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実際に自分がライヴができるようになったときに、
答えがわかることだと思います。
━━生ベースでは、「Chapter 3_ 美しい世界」はシンセと語りのセクションのあと、ファズ的に歪んだベースのリフとドラムのセクションになります。こういったリフはどのように作るのですか?
やっぱりベースを弾いていて出てきたものですね。わりとパンキッシュな感じで、最初の頃というか、自分がバンドを組んで、やり始めた頃のものに近い。あそこはドラムとベースしかいないですけど、逆にそれだけのほうがベースの過激さが出るかなというところでした。
━━ドラムが2ビートになるとさらにベースが歪んでいきますが、セクションによって細かく歪みの設定を変えているんですか?
いや、セッティングは変えていないですね。ピッキングのニュアンスというか、弾く強さなどで歪みを変えている感じです。弱いところは本当に弱く弾いていますし、一番うるさいところは、ピックを折るくらいの感じで(笑)。
━━まさか本当に折れはしないですよね?(笑)
折れることはないけど、血が出ることはよくありますよ(笑)。ベースの位置が低いせいもあるのか、ピックアップに指が当たることもあるんですよね。自分としては、細かく分けて弾くんじゃなくて、できるかぎり1本で行きたいみたいなところがあって。それこそ、エモーショナルなものを大事にしたい。だから、レコーディングでセクションごとに分けて録ったりもせず、テイク自体もそんなに重ねないんですよ。自分の作品は全般に言えるんですけど、特にこういう曲は、できれば1テイク、2テイクで決める感じ。
━━過激に歪んでいるけどちゃんと音程というか形が感じられる音作りは、なかなか真似できないと思います。
基本的にはセッティングはいつものとおりというか、自分が長年作り上げてきた形ではあります。回線をパラアウトして、いろんな歪みをレイヤーして混ぜている感じですね。メインになっているのは、もうハタチのときから使っているピアースBC-1というプリアンプ。それに、これもずっと使っているボスのメタル・ゾーンとか、サンズアンプのつまみとかも何もないやつ(BASS DI)を組み合わせていて。ずっと同じ機材を使い続けているからできることなのかもしれない。ほかの機材になると、全然わからないですもんね。今どき、いいベース・アンプがたくさんあるのは知っているけど、そういったものは自分では使い方がよくわからないというか。アンペグでさえ怪しいですよ(笑)。
━━アンペグは剛士さんの好みとは違いそうですよね。
そうですね。やっぱり求めているのは真空管じゃないんですよね。もともとピアースがトランジスタで、だけどドライブ・チャンネルが付いているというものだったので。
━━スピーカーのマイク録りはしますか?
今はほとんどしないですね。その代わりに、キャビネット・シミュレーターを使ったりはします。ただそれもアナログのものじゃないと位相の関係でめんどくさいことになっちゃうので、パルマーとかを使っています。以前はマイク録りもしていましたけど、基本的に回線でメインにしているのはピアースなので、キャビの音はそこまで重要でもなくて、なんとなく“マイクで録ったぞ”みたいな自己満足に近い感じもあって(笑)。マイク録りする人は、だいたいキャビの音をメインにするでしょうから、そこが大事になってくるんでしょうけどね。
━━「Chapter 6_BORDER」はイントロから深いローのベースが鳴っています。この曲はギターの歪みもすごくて、ギターの歪み成分とベースの歪み成分が重なって大きな歪みになり、結果一番太いところだけをベースとして聴いているような気もしました。こういったギターとのサウンドのマッチングはベーシストの永遠のテーマで、しばしばバンド内で戦いになったりするのかなと。
基本的に(THE)MAD(CAPSULE MARKETS)の時代から、常にその戦いには勝ってきちゃっているので(笑)。結局、自分のベースの歪みの部分が曲の中心みたいになっているし、それが、基本にありますね。逆に、“この音はギター?”って言われることもありますし。ギターとのバランスはやっぱり曲によりますけどね。例えば「BORDER」や「COLD ARMS」は塊としてグシャッとひとつにさせたいから、歪みとしてはギターでもベースでもどっちでもいいんです。ただ、ローエンドの怖さというか迫力というか、そういう部分で気持ちを表現できるのはベースなので、そこはさっき言ってもらったような感じのニュアンスは残るようにはしていますね。
━━「BORDER」は、最後に“BORDER”を繰り返すうしろのベースの、ちょっと動きをつけてコードをつなぐところがグッときます。それまではわりと直線的なイメージなので、この動きにストーリー性を感じるというか。
