プランのご案内
  • NOTES

    UP

    映画『騙し絵の牙』で共鳴した偶発的クリエイティブ・センス〜井澤惇(LITE)×吉田大八(映画監督)

    • Interview:Zine Hagihara
    • Photo:Chika Suzuki

    “これはデモですが、このまま録音します”、と。
    ――井澤

    ━━音楽で言えば、音価やダイナミクスの部分は、やろうと思えば画面上でいくらでも編集できる時代じゃないですか。

    井澤 そうですね。

    ━━それでも絶対的にフィジカルの完成度を追い求める、と。

    井澤 そうですね。まあ、ときには融通は効かせますけどね。ただ、自分の頭のなかの設計図どおりには、ほかの人が弾けないこともあるんだなっていうことを『騙し絵の牙』の録音で気づきました。全部で30曲ぐらいあったんですよ。そのなかから25曲に厳選してサントラに収録されているんですけど、場面に合わせた曲を作っていくなかで、場面ごとの担当者にメンバーのそれぞれが自然となっていったんです。

    ━━LITEは武田信幸(g)さん、楠本構造(g,syn)さん、井澤さんが作曲を行なっていますが、場面ごとにそれぞれがバンマスを担っていきながら曲を作っていったんですよね。

    井澤 はい。僕が作った曲で“こういうギターを弾いてほしい”ってメンバーに伝えたりして作業を進めていったんですけど、そのデモの時点で、監督を交えてけっこうこだわった対話をしてデモを詰めていったんです。“これはデモですが、このまま録音します”、と。

    吉田 LITEの普段の制作では、あそこまで細かくやらないんですか?

    井澤 いや、あれがいつもの感じです。

    吉田 すごいんですよ、本当に。デモの精度にびっくりしました。

    井澤 もはや本番のレコーディングと変わらないんですよね。竿まわりは打ち込まずにちゃんと演奏しますし、ドラムは打ち込みですけど音色と音の距離はめちゃくちゃこだわっているので、ドラムのチューニングもそのデモをもとに再現してもらっていますね。

    井澤惇
    いざわ・じゅん●1984年3月23日生まれ、東京都出身。2003年に4人組インスト・ロック・バンド、LITEを結成。シャープな演奏によるプログレッシブかつエモーショナルな楽曲が国内にとどまらず話題を呼び、アメリカやヨーロッパ、アジアでもリリースやツアーを行なう。2019年6月に6枚目のオリジナル・アルバム『Multiple』を発表。井澤はLITE以外にも、さまざまなセッションやサポート・ワークのほか、日向秀和とのツイン・ベース編成となるインスト・バンド=FULLARMOR、ピエール中野らと結成した激情形爆音ジャム・バンド=カオティック・スピードキングでも活動している。
    Official HP

    ━━リファレンスとして完璧に機能させるんですね。

    井澤 デモの時点で“このニュアンスで録音するので”っていう対話を監督とすでにしているんですが、本番のレコーディングでいざ僕が作った曲の2本分のギターを武田と楠本に弾いてもらうときにあのデモのニュアンスが出なくて、そこは自分が弾きました。こうやって臨機応変に対応して融通を効かせていますね。ただ、例えば“音色はもっとこうしたほうがいいんじゃない?”っていうのはもちろん取り入れますし、それはギタリストの主張は絶対に信頼できるものだし、僕がギターを弾くことに関してメンバーも嫌な思いはしないですね。

    ━━LITEは音楽性だけでなく、制作方法も自由度が高いんですね。

    井澤 今回が特にそうだったんですよね。普段は武田と僕が基本的にデモを作って、フィードバックを取り入れてバンドに返していくんですけど、今回は各コンポーザーが場面ごとのバンマスを担当していたので、その各人のこだわりが強く出たのがおもしろかったと思います。

    ━━バンドと監督のやりとりにはどういったものがありました?

    吉田 デモの段階では、武田さんが窓口でした。最初は、粗編集の試写に武田さんをお呼びして、大まかな流れや意図を理解してもらいました。次に、もう少し進んだ編集素材にLITEの既存曲を切り貼りしたものを送ったんです。あれ、やりづらかったですか?

    井澤 それが、逆なんですよね。

    吉田 あ、そうだったんですね。以前、別の映画で同じことをしたら、やりにくいと言われたことがあって。人によるんですかね。

    井澤 僕らは映画の劇伴が初だったからというのもあると思います。LITEらしいものを求めているのか、もしくはクラブ・ミュージック的なアプローチの“劇のうしろっぽい”サウンドを求めているのか、わからなかったんです。一番最初に監督に送ったデモもバンド・サウンドっぽくなくて、エレクトロっぽかったですよね。

    吉田 LITEの既存曲のなかにイメージに合うものがなかったときは、まったく別のアーティストの曲をサンプルとして合わせていました。とにかく最初はそういう探り合いを重ねつつ、次第に方向性が定まっていくにつれてデモのペースも上がっていって。僕が昼に編集室でチェックして要望を送ると、夜になって家に帰った頃には修正済みの次のバージョンがもう戻ってきているんです。しかもこちらから事前に送った映像に貼りつけた状態で。もう至れり尽くせりですよ(笑)。

    吉田大八
    よしだ・だいはち●1963年10月2日生まれ、鹿児島県出身。高校時代にベースを手にして音楽にのめり込むが、上京したのちに観た映画『爆裂都市 BURST CITY』に影響されて映画に興味を持ち始める。テレビCMのディレクターとしてキャリアをスタートし、2007年に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビュー。その他の監督作品として『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『紙の月』(2014年)、「美しい星」(2017年)、「羊の木」(2018年)などを発表。『桐島、部活やめるってよ』では日本アカデミー賞最優秀監督賞などを受賞している。現在の愛器はmomose製JBタイプとアイバニーズ製アコースティック・ベース。
    『騙し絵の牙』Official HP

    井澤 僕、コマーシャル音楽の仕事もやってたんですよ。画に音を足すやり方をメンバーに共有して作業していました。

    吉田 おかげで本当にやりやすかったです。こちらとしては編集している時間以外にデモのついた画を観て、音楽が入るタイミングとか、アレンジの微妙な調整のようなディティールまで思う存分詰めることができたんですよね。夜中にその話ができていたから、また翌日は編集室でその要望が反映されたデモを当てて作業ができるんです。怖くてなかなか聞けなかったんですけど、LITEのみなさんはいつ寝てたんですか(笑)?

    ━━あはは。LITEの制作は、このスピード感はいつものことなんですか?

    井澤 いや、ここまでの速さは基本的にはなかったですね。今回はその点でうまくいったなと思っていて。リーダーの武田が監督との対話を最初のうちから続けてくれていたので、その間に僕は家でひたすら作業に集中できました。けっこう僕の担当曲が多かったんですが、家で待機していると監督からの要望が武田を通してすぐに届くんです。だから僕はひたすら作業して、ギターやらベースを録ってミックスまでして(笑)、すぐに送り直していましたね。僕もやりやすかったです。

    ▼ 続きは次ページへ ▼