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第7回:アース・ウィンド・アンド・ファイアー『All ‘N All』【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】
- Interview & Text:Shutaro Tsujimoto
- Translation:Tommy Morley
ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシストとして、新世代のベース・ヒーローとして熱視線を浴びるジョー・ダートが、ベーシストとして影響を受けたアルバムを語りおろす本連載(連載一覧はこちら)。第7回目となる今回、ジョーがセレクトしたのはアース・ウィンド・アンド・ファイアーによるファンクの金字塔。ヴァーダイン・ホワイトやブラジル音楽からの影響について熱く語ってくれた。
*本記事は『ベース・マガジン2024年5月号』のコンテンツを再構成したものです。
第7回:アース・ウィンド・アンド・ファイアー『All ‘N All』(1977年)
パーカッションがグルーヴの中心にいて、ベースがその周辺で踊っているように聴こえるんだ。
これは僕がブラジルのファンクを聴くようになる遥か昔から大好きだったアルバムだけど、デオダートが参加していたり、この作品にブラジルやラテンの音楽の要素が入っていることは間違いなく自分に強く刺さったポイントだったと思う。
ヴァーダイン・ホワイトは僕の大好きなベーシストのひとり。ボトムを支えるだけじゃなく、彼がそこから抜け出して高いポジションでメロディックにプレイすることを一切恐れなかったところに特に惹かれたんだ。ブラジルの音楽にはそういうところがあって、パーカッションが常にグルーヴィに鳴っているからベースが必ずしも低いところにいる必要がなく、リードっぽいラインを弾くことができる。本作もドライヴするパーカッションがグルーヴの中心にいるようなアレンジになっていて、僕にはベースがその周辺で踊っているように聴こえるんだ。
1曲目の「Serpentine Fire」は、史上最高のグルーヴで演奏された曲で、ヴァーダイン・ホワイトが高いポジションで弾くパートでは蜂の羽音みたいな音が鳴っている(笑)。“一体これは何なんだ?”と思ったけど、ひょっとしたらブラジルのパーカッション楽器を真似していたのかもしれないね。 彼のプレイは指板をすごく広く使っていて、高いポジションの音を弾いたかと思うとすぐに低いポジションに着地したりする。僕もヴルフペックでそういうプレイをするんだけど、そういう動きにはある種のパワーが潜んでいるのを感じるよ。
ブラジルの音楽についても語ると、最初に興味を持ったのはアントニオ・カルロス・ジョビンやゲッツ/ジルベルトみたいな昔のボサノヴァだった。それからジルベルト・ジルみたいなものを聴くようになり、ジャヴァンといった70年代から80年代にかけてのブラジリアン・ファンク/ディスコ、そしてもちろん本作にも参加しているデオダートにも辿り着いた。そこで気づいたことは、ブラジルやラテンの音楽が、実はアメリカのファンクに思っていた以上に影響を及ぼしているということ。アース・ウィンド・アンド・ファイヤーはパーフェクトな例だけど、ほかにもそういったアーティストたちはいて、例えばエイブラハム・ラボリエルはインタビューでブラジルやラテンの音楽をルーツに持っていて、それらを自身のプレイに取り込んでいると話していたよ。彼はたくさんのヒット曲でプレイし、ドナルド・フェイゲンの後年の作品にも参加しているベーシストだ。
ブラジルの音楽を聴いていると世界最高のベーシストたちはブラジルにいるとさえ思えてくるし、いつの日か実際に行ってみたいんだ。フュージョンにファンクやアフロ・キューバンな要素が混ざり合った、素晴らしい音楽が生まれている場所さ。セウ・ジョルジも大好きなんだけど、彼のレコードでプレイしているベーシストが、あまり名前は知られてていない人だったけど信じられないほどファンキーで、彼に会いに行かなくちゃって。『Músicas para Churrasco, Vol.1』っていう、パーティーで聴くのにぴったりなアルバムがあるから、ぜひ聴いてほしいよ。
作品解説
ブラジル音楽とも接近した
1970年代ファンク黄金期を象徴するアルバム
1970年代のファンクを代表する伝説的なバンドによる通算7作目のアルバム。「Fantasy」や「Jupiter」などのヒット曲を収録したファンク/ソウル黄金期を象徴する作品で、全米チャートでは3位を記録した。アフリカ音楽とスピリチュアルな理想主義の融合を標榜し、“神殿と宇宙”をテーマにしたアートワークを長岡秀星が手がけたことでも知られる。デオダートがアレンジャーとして携わるなど、ラテンやブラジル音楽の要素が融合したサウンドも本作を特徴づけている。ベーシストを務めるのはヴァーダイン・ホワイト。