PLAYER
百戦錬磨のグルーヴマンが生み出す
瞬発的な閃き
クラブ・ジャズ・シーンを牽引する5人のトップ・プレイヤーによって2014年に結成されたPOLYPLUS。“新世代インスト・ジャズ界のオールスター”とも評される彼らは、お互いの個性をセッションでぶつけ合いながら、着実にそのサウンドを研ぎ澄ませてきた。9月1日にリリースされた3年ぶりとなる2ndアルバム『move』には、多様なジャンルが集約された新たなインストゥルメンタルの形が提示されている。クラブ・ジャズ・バンドJABBERLOOPでも活躍するベーシストのYUKIは、リスナーの予想の斜め上を行く唯一無二のベース・プレイを展開し、新感覚のベース体験を味わわせてくれる。YUKIは幾多のセッションから何を得て、それを本作にどうフィードバックしたのか。プレイの背景に迫るとともに、POLYPLUSの考えるセッション/インストの形を探っていきたい。
ミスってもいいからやっちゃおうっていうテンションで(笑)。
――新作『move』は2018年の『debut』以来、約3年ぶり2枚目のアルバムになります。この間、シングルのリリースがいくつかありましたが、アルバム・リリースも念頭にあったのでしょうか?
POLYPLUSはメンバー全員がそれぞれほかのバンドもやっているので、この3年間は各自のバンドの動きと照らし合わせつつ、制作期間を見定めて楽曲制作を進めていきました。一気に曲を作っていくというよりは、少しずつセッションしていくなかで完成した曲をシングルとして出していったんですけど、ある程度曲数が見えてきた段階でフル・アルバムを出そうということになったんです。
――この3年間には何度かメンバーの変更もありましたね。
そうですね。ドラムのYOSHIAKIくんが離脱して、その前に離脱していたGotti(g)がまたバンドに戻って来てきてくれたりと、活動期間がまだ浅いわりには大きく動いたなって感じています。ドラムは現在もサポートですけど、僕らはどんなメンバー構成だったとしても目指すべきサウンドや方向性は一貫したものを持っているので、立ち止まることなく活動できているんだと思います。
――POLYPLUSは“ジャズ・インスト界のオールスター・バンド”とも評されますが、だからこそメンバー構成も大きなポイントだと思います。
僕らの考えとして、まず第一に演奏があって、その結果が曲になるっていうものがあるんです。それぞれの個性があって、それぞれの味を出していくうちにひとつの曲になるっていうイメージ。そういう設計図で曲を作っていくことが多いので、もちろんメンバーの個性は重要な要素ですよね。だから極論を言えば誰がメンバーだったとしても、その違ったエッセンスの個性がぶつかり合うだけなんですよ。
――ここ1年半はコロナ禍ということもあり、制作環境もこれまでとは違ったものになったとは思いますが、本作はどのような流れで制作を進めていったのですか?
正直、今作は“一発勝負”で作った印象です。リハーサルは一回、もしくは当日にぶっつけ本番のセッションからスタートさせることもありました。事前に用意していたとしてもワンコーラスくらいの流れをざっと書いた紙切れ一枚、というか紙切れ一枚あればまだいいほうで、まっさらの“さぁ、どうしようか”っていう何もない状態からその日のうちに一曲を作るっていうパターンが多かったですね。
――事前にデモを作り込むのではなく、即興のセッションからスタートすると。
事前にしっかりデモを用意する場合もありますよ。ただ、僕らの場合はライヴをしていくなかで最終的なアレンジが固まっていくというか、未完成の状態の曲を先にライヴで試すんです。普通はミスるとか忘れるとか懸念すると思うんですけど、僕らの場合はそういうのは一旦置いといて、ミスってもいいからやっちゃおうっていうテンションで(笑)。
――すごいですね……! それはある意味、思い切りがいることですよね。
まぁそうなんですけど、それで万が一何かあっても、僕らはそれをリカバリーできるっていう自信があって。例えば曲の尺とかリズムがそのとき次第で変わることもあるんですけど、それはお互いの音やプレイをしっかり聴いていれば対応できると思っています。
――なるほど。そんななかで制作された『move』にはどういったメッセージが込められているのでしょうか?
制作の後半はガッツリコロナ禍だったこともあって、動きづらい部分もあって。そのなかで制作を進めていったということで、“動きづらいときに動こうよ”っていう意味を込めた『move』なんです。めちゃくちゃアホみたいにシンプルな言葉ですけど、極限までわかりやすい言葉だし、難しさをとことん排除したメッセージを込めています。
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