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【ディスク・レビュー】BASSMAN’S LIBRARY in Summer 2024

  • Illustration:Tako Yamamoto

BASSMAN’S LIBRARY
in Summer 2024

ベーシストにお薦めの新作を紹介するBASSMAN’S LIBRARY。今回は本誌2024年8月号(SUMMER)に掲載された、今夏リリースの19作品のディスク・レビューを公開!

※ジャケット写真をクリックするとレビューに飛びます。

『放生会』
椎名林檎
(b.鳥越啓介)
『8STEPS』
THE JAZZ AVENGERS
(b.芹田珠奈)
『Morning View XXIII』
インキュバス
(b.ニコル・ロウ)
『From The North – Live In Manchester』
ゴーゴー・ペンギン
(b.ニック・ブラッカ)
『ディスコの卵』
ゲスの極み乙女
(b.休日課長)
『Más Caliente』
オルケスタ・デ・ラ・ルス
(b.澁谷和利)
『Sparkle X』
THE YELLOW MONKEY
(b.廣瀬洋一)
『Free to Fly』
AKi
(b.Aki)
『Five Steps On The Sun』
ダーウィン
(b.モヒニ・デイ)
『Unspoiled』
Kroi
(b.関将典)
『CIRCLE OF LIFE』
LIV MOON
(b.MASAKI)
『Love Heart Cheat Code』
ハイエイタス・カイヨーテ
(b.ポール・ベンダー)
『RIGHT NOW』
CASIOPEA-P4
(b.鳴瀬喜博)
『愛楼』
MINA
(b.MINA )
『NOW I SEE THE LIGHT』
toe
(b.山根さとし)
『TEN』
MR.BIG
(b.ビリー・シーン)
『Forbidden Fruit -2nd piece-』
East Of Eden
(b.わかざえもん)
『Seven Garbage Born of Hatred』
Petit Brabancon
(b.高松浩史)
『Milton + esperanza』
ミルトン・ナシメント&エスペランサ
(b.エスペランサ・スポルディング)

『放生会』
椎名林檎

多数ゲストが作品を彩るなか、リズム体が統一感をもたらす

 5年ぶりのオリジナル・アルバムは、近年の椎名林檎サウンドにおける重要人物である鳥越啓介と、彼とともにデビュー25周年ツアーに参加した石若駿がリズム体に。デュエット曲を多数含む色鮮やかな楽曲群で、ベースがアンサンブルに統一感をもたらしている。例えばシングル版ではBIGYUKIのシンセ・ベースが蠢いている②も、アルバム収録にあたり再REC。鳥越は音価のコントロールでリズムに緩急を付けつつ、ホーンやストリングスが彩る絢爛なサウンドを低音で引き締めている。前後の曲の流れもスムーズにするアプローチだ。高速ジャズ・ナンバーの③では、抜群のタイム感とウッド・ベースながらもタイトな音色が高揚感を煽っていて、ベースが牽引するヒリついた空気がたまらない。一方、竹下欣伸とともにコントラバスを奏でた④では幻想的な曲調に馴染むよう浮遊感のある音色を展開し、⑦では宇多田ヒカルの繊細な歌と溶け合うようにメロウなフレーズを奏でている。そのほか、ソリッドな音色が緊張感を生む⑤、コード弾きやスラップを交えアグレッシブなロック・ベースを弾く⑨、ふくよかな音色とウワモノ的な立ち回りでアンサンブルを華やかにする⑩など、全曲が聴きどころと言える。前作『三毒史』でもジャズのフィーリングが垣間見えていた鳥越だが、本作では同じくジャズ畑の石若に触発されてプレイがより伸びやかになり、アルバム全体を躍動させている。(神保未来)

◎作品情報
『放生会』
椎名林檎
ユニバーサル/UPCH-20671(通常盤) 
発売中 ¥3,300 全13曲

参加ミュージシャン
【鳥越啓介(b)】
椎名林檎(vo, prog)、石若駿(d)、名越由貴夫(g)、林正樹/伊澤一葉(k)、中嶋イッキュウ/AI/のっち/宇多田ヒカル/新しい学校のリーダーズ/Daoko/もも(vo)、竹下欣伸(b)、ほか

