感じなんです。僕はフランジャーをかけるのが好きなんですよ。この曲ではフランジャーをかけることで、ベースの音色をちょっと怪しげな音にしたかったんです。あと、ギターのカッティングに近い要素も入れつつ、若干ミュート気味で弾いたりして、どっしり構えたベースよりかは、霧のなかで蠢いている感じを作ることを意識しましたね。ラストのサビにいく前とかもワーミーを使って、ベースでウワモノみたいな音色を作ったり、いろいろトライしてみました。オクターバーとかフランジャー、コーラス、スイッチ型のワーミーとか、そういうもので遊んでいると、意外とギターには出せないちょっと奇妙な音だったり、テナー・サックスぐらいのレンジ感で作れたりするんです。ベースではあるんですけど、低音だけでなく、ロー・ミッドあたりにいたらおもしろいなとか、そういうのもいろいろ盛り込んでいたりします。
━━エフェクターでいろいろ試しながら作った音を採用していったと。
そうですね。あまりライヴでの再現にとらわれすぎず、作品としてどんなことがあったら伝わるかとか、音としておもしろいかってことを優先して作っています。
━━AAAMYYYさんをフィーチャリングした「OXY」では、シンセ・ベースを使用しているんでしょうか?
シンベがメインで、リズムの刻みとして竿のフランジャー・ベースをうっすら入れて、役割を分けましたね。「OXY」は酸素という意味なんですけど、酸素というある種軽いものに対して、逆のイメージの重力、重量感っていう意味でのシンベだったり、サウンドの重たさみたいなものをイメージしました。トラック自体は結構前に作っていたんですけど、今年になって改めてAAAMYYYと一緒に作るってなったときに、そういうイメージでシンベを弾き直したんです。
━━この楽曲からはトラック・メイキング的な制作プロセスを感じたのですが、トラック・メイキング的な楽曲とほかの曲の制作ではベースに関する意識の違いはあるのでしょうか?
楽曲においてどういう質感を大事にするかによると思っています。僕はビート・ミュージックも好きだし、アコースティックなものも好きだからこそ、その質感はちゃんと出していきたいと思っているんです。「OXY」はPC上で練り上げたもので、デジタル・ライクなあの音像だからこそ表現できましたし、生のベースが入ることによってグルーヴというか、曲のテンポ感や生々しさが出せた。そうやってキャラクターを分けている場合もありますし、生ベースをそのポイントごとで補助する役割としてシンベを入れるときもあります。曲の乗せ方や展開の持っていき方によって、そのポジションというか、シフトを分けている感じになっていますね。
━━「HAVE A NICE DAY」はテンポの取り方が曲中で変わるなど、緩急が印象的な楽曲ですが、この構成はどういった経緯でできていったのでしょうか?
これは去年11月にツアーが終わって最初に制作した楽曲なんですよ。12月ぐらいにデモはできていて、こういう展開の曲も作りたいなっていうイメージで着手したんです。“TENDREにしては結構テンポ速いね”みたいなことも言われたんですけど、でも僕的には“速いですけど何か?”っていう感じですね(笑)。でも、確かにライヴでこれぐらいのテンポの感じとかあまりなかったんで、挑戦しがいがあるなとも思っていました。そんな自分のなかの心の躍動みたいなところが、アップ・テンポなリズムにつながったと思うんです。それが緩急の話になってくるんです。衝動に駆られて走り出してしまうようなものがサビだったりイントロ部分にあったり、それでもいろいろ振り返ることもあるっていう場面がリズムがハーフになるところに表われていたり、いろんな音が自分の横をすり抜けていく場面とつながっている。そこは音楽という舞台でありながらも、短編映画じゃないですけど、いろんな場面があってこそ、マックスのビートが入ってくる。この曲に関してはそういった意味での構成だったのかなと思います。
━━アップ・テンポの部分とハーフ・テンポになる部分がお互いを引き立たせていて、相互作用がすごく効いているなって思います。
そうですね、逆にこれぐらいしたほうが最後にまたドカーンと持っていくときにそれも映えてくる。絵的に想像できることが大事だなと思っていたので、そういうアレンジがなんとか成り立ってよかったと思います。
━━1番のAメロのベースの刻みがオモテなのに対して、2番ではウラで刻んでいるっていうところも曲のストーリーとしておもしろくて、聴きどころですね。
そこを言っていただけたのは嬉しいです。ループする楽しさとかもあるんですけど、似たような場面であったとしても、聴いたときのタイミングだったり状況によって見え方だったり、臭い方、感じ方って違ってくると思うんですよね。それはベース・ラインひとつだけで演出が全然変わってくる。オモテで刻むことによって出るノリがあって、そこで次はウラで刻むことによってまた違う横ノリが出て、また心持ちも変わってくるかなと思うので、そういったところも楽しんでもらえたらいいなと思います。