NOTES
生粋のエフェクター・フリークとして知られる高松浩史(The Novembers/Petit Brabancon)による連載【その箱の中は地獄より深い】。マニアも唸るディープな分析から、ビギナー向けの実践的な解説まで、エフェクターの奥深い世界を独自の視点で掘り下げます。(連載一覧はこちらから)
前回に引き続き、今回もXで募集した「読者の皆さまからの質問」にお答えする回をお届けします! エフェクターのこと、ベースのこと、そして音作りのこと——リアルな声に高松さんが真っ向から答える、濃密Q&Aをお楽しみください。(編集部)
第21回:Q&A回答篇 Part2
Q:チューナーをつなぐ場所について質問です。エフェクター・ボードの最初に置く人、最後に置く人など、さまざまなパターンがあると思いますが、それぞれの意味やメリット・デメリットを教えていただきたいです。(質問者:じんろ)
A:質問ありがとうございます!
チューナーの位置を考えるときは、“どの位置でミュートできるか”ということを意識すると良いかなと。
チューナーを先頭に置く場合、当たり前ですがその前にエフェクトが何もないので、踏めばすぐに正確なチューニングができるという状態です。一方でチューナーがうしろのほうにあると、空間系やコーラス、ピッチシフト系などのエフェクターはピッチを揺らしてしまうため、チューニング時にはこれらをオフにする必要が出てきます。歪み系のエフェクターは、かかりっぱなしでもそこまで問題がないことが多いです(それでもオフにしたほうが良いとは思います)。
逆に、チューナーを最後に置いておくと、トラブルシューティングがラクです。音が出なくなったときにチューナーが反応していれば、“ペダル・ボード内はオッケーで、そこから先のケーブルやアンプに問題がある”ということがわかります。
また、チューナーが最後のほうにあると急なペダルの入れ替えもラクですね。チューナー以前のペダルを入れ替えるなら、プラグを抜いても“バツ!”というノイズが出ないので。
あとは先頭のほうにチューナーを置くと、ハイゲインの歪みをかけたときにミュートしても“サー”というノイズは消せませんが、チューナーがうしろだとノイズごとミュートできるので静かです。
こうして挙げてみると、チューナーはうしろにあったほうが良いように感じます。僕もうしろのほうが好きです。ただ、バッファー内蔵型のチューナーは基本的に先頭につないだほうが良い結果になりやすいようです。音の変化があるものですからね。ただし、その辺も音が気に入ればうしろでもオッケーだと思います!
なので、メリット・デメリットではなく、自分に何が合っているかという視点で考えてみてください。
Q:僕はEBSのMicroBassシリーズとサンズアンプを組み合わせた音が大好きなのですが、高松さんには“このふたつを掛け合わせたら最高だ!”と思えるエフェクターの組み合わせはありますか?(質問者:だでぃ/ユアネス)
A:質問ありがとうございます!
基本的に組み合わせで音作りをすることが多いので、たくさんあります。
1995fx Stomach ache + サンズアンプ
ダークグラス B7K+サンズアンプ
などなど。相性の良い組み合わせを見つけるのも楽しいですよね!
Q:フレットレス・ベースを持ってないのですが、「plastic」や「Cashmere」のような音色を出すことはエフェクター次第で可能でしょうか?(質問者:たかまちゅ大好き)
A:質問ありがとうございます!
どの程度近づけばオッケーとするのかわからないのでなんとも言えませんが、再現は難しいと思います。エフェクターでなんとかなっていたら、僕もわざわざフレットレス・ベースを弾かないと思うので……。ただトーンを落としても全然近づきませんしね。
フレットレス・ベース、唯一無二でとても素晴らしい楽器ですよ。フレットレスを弾いているとフレットがあるほうが楽器として不自然に感じることもあります。
一度試奏で構いませんので、弾いてみてください。きっと“これはエフェクターでは再現しきれない”と思うはずです
Q:エフェクター・ボードのお写真を掲載される際、ツマミをテープで隠されていることが増えたように感じています。“演奏中にツマミが変わってしまうトラブルを防止する”のがおもな理由だと思いますが、“設定を公開しない”考えも含まれているのでしょうか。(質問者:匿名希望)
A:質問ありがとうございます!
そうですね、演奏中だけでなく、運搬の際などにもコントロールが動かないようにテープを貼っています。
ライヴの転換のときなどにケーブルをボードの上に置いたりすることで、ツマミが動いてしまう瞬間って結構あるんですよね。僕はそういったことを気にしてしまうタイプなので、演奏に集中できるように貼っています。
設定を隠すという意図はありません。コントロールが動かないようにアクリルのカバーを付けているペダルは設定が見えますしね。ただ、個人的には設定は見せても良いけれど、基本的には見せなくて良いかなという考えです。
参考にしていただけるのは嬉しいことですが、僕自身その時々で設定は変わりますし、あまり僕の設定に縛られず好きに音作りをしてほしいなと思っていますので。

Q:ベース初心者なのですが、憧れのベーシストの音を再現したいと思ってもアンプやエフェクターのトレブル、ミドル、ベースをどのようにすれば近づくのか全然わかりません。音を近づけていくコツみたいなのがあったりするのでしょうか。(質問者:かめ)
A:質問ありがとうございます!