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『8 STEPS』
THE JAZZ AVENGERS

全曲メンバーによるオリジナルで完成度を高めた第2弾

 世界中の才能ある若手が一堂に会するイベント“ワン・ヤング・ワールド・サミット2021”に向けて結成された、オール女性によるバンドの2作目。バンド名を冠した1作目ではほとんどの曲、本作では全曲がバンドのメンバーによる曲というところにも、このプロジェクトの志の高さが表われている。1枚目はやや粗削りな部分がありながらも、楽曲、演奏の両面でメンバーの個性が発揮されていたのに対して、本作では80〜90年代のファンクやフュージョンのスタイルにJ-POPのメロディー感覚を融合させる方向性に的を絞り、アルバム全体のサウンドの統一感や演奏の一体感など、プロジェクトとしての完成度を高めるほうにエネルギーを費やした印象だ。ベースの芹田珠奈は1枚目と同様、オリジナル曲の「J-FUNK」で演奏でもファンキーな感覚を発揮。フロント・ピックアップ主体のアーシーなサウンドによるスラップや、タッピングも交えた川口千里(d)とのバトル、メロウな2フィンガーによるソロなど、多彩な見せ場を創り出している。(坂本信)

◎作品情報
『8 STEPS』
THE JAZZ AVENGERS
エレックレコード/YZAG-1121
発売中 ¥3,000 全10曲

参加ミュージシャン
【芹田珠奈(b)】
川口千里(d)、瀬川千鶴(g)、 竹田麻里絵(k)、米澤美玖(tn-sax)、寺地美穂/WaKaNa (al-sax)、中園亜美(sp-sax)、ほか

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『Morning View XXIII』
インキュバス

インキュバスが新ベーシストとともに出世作を蘇らせる!

 新たに追求した大陸的なグルーヴとおおらかな歌心が数多いるミクスチャー勢に差を付け、インキュバスの人気を決定づけた2001年の4thアルバムを、リリースから20余年を経て再レコーディング。ベースをプレイしているのは、2023年にバンドに加わったニコル・ロウ。マイリー・サイラスやパニック!アット・ザ・ディスコらと共演歴がある5弦ベース使いだ。下を支える控えめなプレイに徹しながら、アトモスフェリックなバラード④ではメロディアスなフレーズを奏で、ジャム・バンド的な⑪ではファンキーなリフも閃かせる。⑬では音の輪郭をぼやかせ、アンビエントな音像作りにひと役買う。アレンジは基本、原曲を踏襲しているが、オリジナル盤でのダーク・ランスのプレイと聴き比べてみると、音色やプレイのニュアンスに個性の違いがはっきりと表われていておもしろい。まろやかな音色でローが刻むリズムは心臓の鼓動を思わせる心地よさがある。オルタナ・ロック調の「Under My Umbrella」では、オリジナルにはないシンセ・ベースが鳴る。(山口智男)

◎作品情報
『Morning View XXIII』
インキュバス
ヴァージン/2279471
発売中 ¥2,530 全13曲

参加ミュージシャン
【ニコル・ロウ(b)】
ブランドン・ボイド(vo)、マイク・アインジガー(g)、ホゼ・パシーヤス(d)、DJキルモア(dj,k)

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『From The North – Live In Manchester』
ゴーゴー・ペンギン

3羽のペンギンたちによる、北からの便り

 マンチェスターが誇るジャズ・トリオ、ゴーゴー・ペンギンが届けてくれたのは、彼らのホームタウンにある老舗スタジオでのライヴ音源。そのオールド・グラナダと呼ばれるスタジオは、バンドの長年のプロデューサーであるブランドン・ウィリアムズが、かつてLow Four Studiosとして運営していた場所。そんな彼らのホームと言える場所で、近年の2作品から7曲をピックアップし、昨年の夏に行なわれた録音は、ウォームでありながら伝統的な場所から来る緊張感が同居する、一放一収の独特なムード。昨年リリースの最新作から加入したドラマー、ジョン・スコットのドラミングは良い意味で音粒がルーズ。バンドになかった抜け感がグルーヴを一変させ、ライヴ音源だとそれは明確だ。そして何より、今年の来日公演でもオーディエンスを驚かせたニック・ブラッカのベース・プレイ。今作でも、その類稀なテクニックを見せるが、それをも覆い隠すパッションがしっかりと収められている。進化したリズム・セクションのローなグルーヴを体感して欲しい。(hiwatt)

