NOTES

UP

【ベースの日2022】Bass Magazine presents ウエノコウジ × ナガイケジョー(SCOOBIE DO)

  • Photo:Takashi Yashima

リスペクトあふれる異スタイルによる、ほろ酔い真面目トーク

 2022年ベースの日対談イベントの最終日。登壇したウエノコウジは開口一番、“今、一緒に飲みに行って、全部話しちゃったんだよ”とニヤリ。そう、本番の打ち合わせが終わったあと、ふたりは連れ立って会場近くの居酒屋ですでに1杯ひっかけてきたのである。そして、“酒場での取材”を主軸にしたウエノの本誌連載コラム『ボーン・トゥ・ルーズ』を引き合いに出し、“その延長線上の雰囲気で、今日はベースの話をできたらなと。あの連載、ほとんど音楽の話をしないもんで”と話すと、ナガイケジョーが、“いや、ウエノさんが思っている以上に魅力的な話をしてますよ。思いもかけなかったウエノさんの側面が切り開かれています”とフォロー。本誌が発売されると、真っ先にウエノの連載ページをチェックしているというナガイケは、“シミさん(怒髪天の清水泰次)の回で、「僕はナガイケジョーみたいにうまく弾けないから」に対する、ウエノさんの「ナガイケジョーのベース・ヒーロー誰か知ってる? 俺なんだよ」っていうのが誌面に載っているのを見て、ウエノさんがそんなことを言ってくれてんだとほくそ笑みました”と連載の感想を述べる。本日は、このような関係性のふたりによるトークである。

 ふたりが出会った頃の話や、先輩ミュージシャンたちが元気すぎる“ロックンロール渋滞問題”などで会場を温めたあと、“そろそろベースの話をしようか”ということで、それぞれの愛器であるプレシジョン・ベースとジャズ・ベースを手に取る。

 ウエノのプレシジョン・ベースは1997年頃に入手した1962年型のリイシュー。パンクからの影響で手にし、“簡単にいうと無骨な音。プリミティブというか。当時、それが俺にとってはすごく男っぽく見えた”と話したあと、ペンタトニックのフレーズを軽く演奏する。その太くゴリっとしたサウンドがなんともカッコいい。そして、“プレベにはいらないローとハイがあって、歌う人からするとその部分を嫌がる人もいるんだけど、その不器用さ加減が好き”と、プレベの魅力を語る。ナガイケに“歌う人からそれを指摘されることもあるんですか?”と問われると、“あるね。そういうときはジャズベも持ってるから、そっちにしてみたりはするよ。俺にとってはジャズベは優等生で、いいところで出てきてくれるのは、間違いなくジャズ・ベースだよね”と自身の見解を。さらに、ベースを始めた頃はサウンドよりもベースの位置が重要だったと話し、クラッシュの「Rock the Casbah」のPVでのポール・シムノンと同じバランスにしたと語った。

 一方、“最初は音の違いもわからないし、天邪鬼な性格なのか、「プレベだとウエノコウジと同じになっちゃう」という変な発想があって、ジャズベを選んだ”というナガイケのベースは、1974年製のジャズ・ベース。“最初は確か、ウエノさんのベースみたいな色だったはずなんですけど……”というようにボディの塗装の剥がれや退色が激しい。自身のベースについては、弾き込んでいくほどにローの締まり方が変わってきたそうで、“昔はもっとボヤッとした音だった”とナガイケ。ウエノも“普通のジャズ・ベースはもっと中域にグッとしているけど、ジョーのジャズベはすごくローが出る”と評価していた。トークをしながらナガイケがベースを弾いていると、ウエノが“トーンはどのくらい?”と声をかける。“7くらい”とナガイケは答えながら、スラップのプルをしながらトーンの位置を変えていく。ウエノの“今はトーンがないほうが好きなんでしょ?”の問いには、“曲にもよりますけど、ちょい絞りくらいにしていたほうが、ピッキングとの関係でハイの香ばしい感じがちょうどいいところで出てくるんです”と答えた。

 親指弾きの魅力やヴォーカリストとの関係性といった話を経て、話題はアンプへと移る。ウエノは現場によって“大中小”のセットを使い分けているそうで、そのうちの“大”は会場に持ち込まれたアンペグのSVT-VRと10インチ8発キャビネットのセット(この日のキャビネットはレンタル)。対するナガイケは、普段のセットは“スピード感とバンド・サウンドに対する溶け込み方みたいなものが好み”というアコースティックの220と440。真空管アンプとトランジスタ・アンプという対比に、かつては自身もアコースティックのアンプを使っていたウエノが、“トランジスタの音と真空管の音は明らかに違うので、どこを好きとするか。でも、ジョーももう40歳でしょ。なんで真空管に行かないの?”と言うと、“ウエノさんに会うたびに、「そろそろ真空管のよさがわかると思うんだけどな」って言われるので、検討します”と笑い、この日、ナガイケ用に用意されていたアンペグのHeritage 50th Anniversary SVTをチェックしていくことに。

 Heritage 50th Anniversary SVTはチャンネル1に1969年製の“ブルーライン”、チャンネル2に1970年代中盤のMagnavox時代の回路が搭載されたモデル。まずはチャンネル1で弾き、“ボトムが強いですよね。ミュートして親指弾きをしても、ちゃんとドスッとくる”とナガイケ。チャンネル2については、ウエノが“ハイ・ミッドがちょっと強いね”、ナガイケは“70年代ファンクっぽい感じ。こちらのほうがライトな音ですね”と話していた。また、ウルトラ・ローなどのスイッチについては、ウエノはウルトラ・ハイのみオンにしているとのことで、“ハイはちゃんとある状態から、(トレブルのつまみで)下げていく方向が好きなんだよ。ハイが上がるとゲイン感というかドライブ感が増して、ドラムのキックをどうドライブさせていくのかを動かしやすい”と自身の使い方を解説。ナガイケは“ミュートして弾くときはトーンも抑え気味になるから、ウルトラ・ハイを上げているとフレーズを聴かせていく部分で旨味がよりクッと出てきそう”と感想を語った。

