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    【ベースの日2022】Bass Magazine & YAMAHA presents H ZETT NIRE(H ZETTRIO)× カワイヒデヒロ(fox capture plan)

    • Photo:Takashi Yashima

    ピアノ・トリオで辣腕を振るうアップライト・ベーシストの共感

     2022年のベースの日対談イベントの初日は、ジャズを基盤にしたピアノ・トリオというバンド編成で、アップライト・ベースを使っているという共通項のある、H ZETTRIOのH ZETT NIREとfox capture planのカワイヒデヒロ が登場。“バンドの形態が同じだからか、同じイベントに呼んでもらったり、年に1、2回対バンする”ものの、じっくりとふたりで話すのは初めてだというが、NIREが“対バンのときにはお話する機会はあまりないんですけど、お互いに機材をめっちゃ見ている。楽器変えたなとか”と言うと、カワイも“そうそう。YAMAHIKO使ってんだとか。こういう機材を使っているんだって、いつも参考にさせていただいています”と、やはりお互いに気になる存在ではあったようだ。ピアノ・トリオにおけるベースの立ち位置についても共通項があるようで、カワイは“両バンドともドラムがしっかりとビートを刻むタイプだから、ベースを中心に4ビートを刻んだりするジャズ・トリオとは違うのでは”と分析。さらに、“ピアノの左手との兼ね合いは?”の問いには、両人ともピアニストがルートを弾いているかどうかは気にするとしつつ、NIREは“最近はピアノの左手が下のほうに行って、ベースはハモリみたいにすることも増えてきた”と、アプローチの変化を話した。

     アップライト・ベースを弾き始めた経緯や弾き始めた当初のエピソードを交えつつ、お互いが気にしていたという使用機材については、NIREは自身の愛器であるエマニエル・ウィルファーを紹介しつつ、持ち込んでいたプリアンプ/DIのAMEKのSystem9098 DMAを指し、“よく冗談でこっちがH ZETT NIRE本体だと言ってるくらい、すごくいい”と絶大なる信頼を寄せている様子だ。音作りについては、“低音が出過ぎるとよくわからなくなる”ということで、アンプではローをカットしてアタック感や音程感を確認しつつ、低音は外音から漏れてくる音で確認しているという。

     対してカワイは、自身もウッド・ベースを使用していたときにはプリアンプを試行錯誤していたが、ハウリングの問題からライヴではウッド・ベースではなくヤマハのサイレント・ベースを使用するようになったと語る。もともとカワイは、大学時代にベースを始めた際に家で練習するときに大きな音が出せないこともあり、当時ちょうど発売されたSLB100を購入。fox capture planを始めた頃にSLB200を入手し、現在は最新モデルのSLB300を愛用している。SLBについて“エレクトリック・アップライトのなかでも、コントラバスとの演奏感の差がない。ネックが薄かったりすると意外と弾きにくいんですけど、これはちょうどいい太さでしっくりくる”と語った。また、“300になって音色が柔らかくなったというか木のしなりが感じられて、手にくる衝撃が少なくなった気がする。弾いていて疲れにくい”と、SLBの進化にも触れた。また、独自のSRTパワードシステムでシミュレートした3種類のマイク・タイプについては2番の“Simple”を愛用しているそうで、バンドのなかでは抜けの良いサウンドになるとのこと。ベース単体で弾くなら1番の“Rich”のふくよかさ、またウッド・ベースならではのスライドのニュアンスなどを生かしたければ3番の“Warm”を薦め、自身も会場によって使い分けているそうだ。

     カワイの愛器紹介に合わせて、この日、会場に用意されていた同じSLB300を弾いたNIREは、“確かにいい木を使っている。さすがヤマハさん”と第一印象。また、自身もSLB200を使用していたことはあるそうで、“重心のバランスも良くなっていてすごく弾きやすい。こんなに改善されるんですね”と驚きの声を上げた。

     トーク後半では“お互いに聞いてみたいこと”ということで、カワイはNIREに普段の練習方法を聞く。NIREは、まずは弓を使って『シマンドル』での基礎練習をやるとのことで、“特に、ハイ・ポジションがうまくなるという2巻が難しい”という。また、弓で弾いておくと楽器の調子も良くなるそうで、“冬場なんかは乾燥するにしたがって音がスカスカになってしまうこともあるんですけど、弓で鳴らしておくとスカスカになりにくくなる”と、ウッド・ベースならではの事情も話していた。カワイも昔は『シマンドル』での基礎練習をやっていたそうで、“その貯金で今もやっているけど、そろそろなくなりそう”と笑わせる。さらに、“昔、ベースのレッスンの仕事をしていたときに生徒さんに基礎練習を薦めていたんですけど、やっぱりつまらないからか3回くらい基礎練習が続くと音信不通になるんですよね(笑)。でも、基礎をやっていないと続かないんです”と、その重要性を語った。

     NIREからカワイへの質問は、“これまでにあったヤバめのトラブル”について。カワイは本番当日のリハーサル中に弓が折れたというエピソードを披露し、割り箸を添え木にしてビニールテープでぐるぐる巻きにして本番をしのいだと話す。この事件以降、より安全を期してカーボン製の弓を使うようになったそうだ。また、SLB200を使用していたときに事前にバッテリー用の9V電池を買い忘れたことにも触れ、SLB300ではより汎用性の高い単三電池が使用可能になったことをアピール・ポイントに付け加えた。