◎作品情報
『From The North – Live In Manchester』
ゴーゴー・ペンギン
ソニー/SICP-31716
発売中 ¥2,750 全8曲

参加ミュージシャン
【ニック・ブラッカ(b)】
クリス・アイリングワース(p)、ジョン・スコット(d)

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『ディスコの卵』
ゲスの極み乙女

各楽器が切なく絡み合い“ディスコ”に収束する快作

 ゲスの極み乙女。改め、ゲスの極み乙女が放つ、前作より約4年ぶり、6枚目となるフル・アルバム。タイトルどおり“ディスコ”や“ファンク”といったキーワードを感じる一方、全体に“切なさ”を漂わせるあたりに、彼らならではの美学を感じる。ミックスは井上うにと渡辺省二郎、そしてマスタリングはテッド・ジェンセンが担当したとのことであるが、それぞれの楽器が有機的に絡まる様子が目の前で広がる。そんななか、全楽器がスリリングにリンクしてキメを構築するプログレッシブな展開の⑩や、タイトなスラップからたっぷり音価で聴かせる⑧など、表情豊かな休日課長のプレイも存分に堪能できる。また、無邪気に音を詰め込む③など、自由かつあそび心に富んだフレーズを随所に込る一方、ほぼひとつのリフで押しとおす⑤で見せる胆力も見ものだ。“ディスコ”とはいえ、70年代あたりの懐古趣味ではなく、あくまで2020年代的解釈における“ディスコ”であり、逆にショパンの時代にまで一気に駆け巡る(⑩)ストレンジな快作である。(近藤隆久)

◎作品情報
『ディスコの卵』
ゲスの極み乙女
ワーナー/WPCL-13596(通常盤)
発売中 ¥3,300 全14曲

参加ミュージシャン
【休日課長(b)】
川谷絵音(vo,g)、ちゃんMARI(k)、ほな・いこか(d)

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『Más Caliente』
オルケスタ・デ・ラ・ルス

40周年記念作品! ウワモノを支えるベースの厚み

  “もっと熱く!”を意味するアルバム・タイトル一発で、こちらはすっかり嬉しくなる。日本産のサルサを世界に知らしめた、グラミー賞ノミネート経験もあるレジェンド・グループ、オルケスタ・デ・ラ・ルスの結成40周年記念アルバムが登場した。コラボレーション・ゲストもトニー・スーカル、大黒摩季、ナオト・インティライミ、當間ローズと熱い心を感じさせるメンバーが並び、プログラムも1stアルバム『DE LA LUZ』の収録曲「Salsa Caliente Del Japón」(1990年/ビルボードのラテン・チャートで11週1位を記録)のアンサーソングに当たるタイトル・チューンはじめ、「涙そうそう」や「Stardust」の粋なラテン化など、徹底的にサービス精神に富む。歌、ブラス、打楽器と、すべてが華やかに迫るが、そのなかで大きなノリでずっしりと、“ウワモノ”を支えるのが澁谷和利のベースだ。「La Luz Del Este」の3分10秒あたりからスラップ奏法に転じ、そこに勢いよくコーラスが入り込んでいく。この曲を二度三度聴き返し、その都度ヴォリュームを上げた。(原田和典)

◎作品情報
『Más Caliente』
オルケスタ・デ・ラ・ルス
NSレコーズ・ジャパン/NSCD-1217
発売中 ¥4,000 全12曲

参加ミュージシャン
【澁谷和利(b)】
NORA(vo)、JIN (vo,cho)、鈴木ヨシロー(timb,cho)、伊波淑(congas)、佐藤由(bongo)、斎藤タカヤ(p)、佐久間勲郎/五反田靖/前田大輔 (tp)、相川等(tb)、大黒摩季/ナオト・インティライミ/當間ローズ(vo)、トニー・スカール(timb)

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『Sparkle X』
THE YELLOW MONKEY

