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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第21回 -ハンマリングとプリング

  • Text:Makoto Kawabe

ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は左手のテクニック、“ハンマリングとプリング”について学びましょう!

はじめに

今回は左手の基本テクニックのうち、ハンマリングとプリングについて解説します。何気ないフレーズでも生演奏ならではのニュアンスを加えることができ、右手の負担も減らせる基本テクニックです。使用頻度がかなり高いわりに難易度はそれほど高くないので、しっかりマスターして自然に使いこなせるようにしましょう。

ハンマリングとは?

ハンマリングは右手でピッキングせずに、フィンガリングだけで音程を上げるテクニックです。

やり方はとても簡単で、すでに鳴っている弦に対して目的のフレットを強めに素早く押さえるだけです。“ハンマリング”という言葉のイメージどおり、指先を弦に叩きつけるイメージですね。

指先の動きが遅いと弦がフレットに打ち付けられる前にミュートされて音が止まってしまうので、タイミングを合わせて指先を素早く動かすのがポイントです。

それでは早速練習してみましょう。

ハンマリングは譜面上ではスラーと“h.”で表記されます。

譜例はロック系の楽曲に頻出するようなフレーズを練習用にアレンジしてみました。2小節は同じフレーズに見えますが、ハンマリングとピッキングのタイミングが違うので、聴感上のニュアンスの違いが実感できるかと思います。まずは正確なタイミングで、ピッキングと遜色ない音量でハンマリングができるように練習しましょう。

上の譜例では5フレットは人差指で押さえたままです。ハンマリングは薬指か小指で行なうのが良いでしょう。

4指3フレット(連載第4回、第18回参照)を念頭に置いたフィンガリング・フォームでは、7フレットは中指も加えたすべての指で押さえるのが原則ですが、ハンマリングを繰り返すリフや連続するフレーズであれば中指を抜いて薬指か小指単体でハンマリングしたほうが弾きやすいかもしれません。

フィンガリング・フォームはテンポやフレーズによって臨機応変に使い分けましょう。

どの指でも遜色なくハンマリングできるようにするための練習フレーズです。

奇数小節は4指3フレット、偶数小節は4指4フレットが推奨フォームですが、3小節目はすべて同じ指でハンマリングするのもアリですね。

プリングとは?

プリングは右手でピッキングせずに、フィンガリングだけで音程を下げるテクニックです。

プリングはハンマリングとセットで語られることが多いし、ハンマリングとは真逆のテクニックとも表現できますが、実践方法はちょっと違います。

押さえているフレットから指先を素早く離すだけでは充分な音量が得られないからです。

プリングは押さえているフレットから指を真上に離すのではなく、左手の指先でピッキングするように指先で弦を引っかけながら高音弦方向に離します。爪で引っかけるのはNGで、あくまでも指の腹で弦を引っかくようなイメージです。

プリングは余計な指があるとせっかくプリングした弦をミュートしてしまう形になりやすいので、4指3フレット、4指4フレット、どちらのフォームでもプリングするフレットとプリング後のフレット以外は押さえず、離しておくことが原則です。例えば小指でプリングした後に人差指で押さえたフレットに行くなら、中指、薬指は弦から離しておきます。この点もハンマリングと明確に違う特徴です。

練習してみましょう。

プリングは譜面上ではスラーと“p.”で表記されます。譜例はひたすらプリングを練習するフレーズですね。ピッチに気を配りつつ、プリングでピッキングと遜色ない充分な音量が出せるように練習しましょう。

プリングする際は、どうしても弦を高音弦側に引っ張ってピッチが上ずりがち(チョーキング気味になる)。ヘヴィなリフなど、あえて低音弦を引っぱるようにプリングしてワイルドな雰囲気を演出することはありますが、通常の演奏時にはピッチが不安定になる要因になるので、プリング時の指先の力の加減には注意しましょう。

<正しいフォーム>

 プリングしても弦が動かないのでピッチが安定

<NGフォーム>

弦を引っ張っていてピッチが上がってしまう

 

ハンマリングとプリングが多用される奏法とは?

スラップはサムピングとプルを組み合わせる奏法ですが、それぞれが連続する(連打になる)フレーズは弾きにくい面もあり、ハンマリングやプリングなどの左手のテクニックが欠かせません。これらを併用することで連打の頻度を下げられるし、左手と右手の組み合わせによってリズミカルなアプローチもやりやすくなります。

スラップとこれらを組み合わせれば連打の頻度を下げられるし、左手と右手の組み合わせによってリズミカルなアプローチもしやすくなります。ハンマリングやプリングをはじめとした左手のテクニックを複雑に取り入れた名フレーズも数多くありますし、スラップは左手のテクニックなくしては成り立たない奏法でもあるといえるでしょう。

ハンマリングとプリングを組み合わせた典型的なスラップ・フレーズです。

複雑そうに見えますが、サムピングは8分オモテのタイミングだけなので、リズム・キープはしやすいはず。ハンマリングがハシらないようにクリックを使って練習してください。この譜例を元にハンマリングやプリングの組み合わせやタイミングを変えると、より複雑でカッコいいスラップ・フレーズが作れるかと思います。

スライドとハンマリング/プリングの使い分け

前回連載で解説したスライドもピッキングせずに音程を変えられるテクニックでしたが、スライドとハンマリング/プリングの大きな違いはポジション移動する必要があるかないかです。

音程を上げる“短距離のスライド”とハンマリングの効果はほとんど同じですが、前後のフレーズでポジション移動をする必要があるかどうかで使い分ければよいかと思います。音程を下げるスライドは少し音量が下がる傾向があるので、短距離で音程変化のタイミングを強めに出したいときはプリングのほうが有利ですが、ある程度フォームが縛られるのが難点かもしれません。

トリルとは?

トリルはハンマリングとプリングを高速で繰り返すテクニックで、装飾音的なニュアンスを演出できます。比較的、派手で主張の強いニュアンスなので、ここぞという場面で使うと良いでしょう。トリルは譜面上は装飾音符と組み合わせ、波線に“Tr.”と付記されます。

トリルと言えば、ラリー・グラハム率いるグラハム・セントラル・ステーションの名曲「The Jam」のイントロが真っ先に思い浮かびます。楽曲冒頭のトリルは1弦7フレットを押さえてピッキングしつつ9フレットでハンマリングとプリングを繰り返します。よく聴くとトリルの後半はタッピング(右手でハンマリング/プリングするテクニック)もやっているように聴こえますね。スラップ・フレーズも踏まえ、ハンマリングやスライドなどの使い方も非常に参考になる楽曲かと思います。

まとめ

というわけで、ハンマリングとプリングを徹底解説しました。あまりに自然なものはバンド・スコアなどに表記されないこともありますし、タイミングさえ狂わなければ指定がなくても積極的に使っても良いでしょう。何気ないフレーズでもこれらのテクニックを駆使することで生演奏ならではの表現力もグッと高まるはずです。

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◎講師:河辺真 
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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