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    フレットレス・ベース入門 Part1【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第36回

    • Text:Makoto Kawabe

    この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は、フレットレス・ベースにチャレンジしてみましょう。

    連載一覧はこちらから。

    はじめに

    フレットレス・ベースは文字通り“フレットのない”ベースです。

    一般的なフレット付きのエレキ・ベースでは出せない、フレットレス・ベース特有のニュアンスが出せるのが最大の魅力です。

    興味はあるけど演奏するのが難しそう? まあ、確かに簡単ではない面もあるけど、フレットレス・ベースにしかない楽しさや魅力もありますよ。

    本稿を読んで興味が湧いたらぜひフレットレス・ベースにチャレンジしてみてください。すでにフレットレス・ベースを持っている人にも新しい発見があるはずです。

    マーカス・ミラー Fender フレットレス
    マーカス・ミラーが所有するフェンダー製のフレットレス・ベース。(2024年9月撮影/掲載記事はこちら

    そもそもフレットがあるベースって……

    エレキ・ギターのルーツはアコースティック・ギターですが、エレキ・ベースのルーツはどちらかと言えばコントラバス(ウッドベース)です。

    コントラバスにはフレットが付いていないので、1951年に世界で初めてエレキ・ベースを商品化したレオ・フェンダーの“エレキ・ベースにフレットを付ける”という発想は画期的だったとも言えるわけです。

    フレットを付けることで誰でも正確な音程で演奏ができるということが製品の売りだったため、“プレシジョン(正確)・ベース”と命名されたというのは有名な話ですね。

    もし、レオ・フェンダーがエレキ・ベースにフレットを付けずに、最初からフレットレス・ベースを売り出していたら……演奏を諦める人が続出してエレキ・ベースはここまで普及しなかったかもしれません。そう、フレットレス・ベースは正確な音程で弾くのが難しい楽器なのです。

    フレットレス・ベースの指板。フレットが付いていないことが確認いただけるだろう。指板上の薄い線は、音程の目安となるフレット・ラインだ。

    フレットレス・ベースの特徴

    ピッチを無段階に上下できる

    フレット付きのベース(以下フレッテッド)はピッチ(音の高さ)が段階的に上下するのに対して、フレットレス・ベース(以下フレットレス)はピッチを無段階に上下できるのが最大の特徴です。

    弦を押えた位置がそのままピッチを決定するので、音律にとらわれない自由な演奏表現が可能ですが、当然のことながら正確な音程で弾くのが難しいわけですね。裏を返せば、押弦する位置を少しでも動かせばピッチが変化するのでヴィブラートがかけやすいというメリットもあります。

    ヴィブラートは感情表現に直結するので、フレットレスは感情を表現しやすい楽器とも言えます。

    参考動画(0:30〜):シンサカイノが演奏するジャコ・パストリアス・モデルのフレットレス・ベースのサウンドを聴くことができる。

    ② サステインが短い

    フレッテッドは弦とフレットの金属同士が接触するのでアタックが明瞭(金属的)で持続音が減衰しにくい(サステインが長い)傾向がありますが、フレットレスは弦を指と指板で挟む形になるのでアタックが柔らかく持続音が減衰しやすい(サステインが短い)傾向があります。

    もっとも、フレットレスはヴィブラートをかけたり弦の押さえ方や弾き方を工夫したりすることで、フレッテッドよりもむしろサステインを長く演奏することもできます。

    どんな音程でもハーモニクスが出せる

    ハーモニクス・ポイントとフレット位置が一致するハーモニクスを演奏するとき、ハーモニクス・ポイントに触れてハーモニクスを鳴らし、そのまま同じ位置で押弦してもハーモニクスは消えません。

    この現象自体はフレッテッドでも同様ですが、フレットレスはスライドしてもハーモニクスが消えませんし、すべてのハーモニクス・ポイントで発音直後にスライドしてピッチを変化させることができます。

    つまり、フレットレスはどんな音程でもハーモニクスが出せるのです。

    フレットレス・ベースの名手といえば、ジャコ・パストリアス。“Bass of Doom”の愛称でも知られるジャコのフレットレス仕様のジャズ・ベースは、世界で最も有名なベース個体のひとつだ。当時のフレットレスと言えば、市販されているフレット・ラインのないものだったが、ジャコのベースは通常のベースからフレットを抜いたためにフレット・ラインが残っていた。(Photo by Paul Natkin / Getty Images)