ワン・グルーヴで駆け抜ける円熟のロック・ベース

 復活を遂げて、2回目の黄金期を迎えつつあるかのような充実感を感じるTHE YELLOW MONKEYの10枚目。UK・USロック、歌謡曲など多彩な引き出しを持ちつつも、パッと聴いてイエモンとわかる、圧倒的なオリジナリティ。彼らの演奏にはある種のユルさというかおおらかさがある。演奏を点で捉えたりせず、どの曲もひとつのビート感やグルーヴで最後まで走りきるという小細工のなさは、2024年の今だからこそ本当に魅力的に聴こえる。力は抜けているが切れ味があり、サラッと聴かせつつも余韻は長い。磨きのかかった本作のイエモンのサウンドは“円熟”という形容がふさわしい。そしてHEESEYのベースである。先述したイエモンのアンサンブルのおおらかさは彼によるところが大きい。長めの音符でウネウネと動くことで、楽曲に強靱なビート感をもたらす。音数は多いがアンサンブルに馴染み、ビートと一体になりグイグイとくる。細かいジャブは一切なしで全部がストレートのような骨太なロック・ベース。聴いているだけでなんだか楽しくなってしまうベース・プレイなんて、そうそうはない。(伊藤大輔)

◎作品情報
『Sparkle X』
THE YELLOW MONKEY
ワーナー/WPCL-13560(通常盤)
発売中 ¥3,300 全11曲

参加ミュージシャン
【廣瀬洋一(b)】
吉井和哉(vo,g)、菊地英昭(g)、菊地英二(d)、三国義貴/鶴谷崇/奥野真哉 (k)

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『Free to Fly』
AKi

ルーツと現在を咀嚼しきった作曲家としての成長

 シドのベーシスト、明希のAKi名義でのソロ第三作。いわゆるベース・アルバムではなく、作曲家・ヴォーカリストとしての面を押し出した作風は前2作と同様で、時々の刺激や影響を咀嚼したバラエティ豊かな楽曲が楽しめる。シンセ・リフを点で置いていくような①の手法は前作の「Diminish」でも聴かれたが、その音風景や質感はまったく異なったものとなっており、さまざまなアプローチを自在に使いこなす成長や進化を感じさせる。一方で②③⑦⑨のようなハード系/疾走系楽曲に関しては、以前のラウド路線というよりは90年代V系やオーセンティックなハードロック、メロコア的なレイドバック感があり、自身のルーツを振り返りつつ現在のマインドでアウトプットしているような、楽しみ重視の印象を受ける。彼の本質のひとつであるアコースティック感覚は⑤でも顕著だが、その上で白眉だったのが⑧で、ディズニーやミュージカルのような明るい大らかさを貫き通した意欲作。大作に果敢に挑戦し、見事モノにした、ひとつの到達点と言えるかもしれない。(山本彦太郎)

◎作品情報
『Free to Fly』AKi
マーヴェリック/DCCA-131〜3
発売中 ¥6,600(2CD) 
全10曲 (Disc2には各楽曲のデモ音源を収録)

参加ミュージシャン
【Aki(vo,b)】
加藤貴之(g)、MOTOKATSU/影丸(d)、佐々木真理(p)、星野沙織(vl)

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『Five Steps On The Sun』
ダーウィン

プログレ・メタル・プロジェクトの4作目にモヒニ・デイが初参加!

 ギタリスト兼コンポーザーのダーウィンを中心としたプログレッシヴ・メタル・プロジェクトが、通算4作目となる新作を発表した。1作目から同プロジェクトの主要メンバーであるサイモン・フィリップス、マット・ビソネットが今回も全面参加。また1作目から参加しているグレッグ・ハウのほか、デレク・シェリニアンなど強力なメンバーが参加している。テクニック面はもちろん、メロディの壮大さやスケール感の増した楽曲がこれまで以上に魅力的だが、何より注目したいのは本作から参加している女性ベーシスト、モヒニ・デイだろう。2019年にB’zの『NEW LOVE』へ参加し、ツアー・メンバーも務めた彼女は、昨年に初のソロ・アルバムを発表するなど日本でも注目度急上昇中だ。本作でも5弦ベースによる攻撃的なプレイから叙情的な曲でのタメのきいたプレイまで、曲の性格に応じて見事に弾きこなすなど、技術の高さとセンスの良さを存分に発揮。新世代のスター・ベーシストと呼ぶにふさわしいプレイを炸裂させている。(舩曳将仁)

