PLAYER
UP
INTERVIEW – Natsuki[Luby Sparks]
- Interview:Shutaro Tsujimoto
- Photo(Live):kokoro
- Photo(Ampeg PF-500):Yoshitake Hamanaka
海外インディと共振する5人組が
“探求と破壊”で到達した新境地
2018年にマックス・ブルーム(ヤック)のプロデュースのもと全篇ロンドンで制作された1stアルバム『Luby Sparks』をリリースして以降、EP『(I’m) Lost in Sadness』(2018年)、シングル「Somewhere」(2019年)を発表。さらには同曲のリミックスをコクトー・ツインズのロビン・ガスリー(g)が手がけるなど、国内外のドリーム・ポップ/シューゲイザー・ファンから支持を集めてきた5人組バンドのLuby Sparksが、4年以上ぶりとなるニュー・アルバム『Search + Destroy』をリリースした。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやシガー・ロスを手がけるアンディ・サヴァースを共同プロデューサーに迎え、これまでのバンド像を刷新する開けたサウンドとともに劇的な進化を遂げてカムバックを果たした彼ら。ベーシスト兼ヴォーカリストで、またバンドのブレインでもあるNatsukiに、今作の制作背景についてじっくり話を聞いた。
“ドリーム・ポップ”や“シューゲイザー”の肩書きを
脱却しようっていうテーマがあった。
━━今作『Search + Destroy』は、ソングライティング面でもプロダクション面でも、新たなLuby Sparksのバンド像を提示するようなアルバムだと感じました。今回はレコーディング、ポスト・プロダクションにそれぞれ約1年ずつをかけて制作したそうですね。
まず作曲の話で言うと、前作のEP『(I’m) Lost in Sadness』(2019年)までは、僕がLogic Proでほぼアレンジの完成形のところまでを作って、それをメンバーにシェアしてレコーディングするという流れが多かったんですけど、今回からギターのTamioがリフを作って、そこに僕がシンセとかドラムのアレンジを加え、最後にヴォーカルのErikaがメロディと歌詞を乗せる、みたいな形で3人で共作した曲がけっこう多くなったんです。そうやってある程度完成したものを、プロデューサーのアンディ・サヴァース(編注:マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、シガー・ロス、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、リナ・サワヤマなどを手がけるイギリス人プロデューサー/エンジニア)にデータで渡して、メールでアイディアを投げ合いながらアレンジを完成させていくという進め方でしたね。レコーディング自体は去年の4月くらいだったんですけど、そこからミックスやMV撮影をやっていたらリリースまでに1年以上かかってしまいました。
━━アンディ・サヴァースさんには、どういう経緯で共同プロデュースを依頼することになったんですか? 彼が昨年手がけたブラック・カントリー・ニュー・ロードのデビュー・アルバムはイギリス本国でかなり高い評価も得ていましたし、人気プロデューサーのひとりだと思うのですが。
今まで、Luby Sparksの作品はほとんどをマックス・ブルーム(編注:ロンドンのオルタナティブ・ロック・バンド、ヤックのメンバー)がプロデュースやミックスをやってくれてたんですけど、今回はミュージシャン寄りのプロデューサーというよりは、プロデューサーが本業の人と一緒にやってみたいという思いがあって。それで候補を探していたときに、ソーリーというロンドンのバンドの「2 Down 2 Dance」という曲の打ち込みと生音の組み合わせの感じがすごくいいなと思って、そのクレジットからアンディを知ったんです。それで調べていくと、彼がペインズ(オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート)のアルバムを手がけていたことがわかって。ペインズは2018年の来日公演のときに一度共演をしていて、ヴォーカルのキップ(バーマン)とも仲良くなっていたので、とりあえずキップに連絡して“紹介してほしい”っていうオファーをしたんです。それが3年くらい前のことですかね。そこから、紆余曲折を経て最終的にはアンディにアルバム1枚丸ごとのプロデュースとミックスをお願いする流れになっていきました。
━━1stアルバム『Luby Sparks』は全篇ロンドン・レコーディングでしたが、今回は録音自体は日本で行なったんですか?
録音は日本でIDEAL MUSIC FABRIKというスタジオで行なったんですけど、そこがヴィンテージ機材にこだわっていて、機材リストをアンディに送ったら彼が持っているものとたまたまけっこうカブっていたみたいで(笑)。それで、マイクの立て方とかを事前に指示してもらうことができました。そういうこともあって今回はドラムをはじめ、全体的にかなりいい音で録れたなって思っています。レコーディング後はそのデータをアンディに渡して、彼がアレンジのブラッシュアップやミックスをして、それに対してリクエストをして、というやりとりを進めていきました。あとは僕がMIDIで打ち込んだソフト・シンセの音をアンディの持ってるアナログのシンセとかリズムマシンの音で入れ直してもらったりもしましたね。
━━なるほど。今回は作曲だけでなくアレンジに関しても、前作までとはだいぶ異なるやり方やり方で進んだようですが、ベース・プレイに関してもアプローチの変化はありましたか?
前作までは基本的にスティングレイを使っていたんですけど、今回は、ほぼリッケンバッカーで録りました。音作りのイメージとしては、僕は90年代オルタナティブ・ロックの女性ベーシストに好きな人が多くて、スマッシング・パンプキンズのダーシーとか、そのあとに加入したホールのメリッサ(オフ・ダ・マー)とかが弾いている“芯のある鉄っぽい音”みたいなものを目指しています。実際、彼女たちのベースってレコーディングの音だとあんまり聴こえないじゃないですか?(笑) でも、特にライヴ映像とかを観ると、実は下でちゃんと支えていて、音の芯の部分だけが聴こえるようなサウンドで。そういう音でルートを淡々と弾いているようなものが好きなんです。
━━ベースの音作りに関して、アンディさんとはどういう話をしましたか?
Luby Sparksは “ドリーム・ポップ”や“シューゲイザー”っていう肩書きがしっかりついていたので、今回は“それを脱却しよう”っていうテーマが自分たちのなかでありました。今までよりもパキッとした音やミックスにしたかったんです。そのために、アンディからは“ベースにリヴァーブをかけすぎないほうがいいんじゃないか”って言われました。
━━これまでは、ベースにもけっこうリバーブをかけていたんですか?
かなりリヴァーブをかけてました(笑)。今回はそれをやめて、パキッとさせるために、なるべく歪みで音を作るように心がけています。歪みは基本的にはMXR のプリアンプ(M80 bass d.i.+)で作ってるんですけど、例えば「Crushing」ではボスのオーバードライブ(ODB-3)、「Don’t Own Me」ではベース用のビッグ・マフを使っていますね。コロナ禍に入る前にLillies and Remains(以下、リリーズ)のサポート・ベースとして中国に行ったんですけど、リリーズのサポートはいつもTHE NOVEMBERSの高松(浩史)さんがやっているので、その関係で高松さんに音作りのことをいろいろ教えてもらって。エフェクト・ボードもリリーズのKAZUYA(g)さんに特注で作っていただき、つなぐ順番とかも高松さんとKAZUYAさんにアドバイスしてもらいながら組みました。昔からエフェクターとかが苦手で何となくでやってきたんですけど、音作りに関してはリリーズでやったことが経験値としてすごく大きかったですね。ピックも高松さんに薦められて、フェルナンデスの滑り止めがついているオニギリ型で厚さがヘヴィのものを使い始めたんですけど、サイズも硬さもちょうどよくて重宝しています。
※エフェクターの詳細は最後のページへ