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    映画『騙し絵の牙』で共鳴した偶発的クリエイティブ・センス〜井澤惇(LITE)×吉田大八(映画監督)

    • Interview:Zine Hagihara
    • Photo:Chika Suzuki

    話の邪魔になる音楽は嫌だなって思っていました。
    ――井澤

    ━━制作はどれくらいの期間で行なわれたんですか?

    井澤 話をもらったときに“この制作期間だと無理かも”って思っていました。たしか、3ヵ月間ぐらいでしたよね?

    吉田 いや、3ヵ月間もなかったかも。

    井澤 2020年の1月から3月ぐらいの話でしたよね。

    吉田 そうでしたね。本当は、2019年内に音楽の制作を誰に頼むかを決めないと間に合わないということだったんです(編注:当初は2020年6月19日に映画が公開される予定だったが、新型コロナウィルスの影響により2021年3月26日に延期された)。でも、2019年内にそこまで編集が進まず、音楽も誰にお願いするかを決められないまま年を越してしまって、年が明けたらすぐに決めようと思っていました。LITEに頼みたいと僕個人としてはずっと考えていたんですけど、海外ツアーとかで忙しそうだし、映像の仕事もあまりしていないみたいで、孤高というか、僕のイメージのなかにある“ザ・ミュージシャン”なのかな、と(笑)。

    ━━やりとりしていくなかで、デモの曲に対しての採用/不採用の判断基準はどこにあるんですか?

    吉田 そこはシンプルに、映画全体のペース配分やバランスによって各シーンにそれぞれの意味や役割があるので、ズレを感じたら率直に伝えるようにはしていました。お互いのイメージを確実に合わせてもらえるように、やりとりを丁寧に積み重ねていけたと思います。具体的に曲の長さまで指定することもありましたし、あるいはもっと観念的・抽象的な言葉で伝えることもあって、そこはケース・バイ・ケースでしたね。何が気になるのかを共有しやすい言葉で伝えるようにはしていましたけど、やっぱり映画の側からの言葉だから、おそらく完全には伝わらないとしても、必ず曲という具体的なもので返ってくるので、それがハマればこっちはOKだし、そうやって着実に一歩一歩進められたと思います。停滞しているように感じたことは、一瞬もなかったですね。

    井澤 僕もそう思いますよ。いい意味で言いますが、こちらとしてはさほどいつもと変わらなかったんですよね(笑)。『Multiple』を作ったときの熱中力や“開き方”と同じでした。これはおもしろいって話すものはだいたい良くて、どうかな?って話していることはだいたい微妙じゃないですか。そこの感覚はメンバーで揃っています。

    吉田 それがすごいですよね。仲がいいって言えば簡単なんですけど、それだけじゃない、何かスペシャルな関係というか。スタジオでレコーディングしているときも、18年間も共にしているバンドなのに“慣れている”っていう感じをまったく出さないし。

    ━━バンド・メンバーって家族や友達ともまた違うけど、ただの仕事仲間よりは近しい存在ですよね。

    吉田 だからなのか、やりとりそのものは、僕でもわかるくらいシンプルなのに、音を聴くと違いがわからないぐらいに細かい(笑)。山本(晃紀/d)さんと井澤さんがまず演奏をして僕が“きた、最高!”と密かに思っていても、それを武田さんが聴いて “ここはこうじゃない?”、“やっぱりそこが気になる?”っていう会話が始まるんですよ。もう、そのあたりからひたすら神々のラリーを見守るだけ、という(笑)。

    井澤 たしか「Breakout」という曲で、ドラムのフィルのときの手の回し方がデモとは違ったっていう話だったと思います。あとは、ドラムの場合は特にそうだと思うんですが、音符の場所がひとつでも違うとイメージが変わっちゃうじゃないですか。ハナからデモに命かけてますし、そこはしっかりと演奏していきたい。この曲って確か武田の担当だったんですよ。武田の曲ってベースは絶対に入っていないから、何度かのディスカッションを経てからベースは完成しますけど、ドラムに関しては、フィルがものすごく頭がオカしいんですよ。もちろんいい意味でね(笑)。自分では絶対に思いつかないフィルなので、“これ実際に叩けるって思ってる?”って聞いても“わからない”みたいな感じで、でも山ちゃん(山本)はそれを再現できるドラマーだって知っているんです。リズム体で一緒に録ったあと、“やったぞこれ!”って思いました。そもそも人間離れしたドラムだったので人間が叩いたらこうなるよなって思ったんですけど、武田は “なんか違くない?”と。僕は“うん、わかってる、わかってるよ”……という風に話が始まって(笑)。

    映画『騙し絵の牙』【「LITE × 騙し絵の牙」特別映像】

    吉田 特に印象的だったのが、ドラムを録り終わったときに井澤さんが“このドラムは世界中で山ちゃんしか叩けない”って言ってたのが、本当に素敵だなって。18年間も一緒にバンドをやっているメンバーの演奏を外の人間に対してそう言える関係性に、ちょっとグッときましたね。そんなすごいものに立ち会ったんだって。あともうひとつ、“うちはインスト・バンドだけど、ドラムがヴォーカルですから”って言葉も忘れられない。そう思うだけで、山本さんのドラムがまったく違って聴こえてくるような気がします。

    井澤 そうなんです。僕らのなかでは一番引っ張ってくれる音っていうのはドラムなんですよ。

    吉田 でも、そもそもバンドなのに“デモに命をかける”っていうのもすごいですよね。とは言え、生身が演奏するわけだから、まあこれくらいでOK出すんだろうな、なんてほどほどのところでつい予想しちゃうんですけど、そこから何テイクも比較して、そのディスカッションの途中でもう一度デモを聴いてみようって引き返すのも、まさに迷ったときに地図を確認するような感覚なのかな。そこを経てプレイヤーが掴んだものは、これはもう僕なんかは想像するしかないんですが、そのプロセスを経た演奏は、どこが変わったのかがわからなくても明らかにカッコよくなっている。誰かが命をかけたものをキチンとリスペクトして、それを自分の体を通して表現して録音するっていう必勝パターンが18年やっている間にできあがっているんですよね。なんか、僕のイメージだと7〜8割ほどの完成度のデモであとはメンバーに委ねるというか、余白を作ってちょうどいいバンド感を出すものかなと思っていたら、デモというある種のバイブルを命をかけて作って、なおかつそれをハードルとして現場で超えていく。ゆるくズレてその味わいをよしとするということではなく、そこがすごく“マス・ロック”だなと、まさに数学ですよね。厳密だから美しい。

    ━━映画を観たときに思ったのは、最初にLITEの音楽が流れる瞬間はやはり強烈で印象的でしたが、物語が進んでいくとその感覚は薄れていき、次第に没頭していました。これは音楽が映画とマッチしていたということですよね。

    井澤 話の邪魔になるのは嫌だなって思っていたので、それは一番嬉しい反応ですね。映画の内容がとてつもなくおもしろいので、僕らの音楽が化学反応してもっとおもしろくなればいいなと思っていたんですけど、異物感がありすぎるのはよくないから、そのギリギリがいいのかなって思っていたんですよ。

    吉田 そこはやっぱりLITE好きの監督として(笑)、“ここ、カッコいいのつけてね、よろしく!”みたいな発注はしていないですし、ちゃんとイメージを細かく伝えていますから。観ていると没頭して音楽だけに引っ張られることはないけど、必ず映画を観ている気分に影響するように作っていただいたので、その部分の馴染みがうまくいっていると思うんですよね。

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