◎作品情報
『Five Steps On The Sun』
ダーウィン
P-VINE/PCD-25396
発売中 ¥2,750 全10曲

参加ミュージシャン
【モヒニ・デイ(b)】
サイモン・フィリップス(d)、ダーウィン/グレッグ・ハウ/アンディ・ティモンズ(g)、デレク・シェリニアン/ジュリアン・ポラック(k)、マット・ビソネット(vo)、ほか

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『Unspoiled』
Kroi

健康優良不良音楽少年たちの汚れなきファンク愛

 年始に武道館で開催された単独公演やテキサス州でのSXSW 2024を経てリリースされた、Kroi待望の3rdアルバム。極太のファンクネスが持ち味の彼らだが、冒頭曲は意外にもスローテンポかつドリーミー。異国の風景を悠然と眺めるようなサウンドは、ビッグバンドへとステップアップを続けるKroiの確かな自信を表わしているかのようだ。大人びた空気から一転、カッティング・ギターとグルーヴィなベースの会話劇のような⑤、歪み系+ルート弾きのパンク・ベースが痛快な⑥、マリリン・マンソンを彷彿させるイントロから、ゴリゴリのファンク・ナンバーにギアチェンジする⑦……Kroiらしいセンス抜群の“悪童”らしい笑みが一気に溢れ出す。ラテン愛が爆発する⑧やモータウン風の⑬、ソウルフルな美メロとロック・サウンドが融合する⑭など、これほど多くの色彩をひとつのバンドが見せてくれることに驚かされるが、奇を衒う雰囲気はない。極彩色の音楽スタイルの中心に貫かれたファンクへのピュアな愛情、それが今作最大の魅力だろう。(フガクラ)

◎作品情報
『Unspoiled』
Kroi
ポニーキャニオン/PCCA-6295(通常盤)
発売中 ¥3,300 全14曲

参加ミュージシャン
【関将典(b)】
内田怜央(vo,g)、長谷部悠生(g)、益田英知(d)、千葉大樹(k)

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『CIRCLE OF LIFE』
LIV MOON

テクニカル&メロディアスなベースが光る通算6枚目

 AKANE LIV率いるシンフォニック・メタル・バンドが、一昨年に6年ぶりとなる前作『OUR STORIES』で完全復活を果たしたのに続く通算6枚目。タッピングによる流麗なベース・ソロが挟み込まれる④、歌の合間で印象的なオブリ(03分25〜30秒)を聴かせる⑤、高速パッセージとメロディアスなソロが同居した⑥。また、ヴァイオリンとギターとベースの一糸乱れぬユニゾンが炸裂する⑦は、楽想的にはドリーム・シアターを彷彿とさせる場面もあって引き込まれた。さらにベースから始まるクラシカルな⑧の後半ではクイーンの「Bohemian Rhapsody」を想起させるなど、総じて構成力に富んだ楽曲展開も魅力だ。4オクターヴを誇る張りのある歌と緻密なバンド・アンサンブルのなかで、MASAKIのバッキングにソロにと実に聴き応えのあるプレイが展開されていて、渾身のアルバムに仕上がっている。なお、デラックス・エディションには昨年10月のツアーの密着映像や各メンバーのインタビュー、それにライヴ映像が収録されたDVDが付属している。(石沢功治)

◎作品情報
『CIRCLE OF LIFE』
LIV MOON
ワルキューレ/WLKR92(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【MASAKI(b)】
AKANE LIV(vo)、KENTARO(g)、前田遊野(d)、星野沙織(vl)

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『Love Heart Cheat Code』
ハイエイタス・カイヨーテ