まず前提として、ある程度までしか近づけられないかもしれません。楽器やピッキングが違いますし、参考にしている音源、CDなどのスタジオ録音の音源ではレコーディング・エンジニア、ライヴなどではPAさんの手が入っているので。
その上でなるべく近づけるには……同じタイプの楽器(ジャズ・ベース・タイプ、プレシジョン・ベース・タイプなど)、同じエフェクター、同じアンプなどを揃えつつ、地道に実験をしていくしかないかなと。アンプの音だけじゃなく、ラインの音も重要ですね。
“憧れのベーシストのあの音”という理想があるのはとても良いことで、実験、経験を重ねてその理想に近づいていくのは音作りにおいてとても有用なことです。もがけばもがくほど成長につながると思いますよ。
僕もいつも好きなバンドのCDを聴いて、“ラインでこういう音が出たら良いな!”、“アンプではこういう音が良いな!”など考えています。
お互い楽しんで頑張りましょう!
Q:The Novembersは同期と合わせて演奏する曲がありますが、その際に気をつけているポイントなどはありますか? また、限られた台数でエフェクター・ボードを構築する際に、選択するポイントを伺いたいです。(質問者:炭酸水)
A:質問ありがとうございます!
同期がどうこうでベースの音をどうするか意識することはありませんね。逆にベースだけでなく、バンド・サウンドをみて同期の音を整理することはあります。レコーディングをしたときのままライヴで使用するということはないと思います。
限られた台数でボードを組むとき……基本的には一台で何役かこなせるものであったり、台数ではありませんが筐体が小さくスペースをとらないものを選びます。
例えばダークグラスのB7K Ultraなんかは、歪みのオンオフが出来るので、プリアンプ兼歪みとして使えたりしますよね。そんな感じです!
Q:以前に、“音をぼやけさせないために、歪んでいるように聴こえても、実はそれほど大きくは歪ませていない”といったお話をされていました。“強めに歪みをかけても音の芯がしっかり聴こえる”ようなコツなどがあれば、教えていただけるでしょうか?(質問者:匿名希望)
A:質問ありがとうございます!
音作りで1番意識しているのは、しっかりとしたピッキングです。そこがうまくいっていると芯がしっかりする=歪ませたときでも芯が残りやすくなる、という良い循環が起こります(説明が難しいのですが、強いピッキングとは違います)。
逆にどれだけ良い感じの音であっても、ピッキング次第で台無しになってしまいます。
あとはそういう機材を選ぶというところも大事ですね。ヘンにどこかの帯域がなくなってしまうような機材は選ばないようにしています。
Q:直列でエフェクターをつなぐと音が痩せる、もしくは引っ込んでしまうのですが、その対処方法や症状込みで音を作るときの考え方を教えて下さい。(質問者:nyamjya)
A:質問ありがとうございます!
オフの状態でつないだだけで引っ込んでしまうのか、オンにすると引っ込んでしまうのかどちらでしょうか?
前者の場合、スイッチャーで直列を避ける。後者の場合、ブレンダーなどで原音を足してあげる。こんな感じでしょうか……。ただ、僕だったらそういった機材はそもそも使わないようにします……(笑)。
Q:エフェクターやベース本体などの購入の際、楽器店で試奏したときには良くてもバンドや録音トラックのなかで聴くとイマイチなことがあります。こうしたハズしを防ぐために、試奏の際にできる工夫は何かありますか?(質問者:peejay)
A:質問ありがとうございます!
これはかなりあるあるですね。工夫……あれば僕も教えてほしいくらいです。
基本的にトライアンドエラーを重ねるしかないのかなと思っています。僕もまだまだ失敗することも多いですし……。
一応、楽器本体は弾いたときの反応が速いものを選ぶようにしています。同じ機種でも個体差があるので、可能であれば弾き比べられると良いですね。
エフェクターについては音の芯とか、密度、重心がどうなるかというところは気にしています。あとは歪み系でしたら、歪ませることで潰れ具合はどうかなど。
Q:エフェクターや機材選びで重視していること。歪ませるときに意識していること。ここだけは譲れない音作りのこだわりがあれば、教えてください。すみません多くて。(質問者:Liyuse)
A:質問ありがとうございます!
重視していること……見た目、オンとオフでの違和感が少ないもの、密度、重心などでしょうか。違和感というのは、どこかがごっそりなくなってしまったり、僕が思うベースのおいしいポイントが薄れてしまったりといった感じ。
歪ませるときに意識していることと音作りのこだわりは、楽器のアウトプットからしっかりとした音を出すというところですね。ピッキングなどなど、気にするところは多いです。
Q:エフェクター・ボードの機材の並べ方に、こだわりはありますか? あれば教えてください。また運搬時に気をつけてることはありますか?