 イベントの終盤では、ナガイケはウエノから受けた影響をいかにプレイに生かしているのかやウエノの現在の活動へのリスペクトを、ウエノは現在の“音を抜く楽しみ”というスタイルや変わらぬ“バンド”への情熱を語る。ヴィンテージ楽器についてや“アンプとライン”への見解など興味深い内容を展開しつつ、“すいません、ちょっとトイレいいですか?”と相次いでふたりが離席するハプニング、参加者からの質問コーナーを経て、イベントの締めはふたりでのセッション。

 それまでの話の流れ上、楽器を交換した状態で、ウエノがゆったりとしたブルース・バッキングを弾き始め、そこにナガイケが粘りのあるソロを乗せていく。攻守交代し、ブルース・バッキングはナガイケが親指弾きでふくよかなロー感で支え、ウエノはピック弾きのクリアな音色でブルージィにソロを奏でた。再びソロとバッキングを交代して1周したところで、ウエノが“よし、ベース換えるぞ”と言い、ウエノが左手だけで指板を叩いてルートを鳴らしながら曲を途切れさせずにベースを交換するという離れ業。それぞれの愛器を手に再び数回の攻防を経て無事にエンディングへ着地した。それぞれの出す音が、各楽器によってやはりまったく違ったのもおもしろいポイントであったのではないだろうか。

 大いなる冗談や照れ隠しも含めながら、ほろ酔いのふたりが真剣にベースと音楽について語り、極上のセッションを聴かせた、なんとも贅沢な夜だった。

イベントにて試奏した機材を紹介!

Ampeg
HERITAGE 50TH ANNIVERSARY SVT

伝統×革新が生み出す、普遍のベース・サウンド

 ロック・アンプの代名詞と言えるSVTが誕生したのは1969年。その名称は“Super Valve Technology”あるいは“Super Vacuum Tube”の略だとされており、300Wというその大出力は、当時のベース界に強烈な衝撃とともに迎えられた。そのSVTの誕生50周年を記念したのが本機で、2019年のNAMMショウで発表され話題を呼んだモデルだ。

 本モデルはデザインとアッセンブルがアメリカで行なわれ、妥協のない品質を追求した同社の最上位であるHeritageシリーズにラインナップ。最大の特徴は、青色のパネル表示から、通称“Blue Line”と呼ばれる1969年モデルの回路をチャンネル1に、1970年代半ばのMagnavox社時代の回路をチャンネル2にと、ふたつの時代のサウンドをひとつの筐体に収めていること。それぞれのチャンネルのインプット端子に接続して個別に使用するのはもちろん、チャンネル1と2のインプットをたすき掛けに接続することで、両者をミックスして使うことも可能だ。

 さらにXLR DIアウトプット、プリアンプ・アウト、パワーアンプ・イン、スピコン・アウトプットなど、“現代のアンプ”としては必須の機能を搭載し、単なる“リイシュー”ではなく、現代に在るべく進化した、究極のSVTと言える。

Specifications
●出力:300W RMS minimum continuous @ <5% THD into 2Ω or 4Ω●プリアンプ: 12AX7×5●ドライバー: 12AX7×1、12AU7×2●パワーアンプ:Ampeg Super Valve(6550×6)●コントロール:チャンネル1(ヴォリューム、トレブル、ミッドレンジ、ベース、ウルトラ・ハイ、ミッド・フリケンシー220Hz/800Hz/3kHz、ウルトラ・ロー)、チャンネル2(ヴォリューム、トレブル、ベース、ウルトラ・ハイ、ウルトラ・ロー)、スタンバイ・スイッチ、パワー・スイッチ、バイアス1、バイアス2、グランドリフト・スイッチ、プリ/ポスト・スイッチ、インピーダンス・セレクター(2Ω or 4Ω)●入出力端子:インプット(チャンネル1、同ブライト、チャンネル2、同ブライト)、スレーブ・アウトプット、パワーアンプ・インプット、プリアンプ・アウトプット、トランスフォーマー・バランスド・アウトプット、スピーカー・アウトプット(1/4インチ・フォーンアウトプット×2、スピコン・アウトプット×1)●外形寸法:610(W)×324(D)×292(H)mm●重量:38.6kg●価格:550,000円(税込)

チャンネル1は、ミドルの周波数帯を上部のスイッチにより220Hz/800Hz/3kHzで選択可能。またウルトラ・ロー・スイッチはブーストに加え、カットもできる。
チャンネル2のEQは40Hzを±12dBでコントロールするベースと、4kHzを±12dBでコントロールするトレブルのみ。ウルトラ・ハイ/ロー・スイッチも装備。
プリ管は厳選された12AX7を5本、パワー管は特注の6550を6本採用。さらにドライバー用として、同じく厳選された12AX7×1、12AU7×2も搭載。
充実の入出力端子の一部。右からスピコン・アウト、1/4インチ・フォーンアウト×2、トランスフォーマー・バランスド・アウト、プリアンプ・アウト、パワーアンプ・イン、スレーブ・アウト。

製品に関するお問い合わせは、ヤマハミュージックジャパンお客様コミュニケーションセンター ギター・ドラムご相談窓口(☎︎0570-056-808)まで。 ◎https://jp.yamaha.com/