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ベースを弾くのに音楽理論は必要か?【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第35回
- Text:Makoto Kawabe
この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は、“ベースを弾くのに音楽理論は必要か?”というテーマを考えます。
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はじめに
ベースを弾き始めて『ベース・マガジン』をはじめとするベース関連サイトや書籍を覗くようになると、コードやスケールなどといった、いわゆる座学的な音楽理論系の記事を目にすることが増えるかと思います。
当連載も例外ではなく音楽理論系の記事を掲載しているわけですが、“好きな楽器を弾くだけなのになんで勉強しなきゃいけないの?”という気持ちがある方も少なくないのでは?
ということで、“ベースを弾くのに音楽理論は必要か?”というシンプルな問いに筆者なりの見解をここに記しておきますね。
ベースを弾くのに音楽理論は必要か?
最初に結論を書くと、もちろん筆者としては“多くのベーシストにとって音楽理論の知識はあったほうが良いもの”だと思います。だからこそ、当連載でも取り上げているわけなので(笑)。
筆者がまだ真面目なベース・キッズだった頃、音楽理論を学ぶことについてアドバイスしてくれる先輩のなかには“型通りの演奏しかできなくなる”と脅してくる人もいれば、“自由に演奏するために必要だ”という人もいて、どっちなんだ?と思ったものです。
とはいえ漫然とコードやスケールの知識は勉強しておくべきなのだろうと思い、音楽理論系の本も何冊か買っては眺めていました。正直なところ、あまり頭には入らなかったし深い理解も得られませんでしたけど(笑)。
今にして思えば、当時聴いていた音楽や演奏したい楽曲に対して、音楽理論系の知識がどのように役立つのか結びついていなかったのが、筆者の理解が深まらなかった大きな要因なのかなと思いますので、読者の皆さんにはぜひとも“自分のベースの演奏に知識がどう生かせるのか?”を常に意識しつつ学びを深めていただきたいなと思います。
それがなかなか難しいことではあるのですが……。持つべきは良き友と良き先輩、良き指導者ですね(笑)。運かもしれないですけど、類は友を呼ぶとも言いますし、来るべき人のところに来るのかもですが……。
音楽理論とは?
閑話休題。“音楽”は楽器の音をある秩序や制限のなかで積み重ねたり並べたりすることで作り出すアートですよね。“音楽理論”とは、作り出される音楽の音の積み重ね方や構造などを体系的にまとめたものであり、音楽を“音”以外の方法で説明しようとするものでもあります。
現代のように録音技術がない時代は生演奏以外の伝達手段は“楽譜”に頼るしかないわけで、楽譜を書くうえで欠かせない基礎概念や用語、表記方法をまとめたものが“楽典”です。
さまざまな楽器やクラシックを含むあらゆるジャンルの音楽を演奏しようとするならば楽典の知識を網羅する必要があるかもしれませんが、エレキ・ベースを弾くための五線譜やタブ譜を読むだけならば、当連載の第9回『楽譜の読み方』で解説した程度の知識でも充分かと思います。
ロックやポップスなどのジャンルの楽曲の多くはコードの概念でアンサンブルや伴奏が成り立っており、こういった楽曲を制作したり演奏したりするには、基礎的な楽典の知識に加えて、コードやスケールの結びつきやコード進行などをまとめた“コード理論”が役に立ちます。
コードとスケールそのものについては当連載の第11回『ベーシストのためのコード知識』、第12回『スケールって何? どう使う? 〜スケール基本篇〜』で解説していますが、動的なコード理論についてはあまり触れていないので、今後少しずつ解説していければと思っています。
ベーシストにとってのコード理論の重要性
音楽はでたらめに音を並べても成立しないし、ロックやポップスといったジャンルには、それぞれに特有の秩序や概念などがあるもの。ラップ系やラウド系などといったジャンルでコード進行が存在しないように聴こえる楽曲でも、コード理論の知識を活用することで作り出しているベース・ラインが多々あるように感じます。
オリジナル楽曲やセッションでの演奏機会があるベーシストであれば、“新しいベース・ラインはすべて感覚的に頭に浮かんでくる!”という根っからの創造者を除いては、これまでに聴いた楽曲のベース・ラインを組みかえたり引用したりして作成することが多いでしょうし、その際にはコード理論を知っていたほうが効率良く作業が進められるはずです。
新しいベース・ラインを作る必要がない、コピー専門のベーシストなら楽譜さえ読めればコード理論は学ばなくても良いのでは? と考える人もいるかと思いますが、そんなことはありません。
やはりコード理論の知識があると楽曲そのものや各フレーズも捉えやすく、覚えやすくなるはずです。難易度の高いフレーズを自分流にアレンジすることで弾きやすくなりますし、そうすることでアンサンブル全体のクオリティが上がることも多々あります。
音楽理論は料理のレシピに似ている?
音楽理論は音楽の作り方や成り立ちを紐解くものであり、料理のレシピに似ている面があるようにも思います。和食も中華もイタリアンも……と、あらゆる料理を作りたいならそれなりにすべての作り方を学ばなければいけないように、さまざまなスタイルの演奏をできるようにするならば、音楽理論も深く追求して知識を網羅する必要があるかもしれませんね。
でも例えば炒飯ひとつでもさまざまな味のバリエーションや作り方があるように、特定の音楽ジャンルだけでも演奏スタイルや楽曲のバリエーションは無限にあります。
炒飯を作るなら、炒飯の基本的な作り方くらいは知っていたほうが間違いなく完成度は高くなりますが、誰よりも美味しくて個性的な炒飯はセオリー通りでは作れないかもしれない。演奏もしかり。音楽理論を生かしつつ、“型通りの演奏”になるか“自由な演奏”になるかはプレイヤー次第だと思います。
大事なことですが、音楽から音楽理論が導き出されることはあっても、音楽理論によって音楽が生み出されるわけではありません。例えば、中途半端なコード理論に依存して音楽を作ろうとしても良い作品は生まれません。あくまで自分の感性を最優先に、コード理論を活用するとバランスの良い音楽ライフ、ベーシスト・ライフが楽しめるのではないかと思います。
◎講師:河辺真
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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