バターのようになめらかなプレイでグルーヴを掌握

 ネオソウル、ジャズ、ファンクを混ぜこぜにしたマッシヴでマキシマムなスタイルで新たな地平を切り開いてきたハイエイタス・カイヨーテの4作目だ。ところで、樹木や草花などの植物は、クリーンで優しい印象を与えるが、近くで見ると案外禍々しい形状をしている。これと似た感覚を当作品に抱いた。各パーツは歪な形をしているが、全体としては調和が取れている。わちゃわちゃしていて人口密度の高いサウンドではあるものの、各プレーヤーの軽やかな身のこなしのおかげで、風通しの良い軽妙な作品となっている。バンドの軸となるのは、ネイ・パームの天衣無縫なヴォーカルと、それに対応するポール・ベンダーのダウン・トゥ・アースなベースにあると再認識した。いくら無茶なアプローチをしても土台がぐらつかないのは、ベンダーがバターのようになめらかなプレイでバンドのグルーヴを掌握しているからだ。ベースが特に印象的なのは、6/8拍子の③と⑤だ。リフを自在に変形させ、ヴォーカルとグルーヴの間に潤滑油を注ぐような的確なプレイを披露している。(鳥居真道)

◎作品情報
『Love Heart Cheat Code』
ハイエイタス・カイヨーテ
ブレインフィーダー/ビート
BRC758
発売中 ¥2,860 全12曲

参加ミュージシャン
【ポール・ベンダー(b, cello)】
ネイ・パーム(vo,g)、サイモン・マーヴィン(k)、ペリン・モス(d)、トム・マーティン(g)、ニコデモス(fl)、テイラー・クロフォード(frello)、ほか

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『RIGHT NOW』
CASIOPEA-P4

現在進行形をアピールしたデビュー45周年の集大成

 2022年に幕を開けた、CASIOPEA第4期にあたる“CASIOPEA-P4”が放つ2作目のアルバム。デビュー45周年の集大成となる本作で、鳴瀬喜博と第4期から参加の今井義頼は38の歳の差がありながらも、カシオペアの屋号の期待に沿った完璧なコンビネーションを聴かせる。①ではベースとドラムの2ヴァースでのアドリブがフィーチャー。ダブル・ストップやハイノートでのフレーズなど、目まぐるしく情景を変化させる。エフェクティブなファンク・ベースが聴ける③では、中間部でリズム・セクションが躍動。⑧は鳴瀬が第2期の初期に書いた未発表曲をリアレンジしたナンバーで、ダブル・ストップによるリフやユニゾンのメロディなど、聴きどころが満載だ。歪み系のエフェクターをかけたベース・ソロもフィーチャーされている。カシオペア時代の“スリル・スピード・テクニック”のキャッチ・フレーズはそのまま、長い歴史を経た今だからこそできる楽曲が並び、現在進行形のバンドをアピールした作品となっている。(ガモウユウイチ)

◎作品情報
『RIGHT NOW』
CASIOPEA-P4
ハッツ/HUCD-10328
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【鳴瀬喜博(b)】
野呂一生(g)、大髙清美(k)、今井義頼(d)

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『愛楼』
MINA

気鋭のベーシスト/シンガーMINAが放つ1st EP

 チャイナ・テイストと疾走感を融合させた華やかな①を筆頭に、スタイリッシュ&かつダンサブルな②、爽やかな③、洗練されたアッパーさが心地いい④、温かみを湛えた⑤という表情豊かな5曲をパッケージ。キャッチーなメロディやモダンなスピード感、起伏を生かしたアレンジなどを用いて、全曲を上質な楽曲に仕上げた手腕は見事。エモさとキュートさを兼ね備えたヴォーカルや等身大の心情を綴った歌詞も魅力的で、ベースに限らずMINAのコンポーザー/シンガーとしてのスキルの高さも注目と言える。実力派ベーシストの作品にふさわしく、ベースは非常に充実している。弾力感や発音の良さなどが光るスラップや凝ったフレージングを軸にしつつパーカッシブなスラップ・ソロが聴ける①、超絶的にグルービィな③、しなやかな⑤など、ハイレベルなベースを堪能できる。高いポテンシャルを備えていながらベースのための音楽を作るのではなく、良質な楽曲を華やかに彩るベースに着地させるアプローチが実にいい。(村上孝之)

