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    INTERVIEW – 田口恵人[LUCKY TAPES]

    • Interview:Kengo Nakamura

    押し引きを見極め、バンドを躍動させる玄人グルーヴ

    ソウルやファンクといったブラック・ミュージックを核に据えながら、“今”の時代の空気を取り込んだ洗練されたポップ感覚を聴かせるLUCKY TAPES。彼らが、コロナ禍を反映して落ち着いたムードでまとめた異色の前作『Blend』を経て、約1年半ぶりとなる5thアルバム『BITTER!』を完成させた。“『Blend』以前の作品の感じと、今の感じ、それをうまくミックスしたベース・プレイになっている”と語るベーシストの田口恵人は、バンド・サウンドを見渡した絶妙の位置に音符を置き、ライヴを見据えた躍動感のある楽曲をコントロールする。本作への取り組みについて、田口に聞いた。

    けっこう弦は死んでいたりして。
    それがLUCKY TAPESっぽさになっているのかな。

    ━━前作『Blend』は、曲調的にも落ち着いたムードのものも多く、コロナ禍を反映した作品でした。それを経ての新作『BITTER!』には、バンドとしてどのように向かっていったのですか?

     去年の末頃にライヴ活動を再開しまして、ライヴをやっていくうちに、純粋にみんなが“もっとライヴしたいね”っていう気持ちになって(笑)。ライヴを意識した曲というか、お客さんをもっと盛り上げたいという気持ちにもなって、今作はけっこうファンキーというか、前作よりもテンポの上がった曲が多いと思いますね。

    ━━わりとロック・テイストなギターが印象的でした。

     そうですね。僕たちもみんな30歳になって、もうちょっと若い頃の気持ちじゃないけど(笑)、勢いを出したかったのかな。確かに、ギターとかはロックな感じになっていますよね。

    ━━ただ、楽曲全体としてはロックっぽさを強く出しているわけではなくて、それは田口さんのベース・アプローチがロック的ではないからなのかなとも思うんです。

     なるほど。ただ僕も、高校の頃とかはELLEGARDENやGOING STEADYとかのコピーをけっこうやっていたんですよ。(高橋)健介(g)とは高校が一緒で、学園祭とかでそういったバンドの曲をやったり。例えば今作の「ギルド」は、モロにその当時の気持ちを思い出して弾きましたね。でも、ほかの楽曲に関しては、おっしゃったように、自分のいいところであるR&Bやソウルのエッセンスを入れたというか……多分それしか弾けない(笑)。自分から出てくるフレーズは、自然にそういうものですしね。だから、「ギルド」以外の曲に関しては自分の色を出そうと思って、黒人音楽のエッセンスでやろうと思いました。LUCKY TAPESはけっこう音数が多いし、シンプルなものとか休符を生かしたもので支えて、いい位置に音符を置こうと思って、今作はけっこう試行錯誤しましたね。

    『BITTER!』
    ビクター
    VICL-65695
    https://jvcmusic.lnk.to/bitter

    ━━「ギルド」はギターポップ・ロック・バンド的なサウンドで、ベース・ラインも8分のルート弾きが多いですが、ベースの音色は死んだ弦の感じというか、ギラツキがなくサステインの短い感じなので、先に名前が上がったバンドのようなロック感とは違いますよね。

     本物のロックの人たちの感じではないかもしれないですね(笑)。この曲は一応ピックで弾いたんですけど、けっこう弦は死んでいたりして。それがLUCKY TAPESっぽさになっているのかなと思います。この曲って、アルバムのなかでちょっと異質ではあるじゃないですか。でも、ベースがああいう音になっていることによってアルバムを通して聴けるというか、まとまりのある質感になるかなと思ったんです。

    ━━1サビ後のBメロは、それまでの8分ルート弾きから休符を入れてリズムを変え、音づかいもルートから解放されて変化をつけています。

     ただのエイトじゃないフレーズというか、エイト・ビートでずっと突き進んでいたものを、あそこでガラッと変えるみたいなものをイメージしていて。何かいいリフがないかなって思っていたら、ああいう感じになりました。かなりお気に入りのフレーズです。

    ━━エンディングのギター・ソロの裏では、独特の短いサステインでドライブしながら和音も交えつつ、いわゆるリード・ベース的に耳をひくプレイが聴けます。

     あれは、当時けっこう納期が迫っていて(笑)。“ここはギター・ソロになるから”って(高橋)海(vo,k)くんに言われていたものの、どんな感じのギター・ソロになるのかはわからないまま、自分のなかでちょっと激しめにやったら、あれになったんです。それこそGOING STEADYとかのイメージで、ベースがわりとメロディックに弾いたり和音を使ったりしてもおもしろいかなっていう感じでしたね。

    ━━レコーディングに関しては、前作は“宅録”がキーポイントになっていましたが、今作はどうでしたか?

     前作もそうですけど、コロナ期間でリモート・レコーディングというか自宅で録って送る仕事がけっこう増えまして。自宅録音のクオリティを上げようと思って、新たにプラグインとかも導入したりしました。

    ━━前作では、DAWはLogic Pro、オーディオ・インターフェイスはタスカムのもので、DIはルパート・ニーヴ・デザインのRNDIを使って、音作りはMXRのbass d.i.+でしていましたよね?

     今はDIは使わずにインターフェイスに直で挿して、音作りはプラグインでしていますね。アンペグのSVTのプラグインを使っていて、それがすごく調子がいいです。ベースは5弦のアクティヴのレイクランドが多いんですけど、パッシヴ(モード)にして録音したほうがいいなって思うことが多くなりました。そっちのほうが楽曲に馴染むというか、嫌な目立ち方をしないというか。それで、パッシヴで録ったものをプラグインであとから調整したほうが作業がしやすかったですね。パッシヴ楽器の良さを今改めて再確認しているところです。

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