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    第10回:マーヴィン・ゲイ『What’s Going On』【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】

    • Interview & Text:Shutaro Tsujimoto
    • Translation:Tommy Morley

    ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシストにして、新世代のベース・ヒーローとして熱視線を浴びるジョー・ダートが影響を受けたアルバムを語りおろす本連載。今回のテーマは、マーヴィン・ゲイによるソウルの大名盤『What’s Going On』。本作でのジェームス・ジェマーソンによる伝説的なベース・プレイについて語ってくれた。

    *本記事は『ベース・マガジン2024年8月号』のコンテンツを再構成したものです。

    第10回:マーヴィン・ゲイ『What’s Going on』(1971年)

    フリーからの直筆の手紙に
    “『What’s Going On』を聴いてみて”
    と書いてあったんだ。

    少年時代に、親から“そこまで大ファンなら手紙を書いてみたら?”と言われて、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーに手紙を書いたことがあるんだ。僕のベースの演奏を録音したCDも入れて、彼が関係していたロサンゼルスの音楽学校に送ってみた。すると、驚いたことに1ヵ月後にフリーから直筆の手紙が届いて、そこには“君のプレイやサウンドはグレイトだ。ぜひ弾き続けてくれ。ベースはサポート役の楽器で、曲を支えるために君はいる。ベーシストとしての役割を忘れないでほしい。そして、ぜひとも『What’s Going On』でのジェームス・ジェマーソンのベース・プレイを聴いてみてくれ”と書いてあったんだ。

    さまざまなアルバムを推薦できただろうし、ほかにアドバイスできることもたくさんあったと思うけど、フリーはそのなかでも最も重要なことを手紙に書いてくれたんだと思う。そして彼は正しかった。当時からマーヴィン・ゲイのことは知っていたけど、このアルバムは聴いたことがなかった。だから、どれほど時間をかけなかったらいいか、僕はこのアルバムを何度も繰り返して聴いた。音楽史上で最もアイコニックな、時代を超えるベース・プレイが輝きを放つアルバム。フリーがジェマーソンのプレイからベースを学んでいたという話を聞いたことがなかったけど、彼は僕を正しい道に導いてくれた。僕はそれがきっかけでモータウンでの彼のベース・プレイを掘るようになるんだけど、そのなかでも特にお気に入りはスティーヴィー・ワンダーの「For Once In My Life」だね。極上のベース・ラインが聴ける曲だよ。

    彼は“弾くべきさ”と“そうじゃないとき”を
    しっかりと見極めていた。

    ジェームス・ジェマーソンは本当にたくさんのベーシストに影響を与えていて、海を越えてポール・マッカートニーに影響を与えたのはもちろん、ファンクやディスコ、ポップに至るまでほぼすべての音楽に影響を与えたとも言える。ワム!の時代からジョージ・マイケルのバンドでベースを弾いていたデオン・エスタスがジェマーソンに師事していたことを最近知ったんだけど、知らず知らずのうちに80’sや90’sのヒット・ソングからも彼の系譜にあるベース・プレイを聴いていたということには驚いたね。

    ジェマーソンの演奏はメロディックで、ハネるようなリズミカルなフィーリングもある。だけど僕は特に、ハーモニーがいたるところに溢れていることに感銘を受けるんだ。彼のベース・ラインにはコードやハーモニーの情報がたくさん入ってるんだけど、言われて初めて気が付くほどにスッと音楽に潜んでいる。そして彼は“弾くべきさ”と、“そうじゃないとき”をしっかりと見極めていた。

    彼が演奏を抑えているパートというのは、プレイしているパートと同じくらいの価値があるんだ。演奏していないところでさえ、何度でも聴き返したくなるよ。それは、彼のなかのとても音楽的で深いところから生み出されたものだと思うね。ヴルフペックのジャック・ストラットンが彼のベース・ラインを視覚的に解説した動画がYouTubeにあるので、それもぜひチェックしてほしいよ。

    作品解説

    マーヴィン・ゲイ
    『What’s Going on』(1971年)

    シリアスなテーマを歌い
    ソウルに革新を起こした歴史的傑作

     ソウルを代表するアーティスト、マーヴィン・ゲイによる11作目。『What’s Going On』や『Mercy Mercy Me (The Ecology)』などを収録し、社会問題などのシリアスなテーマを扱う革新的なソウル・アルバムとして高く評価された。当時画期的だったセルフ・プロデュースによるサウンドも特徴。2020年に改訂された“ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選”では1位に選出された。モータウン作品で初めて参加ミュージシャンがクレジットされたアルバムとしても知られている。

    【Profile】
    ジョー・ダート●1991年4月18日、米国ミシガン出身。幼少の頃からアース・ウインド&ファイヤーやタワー・オブ・パワーといったストレートアヘッドなファンク・ミュージックに傾倒する。ベースは7、8歳頃に弾き始め、中学では学校のジャズ・バンドに参加、その後ミシガン音楽大学に入学し、ヴルフペックのメンバーと出会った。2011年に結成されたヴルフペックはロサンゼルスを拠点に活動し、トラディショナルなブラック・ミュージックを現代的にアップデートするミニマル・ファンク・バンド。

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