◎作品情報
『愛楼』
MINA
ソニー/UPCH-6024
発売中 ¥2,750 全5曲

参加ミュージシャン
【MINA(b,vo)】

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『NOW I SEE THE LIGHT』
toe

“無国籍”なサウンドから聴こえる、楽器たちの息づかい

 7月にはモンゴルの老舗フェスティバルPlaytime Festivalに出演するなど、国内外で高い支持を集め続けるtoe。日本のインストゥルメンタル/ポストロックを牽引する彼らが、単独名義のオリジナル作品としては前作EP『Our Latest Number』以来およそ6年ぶりとなる通算4作目のアルバムをリリースした。日本語詞のヴォーカルがある曲でさえも異国の音楽のように響く、アルバム・ジャケットのようにどこか捉えどころのない“無国籍”なサウンドには、一度浸ると抜け出せなくなるような中毒性がある。繊細なドラム・ビート、絡まり合うギターたち、そしてそれらをどっしりと支えたり、ときには変拍子のフレーズで複雑性をさらに付加するベース。ループするフレーズが幾重にも重なり、そこに身を委ねているうちにどこかに到達しているような快楽はハウスやテクノを聴く楽しみにも似ている。ただし、ひとつひとつの音や休符には、生楽器のアンサンブルからしか得られない“息づかい”が確かに宿っている。そこにどうしようもなく心を打たれるのだ。(辻󠄀本秀太郎/ベース・マガジン編集部)

◎作品情報
『NOW I SEE THE LIGHT』
toe
マチュピチュ・インダストリアス/XQIF-91002
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【山根さとし(b)】
山嵜廣和(vo,g)、美濃隆章(g)、柏倉隆史(d)、児玉奈央(vo)、徳澤青弦(cello)

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『TEN』
MR.BIG

終焉のアナウンスから急転直下! 
まさかの10枚目の新作

 バンドの終焉を告げる、昨年の“The BIG Finish FAREWELL TOUR”で淋しい気分になった人も多かっただろう。だが急転直下、10枚目となるまさかの新作がリリース! 彼らのアルバムと言えばアタマにテクニカルなナンバーを持ってきているが、本作の幕開けを飾る①はブルージィなテイストも感じさせるロック・チューン。“超技巧”な曲ではないが、スリリングなユニゾン・リフはオープニングには相応しい。そのほかパワー・ポップな④⑥や、トラディショナルなロックンロールの⑦、十八番と言えるバラードの⑩など、彼ららしいキャッチーなナンバーが揃った。また、日本盤ボーナス・トラックの⑪はポールの空を駆けるようなギターと、それに絡み合うビリーのベースが気持ちいいインスト曲で一聴の価値あり。ビリーのベースはシグネイチャーと言えるドライブ・サウンドで曲を支え、印象的なフィルやリックで曲にスパイスを加える。彼らの物語に続きがあっただけで驚いたが、思いがけぬ強力作のドロップはそれに拍車をかけた。(辻󠄀井恵/ベース・マガジン編集部)

◎作品情報
『TEN』
MR.BIG
エヴォリューション/EVSA2848MJ(MQA-CD)
発売中 ¥2,400 全11曲

参加ミュージシャン
【ビリー・シーン(b)】
エリック・マーティン(vo)、ポール・ギルバート (g)、ニック・ディヴァージリオ(d)

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『Forbidden Fruit -2nd piece-』
East Of Eden

世界観を助長させる旋律的低音

 ヴァイオリニストAyasaを起点に、彼女が共演を熱望した名うての女性ミュージシャンが集結した5人組の2ndミニ作。バンド名から連想できるとおり、幻想的な世界観の楽曲群が立ち並び、ストリングスと重厚なロック・サウンドをかけ合わせた、独自の音楽性を体感できる。そして近年注目を集める女流ベーシスト、わかざえもんの巧みなプレイを心ゆくまで堪能できる。疾走感溢れるアンサンブルをメロディアスに駆け巡り、華麗なフィルインで存在感を決定づける①、プレイの方向性を場面ごとに的確に転換させるヘヴィ・ナンバー②において、サビで途端に世界が開けた感覚を覚えるのはベースの音使いによるものだろう。耳に突き刺さる鮮烈な印象を残すフレージングを提示しつつ、ビートとガッチリ噛み合ったスラップに移行する④など、改めてベーシストとしての非凡なセンスを感じさせる。バンド名には“日本の楽園で天下を獲ってから世界へ”という思いが込められているとのことだが、彼女たちのサウンドが世界を揺らす日はそう遠くはないはずだ。(加納幸児/ベース・マガジン編集部)

