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    ピノ・パラディーノのベース名演10曲【前篇:80〜90年代】#来日記念

    • Text : Akira Sakamoto
    • Photo : Paul Natkin / Getty Images

    ディアンジェロ、ジョン・メイヤー・トリオ、ザ・フー、ナイン・インチ・ネイルズ、ゲイリー・ニューマン、ジェフ・ベック、アデルとの共演などで知られる、現代最高峰のベーシストのひとり、ピノ・パラディーノが自身のプロジェクトで来日。3月6日〜9日にBlue Note Tokyoで公演を行なっている。1980年代以降のポップス、ロック、ソウルの名作に数々の印象的なベース・ラインを刻んできた彼は、セッション・ベーシストとしても、またアーティストとしても、現代のベース史を語るうえで欠かせない存在だ。

    今回の来日を記念して、本記事ではピノ・パラディーノの名演を10曲セレクト。長いキャリアを振り返る形で、前篇では1980〜90年代の楽曲にフォーカスする。フレットレス・ベースならではの歌心あふれる表現、正確無比なピッチ、そして楽曲ごとに自在に変化するグルーヴ──その魅力が刻まれた演奏の数々に、あらためて耳を傾けてみよう。(編集部)

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    1. 「War Songs」
    (ゲイリー・ニューマン『I, Assassin』収録/1982年)

    ピノがセッション・ベーシストとして活躍するようになるきっかけとなったアルバムの1曲。ゲイリー・ニューマンはこの年に解散したジャパンにかなり影響を受けていたようで、前作『Dance』ではジャパンのメンバーだったミック・カーン本人を起用していたほどだった。

    本作でもその傾向は如実に現れていて、ヴォーカルも初リーダー作の頃とはかなり違って、デイヴィッド・シルヴィアンにそっくりだ。ピノもフレーズやサウンドといった、ほとんどあらゆる点でミック・カーンにそっくりなベースを弾いているのがおもしろい。こうしたベースのアプローチはニューマンの指示によるものだと思われるが、この後80年代から90年代にかけてフレットレスのスティングレイを駆使して確立した独特なスタイルに固執せず、共演するアーティストによって躊躇なくスタイルを変えていったあたりに、セッション・プレイヤーとしての柔軟さが現れているように思う。

    2.「No Parlez」
    (ポール・ヤング『No Parles』収録/1983年)

    これもイギリス人シンガーのデビュー・アルバムのタイトル曲。ピノはここでも当時愛用していたミュージックマン・スティングレイのフレットレスを使っているが、全篇にわたってコーラスを通したフレットレスとは思えないほどブライトかつアタックの効いたサウンドで、イントロの部分ではスラッピング奏法も取り入れており、オクターヴ離れた2音をプルではじいてスライドさせる、といったこともやっている。フレットレスとフレッテッドの両方の要素を持ったベース・パートと言えるだろう。

    このアルバムでは、「Come Back and Stay」でも同様のアプローチが見られるいっぽう、「Whenever I Lay My Hat」では、後述するジュリア・フォーダムの曲に通じるベース・パートも聴かれ、フレットレスによる幅広い表現の可能性が示されていると思う。

    1985年撮影、愛機のミュージックマン・スティングレイ(フレットレス)とともに映るピノ・パラディーノ。「1981年から1996年までのほぼすべてのレコーディングで、あのベースだけを使っていた」と本人は語っている。

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    3. Call Me
    (ゴー・ウエスト『Go West』収録/1985年)

    1980年代に結成されたイギリスのポップ・デュオによるデビュー・アルバムの収録曲。同じ頃のスクリッティ・ポリッティなどと共通する、コンプの効いた“パキーン”というシャープなサイド・ギターのサウンドを特徴とする軽快なアレンジで、ピノのベースもその雰囲気に良く合った歯切れ良いものとなっている。

    アタックのフレット・ノイズがない点や、時折聴かれるフィルのスライド以外、いわゆる“フレットレスらしさ”は見られないが、立ち上がりの遅いアタックや滑らかなポルタメントというのはあくまでもフレットレスで可能な表現の“一部”であって、弾く人が弾けば曲調に応じた切れ味のあるサウンドも出せることの好例と言えるだろう。

    4.「Prince of Peace」
    (ジュリア・フォーダム『Porcelain』収録/1989年)

    イギリスのシンガー・ソングライター、ジュリア・フォーダムのヴォーカルとピノのフレットレスのデュエットによる録音。ピノのパートはロング・トーン主体のベース・ラインと、イントロのメロディやハーモニクス、重音奏法を交えたオブリガートのふたつのパートをオーバーダブしているようだ。

    この頃ピノが愛用していたミュージックマン・スティングレイのフレットレスはフレット・ラインのないタイプだが、持ち前の正確なイントネーションと、指板と弦が触れて出るバズの絶妙なコントロールによって、歌心あふれる色彩感の豊かな演奏となっている。ハーモニクスの使い方はジャコの影響と思われるが、スライド・ハーモニクスは同じイギリスのパーシー・ジョーンズの流れを汲むものだろう。パーシーのトリッキーなテクニックをメロディックに取り込んでいるところにピノらしさが出ている。

    5. 「Cry of Passion」
    (マヌ・カッチェ『It’s About Time』収録/1992年)

    ピーター・ガブリエルやスティングなどのメジャー・アーティストのバックを務めてきたドラマー、マヌ・カチェの初リーダー作のオープニングを飾る曲。ミディアム・スローぐらいの12/8と4/4のポリリズムの曲で、粘りと湿気のあるマヌの独特なグルーヴ感が心地よい。

    通常の4弦ベースよりも低い音がたくさん出くるが、4弦のフレットレスを2音低くチューニングしている可能性も考えられる。全篇にわたって低い音域に留まったベース・パートは、マヌのドラムスと抜群の相性を見せているのはもちろん、ロー・キーな曲調を決定付ける存在感を放っている。

    A♭からB♭にスライドするところなどは生唾モノだ。基本波が数十ヘルツという低い周波数になる音域でピッチが悪いと、極超低周波の“うなり”が生じてしまうが、ピノのピッチの良さがそれを回避している。個人的に、ピノの魅力を知りたい人には、このアルバムはイチオシだ。

    後篇でもさらなるベース名演を紹介!

    ピノが表紙を飾った1993年1月号。バックグラウンドや演奏哲学を語ったロング・インタビューが掲載されている。

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    ◎執筆者プロフィール

    坂本信(さかもと・あきら)●札幌市出身。ディープ・パープルの「Highway Star」を聴き、中学1年のときにベースを始める。その後は興味の赴くままに多方面の音楽を追求。伊東たけし(sax)や高崎晃(g)、マイク・オーランド(g)、坂田明(sax)、仙波清彦(perc)、一噌幸弘(能管)、三谷真吾(フラメンコg)などと共演するほか、長年にわたり西岡治彦(g)率いるトリオで活動。音楽出版社やレコード会社、楽器メーカーの記事執筆、英文翻訳、のべ1,000人近くのアーティストのインタビューや通訳を行なう。翻訳書は『ビートルズ・ギア』、『ジェームズ・ジェマーソン:伝説のモータウン・ベース』、『レッド・スペシャル・メカニズム』など。
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