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    第4回: ビートルズ 『Abbey Road 』【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】

    • Interview & Text:Shutaro Tsujimoto
    • Translation:Tommy Morley

    ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシストにして新世代のベース・ヒーロー、ジョー・ダートが、“ルーツとなったアルバム”をテーマに毎回1作品を振り返る本連載。第4回目となる今回は、ビートルズの実質的なラスト・アルバムで、彼らの作品群のなかでもポール・マッカートニーのベースがひときわ存在感を発揮する『Abbey Road』について語ってもらった。

    *この記事はベース・マガジン2024年2月号(Winter)の記事を再構成したものです。

    第4回:ビートルズ 『Abbey Road 』(1969年)

    「Something」のカバーでは徹底的にそのまま弾くしかないんだよ(笑)。

    出会いは10代の頃に立ち寄ったガレージセールだった。たまたまこのアルバムのレコード盤を見つけて、聴いてみるとA面とB面のそれぞれにコンセプトがあること、ポップな曲がちりばめられていることに気がつき、すぐに惹かれたんだ。ポールのベースは、「Oh! Darling」ではキャッチーなフレーズをたっぷり聴かせ、「Come Together」には素晴らしいスライドのフレーズがあり、「I Want You (She’s So Heavy)」や「She Came In Through The Bathroom Window」なんて、かなりヘヴィだけど同時にファンキーでもあるよね。低音のミックスもしっかりしていて、ベースが埋もれずに存在感を放っているのもポイントだ。ビートルズは『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年)や『Rubber Soul』(1965年)もたくさん聴いたけど、このアルバムでは本当にポールが輝いていて、特にB面での彼の存在感はすごいと思うよ。

    僕は彼のスタイルをたくさん取り入れていて、特に“ソング”を重視したベースを弾くするときのお手本なんだ。例えばスタジオでセッション・プレイヤーとして弾くときに、“フックはどんなものにしよう? 歌に寄り添ったプレイをするには? 歌をサポートするものでありながらも記憶に残る演奏とは?”って考えるんだけど、ポールは常にベストなものをプレイしてきたよね。以前ヴルフペックで、このアルバムに入っている「Something」のカバーをやったことがあるけど、ベース・ラインはあまり変えられなかったよ。実際にこの曲をやるとなると、ポールのラインを徹底的にそのまま弾くしかないんだよ(笑)。この曲のベースって歌のメロディのようだから、ちょっとしたフィルでさえも、原曲と同じように弾かないと、“この曲をやっていること”にならない気がしてしまう。彼のベース・ラインは、“まるでヴォーカル・ラインのようだ”って言われるけど、これは完璧な例えだと思うよ。ポールはそもそもソングライターで、バンドで誰もベースを弾く人がいなかったからベースを手に取ったわけで、つまりはシンガーがヴォーカル・パートを考えるようにベース・ラインを考えていたってことなんだ。だから僕がカバーするときも、ベース・ラインを届けるのではなく、シンガーと同じフィーリングで、ベースでこの曲を歌う感覚だった。

    この連載では、ジェームス・ジェマーソンのことも今度紹介するけど、ポールはエレキ・ベースという楽器にとってジェマーソンと同じくらい大きい存在で、彼らがいなければ現在のポップ・ミュージックは別のものになっていたはずさ。彼らはポップ・ソングにおける究極のベーシストなんだ。僕もふたりと同じようにフラット・ワウンド弦を使っているけど、素晴らしいミッド・レンジを生み出してくれて、ミックスのなかで程よい具合に収まってくれる。ポールがフラット弦をピック弾きして生み出すサウンドには温かみがあって、ジェマーソンにも通じるところがあるよね。ポール自身が彼に影響されたところもあっただろうし、その影響を実際にポールの演奏から感じることもできるんだ。

    作品解説

    ビートルズ 『Abbey Road 』
    (1969年)

    崩壊寸前の4人が残した後期の傑作アルバム

    1969年9月にリリースされたビートルズ最後の録音アルバム。ジョン・レノンによるオープニング「Come Together」、本作で作曲家としての才能を開花したジョージ・ハリスンによる「Something」や「Here Comes the Sun」、B面のラストを飾るポール・マッカートニーの連作など、バンド崩壊の過程にありながらも各メンバーが有終の美を飾る創作を発揮している。“名盤感”漂うジャケットも含め、アルバムとしての世界観やトータリティの高さも評価されるバンド後期の傑作。

    【Profile】
    ジョー・ダート●1991年4月18日、米国ミシガン出身。幼少の頃からアース・ウインド&ファイヤーやタワー・オブ・パワーといったストレートアヘッドなファンク・ミュージックに傾倒する。ベースは7、8歳頃に弾き始め、中学では学校のジャズ・バンドに参加、その後ミシガン音楽大学に入学し、ヴルフペックのメンバーと出会った。2011年に結成されたヴルフペックはロサンゼルスを拠点に活動し、トラディショナルなブラック・ミュージックを現代的にアップデートするミニマル・ファンク・バンド。

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