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    タワー・オブ・パワー『Tower of Power』が教えてくれたこと【ジョー・ダート(Vulfpeck)連載】第12回

    • Interview & Text:Shutaro Tsujimoto (Bass Magazine)
    • Translation:Tommy Morley

    ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシスト、ジョー・ダートが影響を受けたアルバムを語りおろす連載「レコードが僕に教えてくれたこと」。今回取り上げるのは、強力なリズム・セクションとブラス・サウンドで人気を集めたファンク・バンド、タワー・オブ・パワーの代表作『Tower Of Power』(1973年)だ。

    全12回にわたってお送りしてきた本連載は今回が最終回。ベーシストのフランシス“ロッコ”プレスティアとドラマーのデイヴィッド・ガリバルディによるリズム体から受けた影響について、ジョーに存分に語ってもらった。

    第12回:タワー・オブ・パワーTower Of Power』(1973年)

    「What Is Hip?」と「Soul Vaccination」
    を初めて聴いたとき、
    ただただ床に倒れ込むしかなかったよ(笑)。

    ロッコ・プレスティアとデヴィッド・ガリバルディ、このふたりのリズム・セクションは16分音符のレベルでガッチリと噛み合っているんだ。「What Is Hip?」と「Soul Vaccination」を初めて聴いたとき、何が起きているのか全然わからなくて、ただただ床に倒れ込むしかなかったよ(笑)。

    ふたりとも16分音符を刻みながら、楽器のありとあらゆる部分を駆使してプレイしている。ガリバルディはハイハットをいろんな強さで叩きながら、スネアでゴーストノートを入れていた。一方でロッコは、低音の刻みのなかで絶妙なタイミングでオクターヴ上の音をゴーストノートとしてヒットする。そのコンビネーションが唯一無二なんだ。

    彼らの間にどんな魔法が働いているのかわからないけど、こんなリズム・セクションはほかに聴いたことがない。彼らを聴いた瞬間から僕は完全に魅了されてしまったし、深く心に響くものを感じたよ。

    タワー・オブ・パワー「What Is Hip?」

    僕は指板上のすべての弦を使って
    ドラムのグルーヴを表現したいと思っているし、
    ロッコはこのアルバムでそれを完璧にやってのけている。

    「What Is Hip?」をしっかり弾けるようになるためには指の強さとスタミナが必要で、この曲を何年も何時間も弾き続けたんだ。その結果、僕のサウンドに彼らの影響が色濃く反映されるようになった。例えば、ヴルフペックのレコーディングで速いテンポのなかでオクターヴ上の音を急に鳴らすプレイなんかは、まさにロッコのスタイルだよ。

    今回の連載でアルバムを選ぶにあたって、自分がベーシストとしてどこを目指してきたのかを振り返ったんだけど、ロッコの影響は“僕の手の使い方”に最も表われていると思うんだ。このアルバムに合わせてプレイしていた若い頃、まるでロッコが話している言語を僕も喋れるようになった感覚があった。それが自然と僕の音楽の語彙として組み込まれていったんだ。

    もちろん指の強さやスタミナをつけるのは大変だったけど、16分音符でのプレイやタイム感については本当に深く意識するようになった。特にゴーストノートの使い方は、僕のスタイルのなかで自然な選択肢になっている。

    ヴルフペックのセオ・カッツマンが、“ベースを弾くことは、ギターをドラムのようにプレイすることだ”と言っていて、まさにそれこそが僕の目指しているところなんだ。僕は指板上のすべての弦を使ってドラムのグルーヴを表現したいと思っているし、ロッコはこのアルバムでそれを完璧にやってのけている。それも圧倒的なエネルギーのあるファンクでね。

    ヴルフペックの「My First Car」でも生かされている。
    この曲ではほとんどの部分でミュートを使っていて、
    まるで輪ゴムを弾いているような弾力のあるサウンドになっているよ。

    タワー・オブ・パワーはホーン・セクションをフィーチャーしながら、パワフルでジョイフルな音楽を作り上げていて、それはヴルフペックやフィアレス・フライヤーズ(The Fearless Flyers)の高速で正確なファンクとして受け継がれていると思う。今でも彼らの音楽に立ち返って聴いているし、僕は永遠にロッコとガリバルディの大ファンだ。ガリバルディは僕にとって“まだ会えていないけどいつか会いたい人”のひとりで、彼のプレイにはいつもインスパイアされている。彼のエネルギーはいつでも僕を興奮させてくれるんだ。

    左手を使ったミュートの奏法についても触れたいね。僕が10代中頃にジャミロクワイをプレイしていたとき、ベーシストのスチュワート・ゼンダーがミュートを多用していて、そこから学んだ部分も大きい。クリーンなサウンドがほしくて、左手をすべての弦上に添えておいて必要なときにミュートを解除することで、ノイズを抑えることができるようになったんだ。

    この奏法を速いテンポでもやるようになって、それがヴルフペックの「My First Car」でも生かされている。この曲ではほとんどの部分で左手のミュートを使っていて、まるで輪ゴムを弾いているような弾力のあるサウンドになっているよ。

    ロッコから学んだことは本当に多い。14歳か15歳の頃に高校のジャズ・バンドで「What Is Hip?」をプレイしたけど、原曲ほど速くは弾けなかった。でもこの曲を通して、僕のサウンドの重要な要素であるミュート奏法を身につけることができたんだ。

    作品紹介:『Tower Of Power』(1973年)

    『Tower Of Power』(1973年)


    『Tower Of Power』(1973年)

    ロッコ・プレスティア&デヴィッド・ガリバルディによるリズム名演は必聴!

     1968年に結成されたカリフォルニア州オークランドの名物ファンク・バンドの4枚目にして、70年代ベイエリア・ファンクの名盤。ロッコ・プレスティア(b)とデヴィッド・ガリバルディ(d)の16ビートを駆使したリズム・コンビネーションと、レニー・ピケット(sax)をメインに据えた力強いホーン・セクションで一世を風靡した。現在でもファンク・クラシックとして愛される代表曲「What Is Hip?」のほか、レニー・ウィリアムス(vo)の渋い味わい歌声が響くメロウ・ソウルの名曲「So Very Hard To Go」など、全10曲を収録。

    ジョー・ダート

    【Profile】
    ジョー・ダート●1991年4月18日、米国ミシガン出身。幼少の頃からアース・ウインド&ファイヤーやタワー・オブ・パワーといったストレートアヘッドなファンク・ミュージックに傾倒する。ベースは7、8歳頃に弾き始め、中学では学校のジャズ・バンドに参加、その後ミシガン音楽大学に入学し、ヴルフペックのメンバーと出会った。2011年に結成されたヴルフペックはロサンゼルスを拠点に活動し、トラディショナルなブラック・ミュージックを現代的にアップデートするミニマル・ファンク・バンド。

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