まさにそういう感じです。そこにたどり着くまでがずっと抑圧されている感じ、サウンド的に詰まっている感じで、最後のその部分でビート的にも疾走感を出して解放というか、苦しみから爆発している。表現としてはそういう感じですね。
━━ベースに動きが出ると生感が出ますよね。
逆に、それが曲にずっと入っているのは個人的には苦手なところもあるので、普段はわりと機械的な感じではいたいんです。だからここは、そういう生感を出したくなった数少ないポイントかもしれないですね(笑)。
━━「M9 Chapter 9_SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」は、ちょっと爽やかでギターポップ的な始まりかと思いきや、ベースが入ると一気に歪みが強まります。一般的には、イントロは軽めの歪みで曲本篇になると歪みが強くなるというのはギターでやることが多いと思うので、歪みを全部ベースが持っていっちゃうというのは、剛士さんらしい部分ですね。
これもそういう意味では、ベースが入ってくるところからエモーショナルな部分を爆発させるっていう感じですよね。ギターのコードは、最初のイントロでは広がり感もあるちょっと明るいものだと思うけど、本篇のバンド・アンサンブルでは、同じものが鳴っていても、それがまた違って聴こえて、さらに攻撃性を増すもののひとつになるというか。だから、ちょっと普通と立場が逆転しているサウンドっていうのがユニークではあると思うし、枠にとらわれないっていう意味では、いろいろやってみるのはいいんじゃないかなと思いますね。どうしても、“素晴らしいサウンドで鳴っている素晴らしいバンド・アンサンブル”みたいな雛形があって、そこに近づけたくなるのはわかるけど、それだけだとやっぱり、自分らしさというものがないので。そこからいかにハズレて自分らしく、そして、それに負けないようなものを作れるかっていうのが、アーティストというかミュージシャンの一番の醍醐味だと思います。
━━さて、本作を経ての今後の活動の展望は?
この先がどうなるのかっていうのは、バンドとしても社会的な状況としてもわからないんですけど、ただ、ひとつ作品は作れたので、これをもとに、今の自分として、例えばライヴという形で何かできるようになるといいなとは思っています。それをやることによって初めて、多分これを経ての自分の音楽の形、この先のAA=の形が見えてくると思うので。今は音源として、現在を表現するものを作れたという段階ですね。
━━ライヴを想定せずに作ったアルバムではあるけど、やはりライヴでプレイしてわかることがあると。そこはやっぱりライヴ・ミュージシャンということですよね。
そういうことですね。実際に自分がライヴができるようになったときに、答えがわかることだと思います。
Takeshi’s Bass
レコーディング/ライヴともに、現在のメイン・ベースはフリーダムカスタムギターリサーチ製のPBタイプ。AA=の1stアルバム『#1』の頃に製作されたもので、ステンレス・フレットやトーン・シフト・プレート、Voodoo製ピックアップといった同社ならではのパーツを組み込みつつ、かつてフェンダージャパンで製作したシグネイチャー・モデルにならい、コントロール部分を残してピックガードをカット。ネックはJBに近い細身のグリップを採用している。“ピカピカの楽器を持つのが照れ臭かった”ということで、当初からレリック加工で仕上げられていたが、上田の激しいプレイ・スタイルにより、ボディ低音弦側の塗装の剥がれやピックアップ横の窪みなどがより進んでいる。ボディ材はアルダーで、上田の希望により軽めのウェイトのものを使用している。弦は裏通し仕様で、一般的な5弦ベースの5〜2弦を張って半音下げ(低音弦側からA♯、D♯、G♯、C♯)でチューニングされている。なお、『story of Suite #19』のレコーディングでは本器のほか、前述のシグネイチャー・モデルのプロトタイプなども使用したとのこと。
◎Profile
うえだ・たけし●1990年にTHE MAD CAPSULE MARKETSを結成。強靭なバンド・サウンドとデジタルを融合させたサウンドで海外にも進出して人気を博するが、2006年に惜しまれつつも活動を休止する。2008年にソロ・プロジェクトAA=を始動させ、2009年に1stアルバム『#1』を発表。2019年の『#6』まで6枚のオリジナル・アルバムなどを発表してきた。コロナ禍における2020年10月に配信ライヴ”DISTORT YOUR HOME”を敢行。同ライヴを収めた限定発売の映像作品『DISTORT YOUR HOME』にシングルとして「Suite #19」を同梱し、同シングルを発展させた初のコンセプト・アルバム『story of Suite #19』を、2021年12月1日にVICTOR ONLINE STORE限定で発売した。
◎Information
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