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【Live Report】 THE PRIMALS – 2022年6月5日(日)/幕張イベントホール
- Report:Shutaro Tsujimoto
- Photo:Taichi Nishimaki
THE PRIMALS
BASSIST:イワイエイキチ
●2022年6月5日(日) ●幕張イベントホール
『FFXIV』の世界を拡張する
硬質で歌心あるロック・ベース
スクウェア・エニックスが開発したオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下:『FFXIV』)のオフィシャル・バンドで、同ゲームのサウンド・ディレクターである祖堅正慶(vo,g)を中心に2014年に結成されたTHE PRIMALS。ベーシストを務めるのは、1991年にZ-BACKでデビューし、セッション・ベーシストとしては椎名林檎、高野寛、スネオヘアーなど数々のミュージシャンのレコーディングに参加、現在はチリヌルヲワカでも活動しているイワイエイキチだ。
本稿では、THE PRIMALSにとって約4年ぶりとなる単独公演“THE PRIMALS Live in Japan – Beyond the Shadow”の模様をお届けしよう。幕張イベントホールにて6月4日(土)、5日(日)の2日間にわたり開催された同公演のうち、2日目の公演の模様をレポートする。
ライヴは、グランジを彷彿させる低体温なギター・リフにドラムが重なり、徐々に熱を高めながらアンサンブルが積み上げられていく「ENDWALKER」でスタート。ベースがサビ前のセクションでメロディアスなフレーズとともに加わると、楽曲が一気に彩りが添えられる。スライドも交えながらダイナミックに聴かせるイワイの演奏は、幕張イベントホールという大きなステージによく映えるプレイだ。
その後はギターとのユニゾン・フレーズで果敢に攻める「輝ける蒼 ~希望の園エデン:覚醒編~」、直線的な8ビートのドラミングとベースのウネりが痛快な「究極幻想」と、アグレッシブなナンバーが4人の息の合った演奏で立て続けにプレイされる。マーシャル製JCM 800 BASS SERIESのアンプ・ヘッド+キャビネットと彼のトレード・マークでもあるSugi Guitars製RAINMAKER BASSから繰り出されるサウンドは硬質でゴリっとした歪みが心地いい、まさに“ロックな音”という趣。幕張イベントホールほどの会場のスケールとなると低音が回ってしまいベースの音程感が損なわれてしまうケースも少なくないが、この日のベースの音響は細かいフレーズまでクリアに聴き取れるような素晴らしいものだったことも記しておきたい。
この日最初のMCで行なわれたメンバー紹介のパートでは、祖堅による“エイキチ!”という紹介にあわせてイワイのベース・ソロを聴くことができた。ハイ・ポジションで自在に動きながらベース1本で歌心あふれるフレーズで、イワイはその存在感と高度なテクニックをオーディエンスに見せつける。
続く、ベースがストイックにリフを刻む「メタル ~機工城アレキサンダー:起動編~」、ダウン・ピッキングで疾走感のあるビートを演出する「忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~」では、イワイのピック弾きの巧みさが前面に。パンキッシュなベースの魅力を堪能できる時間帯だった。
原曲では女性ヴォーカル曲だった「目覚めの御使い ~ティターニア討滅戦~」、「女神 ~女神ソフィア討滅戦~」は、THE PRIMALSではそれぞれ祖堅とGUNN(g)がメイン・ヴォーカルを取るアレンジに。ベース・プレイにおいては、「女神 ~女神ソフィア討滅戦~」の2番Aメロで、たちばな哲也のドラムとの息の合ったコンビネーションで休符を作りながら緊張と緩和で聴かせるプレイが実に見事だった。
ライヴ中盤にTHE PRIMALSがステージを一度去ると、ステージ・セットが変わり、ローブに身を包んだ謎の人物が登場。実はこれがゲーム音楽界のレジェンド、植松伸夫だった。植松はシンセサイザーで「悠久の風」、「メインテーマ~マトーヤの洞窟メドレー」、「ビッグブリッヂの死闘」といった『ファイナルファンタジー』シリーズの往年のクラシックを新たなアレンジで聴かせ、会場からの拍手喝采をさらう。演奏後に彼がMCで会場に集まったオーディエンス=光の戦士たち(『FFXIV』プレイヤーの呼称)に向けて語った、“昔はここまで大規模なゲーム音楽のイベントはできなかったと思います。ゲーム音楽も育ったなっていうのをしみじみ感じました。”という言葉には、多くの人が胸を打たれたことだろう。
再びTHE PRIMALSのメンバーがステージへと戻ると、公募で集まったというゲーム・プレイ動画とともに「貪欲」、「To the Edge」が演奏された。興味深かったのは、スクリーンに映し出されるキャラクターの動きと楽器のキメやブレイクがマッチするという演出。THE PRIMALSのライヴでしか観ることのできない、徹底したエンターテイメントの追求に大いに感心させられた。そして「貪欲」で触れるべきは、主張するリード・ベースだろう。縦横無尽に動き回るベースは、まさにゲームのバトル・シーンにふさわしい雰囲気を作り出していた。叩きつけるような2フィンガーが生み出す力強い低音感がヘヴィなサビの爆発力のエンジンとなる「To the Edge」を経て、ヒートアップする演奏はその熱量を保ったまま「Shadowbringers」へと続いた。