    フレッテッドとフレットレスを比較した場合、構造的にも音色的にもコントラバスに近いのはフレットレスですが、フレットレスでコントラバスの音が出せるわけではありません。サステインやアタックのニュアンスが丸っきり異なります。

    フレットレスはあくまでフレットレスの音色がする楽器であり、何かの代用で使えるわけではないと思ったほうが賢明です。これはエレクトリック・アップライト・ベースも同様です。

    フレットレス・ベースの構造

    ① “フレットを抜けばフレットレスになる”が……

    フレッテッドとフレットレスの構造的な違いは基本的にはフレットの有無だけです。

    フレッテッドは指板に刻まれた溝にフレットを打ち込んでありますが、フレットレスはフレット溝のない無垢の指板か、フレット溝を薄い板材などで埋めた指板が用いられます。

    また、フレットレスはフレットがない分だけナットの溝を低く設定する必要があるので、フレッテッドのフレットを抜いてフレットレスに改造する場合はナットを再調整するか交換する必要があります。

    “フレットを抜けばフレットレスになる”ので、DIYでフレットレスに改造することもできますが、指板がボロボロになるなど取り返しのつかない失敗の恐れもありますので、基本的にはプロのリペアマンに任せることをオススメします。

    ② “フレット・ライン”について

    あえてフレット溝を指板材とは異なる色合いの薄板で埋めて音程の目安となる“フレット・ライン”としている機種も多いです。フレット・ラインの代用としてフレット・ラインの位置にサイド・ポジション・マークを入れているモデルもありますね。

    ちなみにフレット・ラインは音程の目安にはなりますが、過信するとピッチが合いません。

    後述しますが、正確なピッチで演奏するには最終的には耳が頼りです。個人的にはフレット・ラインの有無はルックス面の違いのほうが大きいかと思います。

    ③ フラット・ワウンド弦を張ることが多い

    フレッテッドは弦と指板が直接触れることはほとんどありませんが、フレットレスは弦が指板に絶えず接触するため指板が摩耗しやすいデメリットがあります。

    これを防ぐために指板に金属などの硬質なマテリアルを採用したり指板を硬質な樹脂でコーティングしたりするモデルもあります。

    フレットレスにフラット・ワウンド弦を張ることが多いのも指板の消耗を考慮するためです。フレットレスにラウンド・ワウンド弦を使用するのはNGではないですし、ラウンド・ワウンド弦でないと出せない音色やニュアンスもありますが、指板の消耗リスクは確実に高まります。

    DEVILOOFの太輝が所有するThor Bass製MjölnirのDaiki Model(2023年4月撮影)。7弦ベースのフレットレスという超個性派モデルだ。詳細はこちらの記事をチェック。

    フレットレス・ベースの演奏と音作り

    ① スラップや弦を叩くように弾くのは避けるべき

    フレッテッドと同じ奏法で弾くことは可能ですが、フレットレス特有の音色を生かすなら指弾きかピック弾きが妥当です。スラップは指板へのダメージがとても大きいので避けたほうが無難です。指弾きやピック弾きでも弦を叩くように弾くのは避けるべきかと思います。

    ② ミドルのアタック感を強めるセッティングがおすすめ

    フレットレスはフレッテッドよりもアタックが柔らかく、高音域の成分の少ない中低音域中心の音色になる傾向があります。悪く言えば埋もれやすい音色でもあるので、アンプやエフェクターもこのことを考慮して、そういった音色でも音程感が明瞭になるようなセッティングをすると良いでしょう。具体的には1~2kHzあたりのハイ・ミッドをブーストするとか、コンプを薄くかけてミドルのアタック感を強めるといったセッティングです。

    ③ 空間系のエフェクトも効果的

    フレットレス特有の浮遊感を演出するにはコーラスやリバーヴなどの空間系のエフェクトが効果的です。ピッチの揺らぎを和らげる効果もありますね。そのほかにフレットレスにオクターバーを掛けた音色も定番で、1980~1990年代のポップスで多用されました。

    ピノ・パラディーノのフレットレス・ベースでの名演が光るポール・ヤングの「Everytime You Go Away」(1985年)。

    ◎講師:河辺真 
    かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
    Official HP X

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