◎作品情報
『Forbidden Fruit -2nd piece-』
East Of Eden
ビクター/VICL-65978(通常盤)
7/24 ¥2,750 全5曲

参加ミュージシャン
【わかざえもん(b)】
Ayasa(vl) 、湊あかね(vo)、MIZUKI(d)、Yuki(g)

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『Seven Garbage Born of Hatred』
Petit Brabancon

ヘヴィネスな猛者たちが辿り着いた最新型ニューメタル

 ジャケット・アートワークさながらの90sニューメタル・テイスト漂う楽曲が揃い踏み。これまでの混沌とした作品とは異なる、無機的な雰囲気と退廃的な音像が猛り狂う異色作。レトロなシンセ音、耳にへばりつくような濃密なギター・サウンドと黙々と刻まれるタイトなドラムが引っ張っていくアンサンブルはインダストリアルな趣を印象付け、相対する感情に任せて咆哮するヴォーカルとのコントラストが美しい。クールな演奏のなかでゴリッとした質感で自然と前へと出てくるベースは、ヘヴィ・ミュージックに多く見られるドンシャリというより、ハイ・ミッドが強調されチリチリとしたサウンドがその存在感を際立たせる。
ベース・プレイでは、ギターとドラムが多角的なリズムを刻んでいくなかでぶっきらぼうなノリを見せる②、重厚な2本のギターの絡みの合間でどっしりと主張する④、シャッフルのなかで炸裂するエッジィなアタックがトライバルな祝祭感を演出していく⑥など、ギターと一体化するユニゾンの壁とは異なるスタイルが、重々しく最新型のニューメタルを構築している。(冬将軍)

◎作品情報
『Seven Garbage Born of Hatred』
Petit Brabancon
マーヴェリック/DCCA-130(一般流通盤)
8/7 ¥2,750 全7曲

参加ミュージシャン
【高松浩史(b)】
京(vo)、yukihiro(d)、ミヤ(g)、antz (g)

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『Milton + esperanza』
ミルトン・ナシメント&エスペランサ

ミルトン・ナシメントの本質を現代的な響きで炙り出す

 エスペランサが何度も何度もリスペクトを公言してきたのがブラジルのシンガー・ソングライターのミルトン・ナシメントだった。カバーもしたし、1曲ゲストに迎えたこともある。とはいえ、連名でアルバムを制作することはまったく異なる意味を持つはずだ。ここではエスペランサは敬愛するミルトンの音楽の多面的な魅力をあらゆる手段を用いて、しかも、彼が過去に奏でてきたサウンドのイミテーションではなく、新たなやり方で具現化しようとしている。讃美歌のようなスピリチュアルな透明感を持ち、ビートルズの影響を受けたサイケデリックなサウンドもあり、ジャズ経由の即興性もある。雄大さや包み込むような優しさもあれば、軍事政権に立ち向かう厳しさもあった。彼女はオーケストレーションやシンセサイザー、エレキ・ギター、さらに現代的なミキシングにより、ミルトンがこれまでに残したことがない音像で彼の声、彼の音楽を記録する。ミルトンを徹底的に分析し、その謎めいた音楽に残された可能性に果敢に、そして、容赦なく向き合った力作。(柳樂光隆)

◎作品情報
『Milton + esperanza』
ミルトン・ナシメント&エスペランサ
ユニバーサル/UCCO-1243
8/9 ¥2,860 全16曲

参加ミュージシャン
【エスペランサ・スポルディング(b,vo)】
ミルトン・ナシメント(vo)、ポール・サイモン/ダイアン・リーヴス/リアン・ラ・ハヴァス/キャロライナ・ショーター/チン・ベルナルデス/マリア・ガドゥ(vo)、シャバカ・ハッチングス(sax, fl)マシュー・スティーヴンス(g)、ジャスティン・タイソン/エリック・ドゥーブ(d)、レオ・ジェノヴェーゼ(k)、コーリー・D・キング(vo,k)、ほか

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本記事は7月19日発売のベース・マガジン2024年8月号(Summer)の特集記事をもとに再構成したものです。

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