PLAYER
UP
INTERVIEW – ローラ・バランス[スーパーチャンク]
- Question:Koji Kano
- Translation:Tommy Morley
- Artist Photo(group): Brett Vilsna
自分にとって快適にプレイできる音が見つかるまでトライし続ける。
――多くのゲストが参加したことで「Highly Suspect」や「Wild Loneliness」での管楽器、「This Night」でのストリングスなど、サウンド・アプローチがこれまでよりもさらに飛躍した印象を持ちました。これらはゲスト・メンバーによってインスパイアされた部分でもあるのでしょうか?
ストリングスや管楽器をアルバムに収録したのは今回が初めてじゃなくて、マックはこういった楽器を加えるのが好きでね。ストレートなパンク・ロックなアルバムのなかにこういった楽器を加えていくのが好きなのよ。今回参加してくれたアンディ・スタックはアメイジングなミュージシャンで、どんな楽器でもプレイできてサックスもなかなかの腕前だから、以前にも私たちのレコーディングに参加してくれたことがあるの。ストリングスを初めて導入したのは『Here’s to Shutting Up』(2001年)だったと思うけど、ジョージア州のアセンズ出身のヘザー・マッキントッシュというミュージシャンにレコーディングに参加してもらった。だから思い返せば意外と長い歴史があるということになるわね(笑)。
――ギター、ベース、ドラム以外のサウンドが入る曲では、ベーシストとして考え方やプレイなどは変わりますか?
もちろんそれはあるわね。一方でそれは私が自分のパートを作って録音するまでに時間がかかった理由でもあるの。ストリングスや管楽器のほとんどのパートがすでに録音された状態だったから、そういった楽器が消された状態のミックスをもらえないかとマックにリクエストしていたわ。あまりにも多くの楽器が鳴っていると、どういったプレイで埋めていけばいいのかわからなくなることがあるから。ストリングスや管楽器だけじゃなくて、ジムのギターが入っていないミックスも使っていたの。彼のプレイの仕方って、ときおり音がハズれているところがあって、ちょっと困っちゃうところがあるのよね(笑)。
――ではどういった点に意識してベース・ラインを入れていったのでしょうか?
私のプレイを入れたあとにほかの人のパートを入れて、そういったパートがキチンと入るスペースを与えられているかを確認していったわ。私よりクールで華やかなプレイを魅せるベーシストってたくさんいるけど、私は自分の役割はサポートに徹するべきだと思っているの。私は基本的に土台となって、ほかの人が活躍するためのサポートに徹するべきだと思っているわ。
――今作を聴いていても、確かにあなたのプレイはアンサンブルを支えることに徹しているのが伝わってきますが、「This Night」でのストリングスのウラでメロディアスに動き回るフレージングなども聴きどころかと。フレーズ選びはどのように?
それは説明がしづらいところだけど、私は聴覚に問題を抱えるようになってライヴでプレイしなくなって以降、以前に比べてベースをさらにプレイしなくなってきたの。アルバムを作るとき以外にベースをプレイする理由が見当たらなくなってきたのよね。だから今回のレコーディングだって基本的に練習していない状態からのスタートだったから、取りかかるのが遅かったっていうのもある。手だけじゃなくって頭のなかでも準備ができていなかったのよ。今回のアルバムのなかでも、最初のほうにレコーディングした曲は実際聴いてみて録音し直せたらなと思うこともあるぐらいよ。1ヵ月ぐらい作業を進めていっただけで、自分が弾けるようになっていたのがわかったくらいだったわね。
――その状態でのベース・ライン作りというのは想像もできないほどに大変な作業だと思います。フレーズを作る際に大切にしていることとは?
それでもパートを組む際に大切にしていることは、ほかの人が何をしているのかをしっかりと把握して何度でも彼らに混ざってプレイし続けることね。自分にとって快適にプレイできる音が見つかるまでトライし続け、グッドなサウンドになったらマックに送ってみるの。私が感じなくても彼が何か違うと感じるようであれば一度考え直させてもらってから(笑)、修正する。私は学校に通って学んだわけじゃなくてパンク・ロックのミュージシャンだから、何が正解なのかわかっていない。譜面も読めなければ、作曲の方法も知らないの。だから普通の人からしたら変わったやり方でやっていると思われるでしょうね。ひたすらトライ&エラーを繰り返しているような感じよ。
――随所で歪んだクールなベース・サウンドを聴くことができます。これはどのような音作りをしたのですか?
アンペグにカスタム製作してもらったキャビネットと、アコースティックのアンプ・ヘッド370を組み合わせて使っている。これはかなりラウドで歪んでいて、さらに秘訣は、スピーカーのひとつが傷んでいるっていうこと(笑)。そしてディストーションのペダルとして(HUMAN GEAR製)HOT CAKEを使ったわ。とはいえ実際にこのセット・アップでプレイしているのは1、2曲だけ。あまりにもラウド過ぎて耳がやられてしまいそうだったから、夫と話し合って作戦を変え、ペダルからDIにつなげてレコーディングすることにしたの。最初はこれでうまくいくはずがないと思ったけど、夫がかなり素晴らしいサウンドにしてくれたわ。ほとんどの部分はアンプなしで録音しているわね。
――今作の録音で使用したベースはあなたのトレードマークでもあるフェンダー・プレシジョン・ベースでしょうか?
そうね。今も持っている1979年製のもので、1992年くらいに手に入れたはず。弦高が高過ぎなくて押弦しやすく、それでいてビビるほどの低さでもない。それにプレシジョン・ベースにしては軽くて、私が今まで手にしてきたなかでも最も軽いくらいに感じている。どんな木材を使っているのか、まったく私にはわからないけどね。
――30年以上メインで使い続けている、あなたにとっての“生涯の一本”だと。
ええ。このベースの身に何かあったとき、私はベースを辞めるってみんなに伝えているくらいの生涯の友よ(笑)。このベースがなかったらどうしたらいいかわからないくらいなの。このベースを手に入れる前はミュージックマスター・ベースを使っていたのだけど、身体の小さな女の子がショート・スケールを使っていると、どこか頼りなくて舐められてしまいそうだったから、男に負けないぐらいプレイできることを見せなくてはと思っていたわ。まぁまだ私も20代だったからね(笑)。それで手に入れたこのベースは本当にお気に入りの1本だけど、あのミュージックマスターは今でも手元にあったらと思うこともあるくらい実は良い楽器だった。ミュージックマスターは私がプレシジョン・ベースを買ったときに、マックに売ってしまったのだけど、いくら言っても買い戻させてくれないのよね(笑)。
――先述のとおり、あなたは病のため2013年以降ライヴには参加していませんね。それもあって音源に込められた思いというのはまた特別なものがあるのでしょうか?
それは……ないかしらね(笑)。今回のアルバムは今までにない特殊なところがあって、それは誰とも会わないで作ったということなの。リモートで作ったということもあって、すべてが離ればなれでヘンだったような気もする。次のアルバムこそみんなで集まって一緒に作りたいと思っているわ。
▼ 続きは次ページへ ▼