プランのご案内
  • NOTES

    UP

    【Live Report】ミスター・ビッグ – 2023年7月26日(水)/日本武道館

    • Report:Koji Kano
    • Photo:William Hames

    BASSIST:ビリー・シーン
    ●2023年7月26日(水)●日本武道館

    34年の歴史に終止符を打つ、
    日本で愛されたモンスター・バンドの集大成

     “The BIG Finish FAREWELL TOUR”。文字どおり、USハードロックを代表するモンスター・バンド、ミスター・ビッグが34年の活動に終止符を打つ、最後のライヴ・ツアーだ。彼らが本ツアーのキックオフに選んだのはここ日本。“親日バンド”として日本人からも愛されてきた“ハードロック・レジェンド”にとって、日本での公演には特別な思いもあったはずだ。ここでは2023年7月に開催されたジャパン・ツアーより、日本武道館で行なわれた最終公演の模様をレポートしていく。そしてテクニカル・ベースの元祖として、後続のベース・シーンに多大な影響を与えたベース・ヒーロー、ビリー・シーンがミスター・ビッグで魅せた最後の名演をたっぷりとお届けしていこう。

     ほぼ定刻どおり、暗転とともに後方の大型スクリーンに映し出されたのはバックヤードからステージへと向かう4人の姿。沸き立つ歓声とともに颯爽とステージに姿を現し、トレードマークでもあるヤマハ製Attitude Limitedを手にしたビリーのライトハンド・タッピングから放たれた一曲目は、屈指のキラー・チューン「Addicted to That Rush」。ステージ中央にてポール・ギルバート(g)との高速ユニゾンを交えたテクニカルなかけ合いを奏でながら、会場のボルテージを一気に上げていく。2曲目は、2018年に逝去したドラマー、パット・トーピーの意思を次ぐニック・ディヴァージリオ(support d)のドラム・ビートが始まりを告げた「Take Cover」。中盤では会場が一体となった“Take Cover”のシンガロングが響きわたるなか、ビリーは力強くどっしりとした2フィンガーでグルーヴを支えていた。

    左から、ビリー・シーン(b)、エリック・マーティン(vo)、ポール・ギルバート(g)、ニック・ディヴァージリオ(support d)。

     重厚かつスリリングなハード・アンサンブル「Undertow」に続き、後方のスクリーンに彼らの若かりし頃の写真とともに、1991年にリリースされた代表作『Lean Into It』のジャケットが映し出される。本ツアーは“『Lean Into It』の完全再現+ベストヒット”という内容で構成されることが事前にアナウンスされており、ここから本作の再現ゾーンへと突入していく。まずは1曲目収録のアッパー・チューン「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」。ビリーはライトハンド・タッピングを交えたテクニカル・プレイでアンサンブルをリードしつつ、ポールとともに必殺の“電動ドリル奏法”が炸裂。これにはオーディエンスからひと際大きな歓声が上がった。ドッシリとした重厚感溢れるグルーヴを奏でる「Alive and Kickin’」、ビリーのハイ・ポジションでの伸びやかな和音が心地いい「Green-Tinted Sixties Mind」に続き、ビリーがダブル・ネックのAttitudeに持ち替えて披露したのは「CDFF-Lucky This Time」。ここでは2本あるうちの下側のネック(5弦ベースの下4本の音域)を使用し、重厚なヘヴィ・フレーズを鳴らしていた。思わず体が揺れるファンキー・チューン「Voodoo Kiss」、推進力のある力強いアンサンブルを体感できる「Never Say Never」に続き、エリック・マーティン(vo)の透き通った美声に酔いしれた「Just Take My Heart」では、ビリーの歌心たっぷりなメロディアスな低音がグルーヴを包み込んだ。ビリーの太く、力強い歌声から始まった「A Little Too Loose」では、エリックの歌声との美しいハーモニーを響かせるなど、ヴォーカリストとしても存在感を示した。

     10曲目収録の「Road to Ruin」を終えたところでMC。ここではエリックによるメンバー紹介が行なわれたが、ビリーの名前が呼ばれた瞬間、ひと際大きな拍手と歓声が起こっていたのが印象的だった。“『Lean Into It』完全再現”の最後に披露されたのは、代表曲「To Be With You」。ビリーは再びAttitude Limitedへと持ち替え、親指弾きを用いた温かみのあるプレイでアンサンブルを包み込んだ。会場が一体となったシンガロングが巻き起こったとき、それは満員の日本武道館がひとつになった瞬間だった。