     イベントもいよいよ終盤。事前に受け付けた参加者/視聴者からのさまざまな質問にふたりが答える。“お気に入りのスタンダード曲は?”には、ふたり共悩みながら、NIREはジョン・コルトレーンの「Moment’s Notice」を、カワイはハービー・ハンコックの「Tell Me a Bedtime Story」を挙げた。また、“目を瞑って険しい表情で演奏している人が多いのはなぜ?”には、カワイが“照明が眩しいとか?”と笑わせ、自身が過去に先輩から“ステージ上でモニターできないときは苦しそうな表情で演奏しろ”とアドバイスをされたことを引き合いに、“それかモニターできていないか(笑)。もちろん曲に入り込んでいるときもあるかもしれない”と話すと、NIREは“でも目を瞑って五感をひとつなくすと、聴覚のほうにエネルギーが行きやすくなるということもあるかも”と言いつつ、“ただ私のバンドの場合は、ふたりが何をしでかすかわからないから、ちゃんと見ていないといけない(笑)。3小節くらいで目を閉じるのをやめて、「よし、まだ大丈夫だな」って確認するのを繰り返しますね”と、H ZETTRIOのライヴを振り返って会場から笑いを誘った。

     イベントの締めは、ふたりによるセッション。カワイがフランジャーをかけた音色でハーモニクスをかき鳴らすと、NIREが1、2弦を使ってスライドを生かしたりダブル・ストップを交えたりとフリーに弾き始める。カワイがハーモニクスで付点8分のリズムを刻み始めると、NIREはロー・ポジションでのリフを経てソロ・フレーズを展開し、カワイはロー・ポジションでリズムを押し出してバッキングへ。お互いの呼吸で8小節ごとにソロとバッキングを入れ替えていく。アタック感があり歯切れ良く躍動するNIRE、左手のテクニックも駆使して流麗につなぐカワイなど、数回のソロを応酬したあと、最後はリフをユニゾンしつつポジションを変えつつで重なり合い、息を合わせてリタルダンド。最後はお互いにハーモニクスを鳴らして大団円となった。アップライト・ベース2本での貴重なセッションも含めて、普段はなかなか聞くことのできないふたりのベース・トークは、まさにベースの日イベントならではだったのではないだろうか。

    イベントにて試奏した機材を紹介!

    YAMAHA SLB300

    限りなくウッド・ベースに近い
    貫禄のサウンドと演奏性

     2000年のSLB100の発売以来、“エレクトリック・アップライト・ベース”のジャンルにおいて唯一無二のブランドを確立しているヤマハから2020年1月に登場した現行モデル。

     必要最小限に削ぎ落とされたコンパクトなホロウ・ボディ構造ながら、ウッド・ベースの肩の部部分を再現した取りはずし式フレームや標準的な位置のネック・ヒール、回転しない重心バランスなどでウッド・ベースと変わらない演奏性を再現し、エボニーを使用したリバース式のテイルピースなどで生音の音質とバイブレーション感が向上する工夫を施している。

     さらに、ウッド・ベースの胴共鳴を再現するSRT(スタジオ・レスポンス・テクノロジー)パワード・システムのほか、ウッド・ベース録音用定番マイクで拾った音の3種類のシミュレーション、そのブレンドやトレブルとベースのコントロールも可能なプリアンプを搭載し、ジャンルや楽器の編成に合わせたよりリアルで幅広い音作りを可能にする。

     なお2022年2月には、指板やネック材、ブリッジ、SRTパワード・システムなどのグレードアップや仕様改良により、さらなる音質と演奏性の向上を実現し、高級感漂う外観もあわせ持つ上位モデルSLB300PROも登場している。

    Specifications
    ●ボディ:スプルース(トップ)、スプルース、マホガニー(バック)●ネック:メイプル●指板:ローズウッド●スケール:40.9インチ●ピックアップ:オリジナル(ピエゾ)●コントロール:ヴォリューム、トレブル、ベース(兼バイパス・ボタン)、ブレンド(兼マイク・タイプ切り替えボタン)、電源スイッチ●ペグ:ウォームギア式●ブリッジ:メイプル●カラー:アンティーク・ダーク・ブラウン●価格:341,000円

    コントロールはヴォリューム、EQ(トレブル、ベース)のほか、3種類のマイク・タイプ、“Rich(リッチ)”、“Simple(シンプル)”、“Warm(ウォーム)”のシミュレート・サウンドとピックアップからの直接の信号とのブレンドを備える。
    ボディに木材を使用しながらも本体重量は約7.2kg と軽量で、付属のケースに収納すると容積比はアコースティック・ベースの4 分の1ほどになる。ウッド・ベースと変わらない演奏性を再現しながらも優れた可搬性を実現する点も魅力だ。

    製品に関するお問い合わせは、ヤマハミュージックジャパンお客様コミュニケーションセンター ギター・ドラムご相談窓口(☎︎0570-056-808)まで。 ◎https://jp.yamaha.com/