プランのご案内
  • PLAYER

    UP

    INTERVIEW – 大田譲[ カーネーション]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Kikuko Usuyama(Live)

    “いい歌メロ”を聴かせるための低音哲学

    普遍的なポップ感と練りに練られた楽曲で、音楽シーンで独特の存在感を放ち、数多くのミュージシャンからもリスペクトを受けるカーネーションが、待望のニュー・アルバム『Turntable Overture』をリリースした。通算18枚目のオリジナル・アルバムとなる今作は、なんと2017年の傑作『Suburban Baroque』から約4年ぶり。その間にバンドは結成35周年を、メンバーのふたりは還暦を迎えた。新章に突入した今作でベーシストの大田譲は、直枝政広(vo,g)が生み出す複雑な楽曲をどのように解釈し、どうプレイしたのか。また、張替智広、岡本啓佑といった近年のライヴ演奏を支えるドラマーたちと作り上げたリズム・セクションを彼はどう振り返っているのか。歌モノを志す全ベーシスト必見のインタビューだ。

    直枝のアレンジは、主幹がベースなんですよ。

    ━━今回リリースされた『Turntable Overture』は4年ぶりのオリジナル・アルバムということですが、新作にはどのように向かっていったのでしょう? その間には2018年の結成35周年イヤーでの、ベスト盤のリリースや日比谷野外音楽堂での記念ライヴもありました。

     野音もあったし、あとライヴ自体はカーネーションでけっこうやっていて、活動が空いたわけじゃなかったんです。ライヴとかイベントがあれば積極的に出ていたし、若いバンドとの対バン企画を(渋谷)La.mamaでやったりね。あと直枝はSoggy Cheeriosをやったり、大森靖子さんのツアーに行ったりしていましたし、僕も小さいユニットですけどジャック達っていうバンドをやったりで、カーネーション以外でも月3、4本はライヴをやってたと思います。アルバムの制作は、うちの場合リリースの日程が決まってから直枝が曲を書いたり準備に入るので、それ以外のときは曲作りのためのスタジオに入ったりはしなかったですね。

    ━━新作のリリース・スケジュールはいつ頃決まったんでしょう?

     今年の6月くらいから具体的に決まっていきましたかね。新曲のいくつかはライヴでやっていたこともあって、そこからは一気に進んだという感じで。1年半くらい前からやってる曲もあったかな。

    ━━話が決まってからリリースするまでのペースがかなり早いですよね。制作プロセスはいつもどおりという感じだったんでしょうか?

     カーネーションはもともと5人だったんですけど、ぎちぎちにプリプロをやるバンドだったんですよ。音を出す前に、まずパソコンできっちりと打ち込むみたいな。3人になってからはセッション的に作ったりもしたけど、でもやっぱり宅録の進歩と並行して途中から家で打ち込んで作るようになりましたね。最終的に、直枝なんかレコーディングするのと変わらないようなものを持ってくるようになったので、プリプロでスタジオに入るっていうことはほぼなくて。レコーディングのときに音を出してみて、“こっちのほうがいいね”みたいな話はするけども、もうここ何枚かはずっとそんな感じなので、逆に緊張感高いですよ(笑)。

    ━━ベース・ラインをレコーディング当日に初めて演奏メンバーに聴かせるみたいなことも多いんですか?

     遅くともレコーディングの2日前くらいには音源が来るので、準備はしていくんですけどね。まぁ不安なので“なるべく早くくれ”とは言うけど(笑)。良く言えば信頼してもらってるのかもしれないし、パターンもだいぶわかってきてるので、心配はないんですが。でも、今回はちょっと苦労したかな。

    『Turntable Overture
    PANAM/CRCP-20585/86
    左から直枝政広(vo,g)、大田譲。

    ━━収録曲のうちすでにライヴで演奏していた曲というと?

     ライヴでやっていたのは、「その果てを心が」、「BABY BABY BABY」、「Highland Lowland」、「マーキュロクロムと卵の泡」くらいですかね。

    ━━今回は苦労もあったということですが、大田さん的に一番大変だった曲というと?

     一番苦労したのは、「SUPER RIDE」と「海の叙景」かな。「海の叙景」は、直枝くんが弾き語りでやっていて聴いたことはあったんだけど、今回は予想外なアレンジで。彼のアレンジは、主幹がベースなんですよ。多分彼はコード進行の次にベース・ラインを考えてるんじゃないかと思うんですけど、メロとの絡み方もそうだし、アンサンブルの持っていきかたをベースで作ることがすごく多くて。そこが凝っている曲だと苦労しますね。

    ━━確かに「海の叙景」ははベースのプレイで、ガラッと世界が変わる感じがありますよね。

     そうですね。あとは意外とアドリブっぽいフレーズも入ってるんですよ。直枝はわりと“思いつきで弾いちゃった”とか言うんだけど、そうは言っても“この間(ま)は変だろ”というのがあったり(笑)。ベーシストじゃないから一度に弾けないので彼は編集してフレーズを作るわけですよ。すると、その編集の間とかが変な切れ方とかしているわけで。こういうのは昔からあって、古い曲でもベースのオモテとウラが途中でひっくり返ってる曲とかがあるんです。でも“おもしろいね”ってそれをそのまま使ったりね。

    ━━ベーシストじゃないからこそ出てくるフレーズのおもしろさってありますよね。

     カーネーションの前のドラマーの矢部(浩志)なんかもっとすごくて、全然ベーシストの考えるフレーズじゃなかったね。彼は全部鍵盤で打ち込むし、もっと複雑なコード進行で、変態みたいなラインとかけっこうあったから(笑)。まぁ勉強させてもらってますよね。

    ▼ 続きは次ページへ ▼