     続いてステージ前方に用意されたアコースティック・ステージへと移動した4人。エレアコ・ギターにミニ・ドラムというセットで「Big Love」「The Chain」「Promise Her The Moon」「Where Do I Fit In?」「Wild World」の5曲を披露してくれた。ここでのビリーは、あくまでも歌を支えることに徹したベース・プレイ。ロー感を一手に担いつつも、ときおりベースを縦に構えてみたり、複数の弦を掻き鳴らすバッキング・プレイを繰り出してみたりと、アコースティック・アンサンブルを楽しそうに盛り上げる姿が印象的だった。メンバーがアコースティック・ステージからバックヤードに戻るなか、ひとりステージに残ったポール。しっとりとした空気を切り裂くように始まったギター・ソロでは、「Nothing but Love」のフレージングを断片的に絡めつつ、テクニカルに、そして大胆な速弾きで会場を沸かしてくれた。ギター・ソロに続いたのは屈指のハードロック・ナンバー「Colorado Bulldog」。会場の空気が一変するなか、ビリーはAメロでの華麗なウォーキング・フレーズ、ブリッジ・ミュートしながらの親指弾きなど、多彩なプレイで楽曲を彩っていた。

     ビリーを除くメンバーがステージを去り、歓声とともにベース・ソロが幕を開ける。高速3フィンガーから始まり、両手タッピング、低音域から高音域まで指板を広く使ったメロディアスなフレージング、指板を激しく叩くアグレッシブなプレイ、コード・バッキングとメロディをひとりで再現するプレイなど、唯一無二の“低音独演”を披露してくれた。ビリーのリストバンドに記された“四弦達人”の文字のとおり、4弦ベースの可能性を推し進めた生きるレジェンドが繰り出すひとつひとつのプレイに会場はどよめく。約6分半にもおよぶ独演はまさに圧巻であり、その姿はロック・スターそのものだった。そしてベース・ソロの勢いのまま披露されたのは、高速ハードロック・ナンバー「Shy Boy」。ポールとビリーによるステージ中央でのテクニカル・ユニゾンで会場のボルテージは最高潮に達し、本編は幕を閉じた。

     再びステージに登場した4人。会場一体となったシンガロングが響きわたった「30 Days in the Hole」でアンコールがスタート。ビリーとエリック、ポールとニックがそれぞれ担当パートを交代して披露された「Good Lovin’」では、各メンバーの演奏レベルにも驚きだったが、ビリーはヴォーカリストとしてオーディエンスを煽って盛り上げたり、ステージを縦横無尽に駆け回るなど、エンターテイナーとして、御年70歳とは思えないほどの運動量で会場を沸かせてくれた。各メンバーがバックヤードへ戻るなか、ひとりステージに残ったビリーは、自らの口でオーディエンスへの感謝、そしてジャパン・ツアーに込めた思いを語ってくれた。そしてビリーの紹介とともに各メンバーが自身の家族とともにステージに姿を現す。2018年に逝去したパット・トーピーの遺族がステージに登場し、涙ながらに各メンバーと抱き合うシーンはなんとも心温まる瞬間であり、筆者のまわりには涙を流すオーディエンスも多くいた。そして終演を惜しみつつ、本公演最後に演奏されたのは、会場一体の手拍子から始まったザ・フーのカバー楽曲「Baba O’Riley」。ポールの歯ギター、ビリーのベース・ソロなどが披露され、約2時間半にもわたるステージは幕を閉じた。

     デビュー以降、日本でも絶大な人気を誇ったミスター・ビッグの日本での最終公演は、笑いあり涙ありの、心に残る圧巻のステージだった。今後ミスター・ビッグを日本で観ることができないのは寂しい限りだが、“The BIG Finish FAREWELL TOUR”はまだまだ続いていく。改めて彼らにエールを送りながら、伝説として生き続けるであろうミスター・ビッグの楽曲を心に刻んでおこう。

    ■2023年7月26日(水)@日本武道館

    セットリスト
    01.Addicted to That Rush
    02.Take Cover
    03.Undertow
    04.Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
    05.Alive and Kickin’
    06.Green-Tinted Sixties Mind
    07.CDFF-Lucky This Time
    08.Voodoo Kiss
    09.Never Say Never
    10.Just Take My Heart
    11.My Kinda Woman
    12.A Little Too Loose
    13.Road to Ruin
    14.To Be With You
    15.Big Love
    16.The Chain
    17.Promise Her The Moon
    18.Where Do I Fit In?
    19.Wild World
    20.Guitar Solo
    21.Colorado Bulldog
    22.Bass Solo
    23.Shy Boy
    24.30 Days in the Hole
    25.Good Lovin’
    26.Baba O’Riley

    ミスター・ビッグ
    HP Twitter Instagram

    ビリー・シーン
    HP Twitter