“ステージがにぎやかになってきましたけど、なんですかこれは?”という祖堅のMCが挟まれると、アコースティック・セットで「知恵の巻貝 ~オールドシャーレアン:夜~」の演奏がスタート。ここでイワイはアコースティック・ギターに持ち替え、美しいギター・インストを大らかなリズムのバッキング・ギターで支えた。
会場にはアンビエントなSE。そこに歪んだドラム・ビートが重なると、バンド・セットに戻ったTHE PRIMALSが「Close in the Distance」、「Flow Together」を披露。「Flow Together」の叙情的なヴォーカル・メロディに寄り添うベースが素晴らしかった。短いアニメーションを挟むと、人気曲「此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~」。マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(vo)のパワフルな歌声とパフォーマンスが鮮烈な印象を残したこの曲では、GUNNのギターと有機的に絡みながらベースがウネる。
ここからはクライマックスに向けて人気楽曲が次々と投下される。ブリブリと歪んだベースのイントロから幕開ける「ロングフォール ~異界遺構 シルクス・ツイニング~」ではダンサーも登場し、ステージは熱狂の渦に。4つ打ちのダンス・ロックのなかでベースは高音域をメロディアスに使ったプレイで聴かせ、オーディエンスも身体を揺らしながらその多幸感あるビートを受け止めていた。
“最後だから暴れていってね。声出せないけど(笑)”というMCから、ダークな雰囲気をまといながらも熱量あふれる「魔神 ~魔神セフィロト討滅戦~」、実際に火柱が上がる演出も加わった「過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~」を経て、ライヴ本篇は最終盤へ。「過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~」でのイワイは、かなりの大ぶりで叩きつけるようなピック弾きで、パワー・プレイで魅せる。モーションや立ち姿も含めて、本当に絵になるベーシストだと感じさせられた。カッティング・ギターと並走しながら奏でられる高速のベース・リフとサビのウラでの旋律的なプレイのコントラストで「エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~」をダイナミックに聴かせると、本篇は幕を閉じた。
アンコール1曲目は、「メタル:ブルートジャスティスモード ~機工城アレキサンダー:律動編~」。この曲では途中でレゲエ・パートが挟まれるなど、ベースの多様なリズム・アプローチを聴けたのも嬉しかった。続いて、ゲームに登場する“時間停止”をステージ上の演奏でも再現した「ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~」。そして、2時間半にわたるステージはベースがオクターヴ奏法で軽快なデジ・ロックに華を添えた「ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~」で最高潮の盛り上がりに達し、終幕。演奏し終えたあと、祖堅は割れんばかりの拍手に包まれながら“今日のライヴを楽しめた人は『FFXIV』を真剣にやっていた人だ!”と言葉を残しステージをあとにした。
■2022年6月5日(日)@幕張イベントホール
セットリスト
1. ENDWALKER
2. 輝ける蒼 ~希望の園エデン:覚醒編~
3. 究極幻想
〜MC〜
4. メタル ~機工城アレキサンダー:起動編~
5. 忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~
〜MC〜
6. 目覚めの御使い ~ティターニア討滅戦~
7. 女神 ~女神ソフィア討滅戦~
8. 悠久の風
9. メインテーマ~マトーヤの洞窟メドレー
10. ビッグブリッヂの死闘
-MC-
11. 貪欲
12. To the Edge
13. Shadowbringers
14. 知恵の巻貝 ~オールドシャーレアン:夜~(Acoustic Version)
15. Close in the Distance
16. Flow Together
17. 此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~
18. ロングフォール ~異界遺構 シルクス・ツイニング~
〜MC〜
19. 魔神 ~魔神セフィロト討滅戦~
20. 加重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~
21. エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~
EN1.(22)メタル:ブルートジャスティスモード ~機工城アレキサンダー:律動編~
EN2.(23)ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~
EN3.(24)ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~
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