A:質問ありがとうございます!
並べ方……単純な置き方の話なのか、それとも接続順の話でしょうか? 置き方にこだわりはありません。けっこうギチギチに詰め込んでしまうので、フタが閉まってくれればオッケーです。
接続順のお話でしたら、自分が思うような効果が出るように組み合わせています。ヴォリューム・ペダルの位置なんかはわりと珍しいかもしれませんね。
運搬のときに気をつけていることも特にないですね。最低限、しっかりとしたケースであったり、保護などはしますが。昔は気を使いすぎてひとつひとつ箱に入れて運搬していましたが、それだと準備や撤収に時間がかかりすぎてダメでした……。
Q:作曲やベース・ラインを考えるうえで、エフェクターや音作りが起点になることもあると思います。高松さんが携わってきた曲のなかで、機材が起点になった曲や、”これは良い音が作れた!”といった印象に残っている曲などあれば語ってほしいです!(質問者:ken#5)
A:質問ありがとうございます!
エフェクターではないですが、フレットレス・ベースはとても影響力があります。大きすぎる存在です。逆にエフェクターで曲を作ったことはないですね……。曲があって、どんなフレーズにするかを考えて、最後に音を決めるパターンが多いです。
Q:高松さんが初心者にオススメする楽器選びや、機材を少しずつ揃えるには何をポイントにすればいいですか? また、ノベンバの曲で1番最初にコピーするならどの曲がいいですか?(質問者:カレーパン)
A:質問ありがとうございます!
楽器は見た目が気に入ったもの、ときめくものが良いと思います。あとは好きなアーティストが使用している楽器に似たものなど。
機材は、まずチューナーやケーブル、音を出せる機器があると良いですね。音を出せる機器というのは、アンプであったり、ヘッドフォン・アンプであったり。
以前、初心者の方向けにオススメの機材をまとめたので、もしよろしければ読んでみてください (記事はこちら)。エフェクターは必要になってからで大丈夫です。使わなくても気に入った音が出せるのなら、それが一番良いので。
The Novembersで最初にコピーする曲……難易度とかは各々の曲であると思うのですが、ご自身の好きな曲が良いと思いますよ。モチベーションを保つことも重要なので。何曲か好きな曲をピックアップして、できそうな曲からトライしていくのがよろしいかなと。
Q:TECH21のサンズアンプについての質問です。セッティングを、ブレンドはフルテン、ほかを10~12時あたりで調整する音作りをメインとしているのですが、ファズのかかりがイマイチな感じがあります。やはりうしろにファズを置くなら、ブレンドは控え目が良いのでしょうか?(質問者:御陸)
A:質問ありがとうございます!
ファズに限らず、サンズアンプを先にかけるとビチビチな音になってしまいませんか? 僕は歪みの乗り方などがあまり好みではないので、サンズアンプはうしろのほうに置いています。
もしかしたらブレンドを控えめにすれば違和感はなくなるのかもしれませんが、せっかく今の設定で気に入った音が出せているのに、“ファズだけのためにその設定を変えてしまうのもどうなのかな?”と思いました。“ファズは常にかけっぱなし!”というのであれば問題ないですが……。接続順や、ファズの機種を変えてみたりするほうが良いのかなと。

Q:ライヴの際、ライン(足下)とアンプの音、どちらに比重を置いて音作りをするのがおすすめでしょうか? 今現在はラインに近い音として、自宅の小型アンプにヘッドフォンを挿して音作りをしています。この時点でベースらしいロー感を確保するべきでしょうか。
それともアンプから出る音を頼りに、足下での音作りは気持ちフラットにしておいて、出先のアンプで音を完成させるのが良いでしょうか。
ライヴ前のサウンドチェックでもう少し時間がほしいなと感じることが多く、高松さんが最終的にどのようなバランスで音を作っているのかを教えていただけたら幸いです。
A:質問ありがとうございます!
僕は完全にラインで音を作っています。ベース・アンプのEQは12時からスタートして微調整するくらいです。たまにグラフィック・イコライザーがついている機種がありますが、グラフィック・イコライザーは使いません。
“出先のアンプ”と書かれているので、おそらくアンプはお持ちではないと思うのですが、その時々で環境が変わる場合、音作りにおいては“いかに基準を見つけるか”ということが重要になってきます。
基準がないと迷宮入りしてしまいますので。この場合、ラインでしっかり音を作ってそれを基準にできればラクだと思いますよ。ラインでしっかり好みの音を作ったら、あとはベース・アンプの調整をするだけなので(もちろん微調整はあると思いますが)。
でもこの辺はPAさんによるところもあると思うので、しっかりお話をしてアドバイスをいただきつつ音を作るのが理想ですね。
ただ、“ラインだけ使ってアンプにはマイクを立てない”というケースはあっても、“ラインは使わなくてアンプのマイキングの音だけを使用する”というケースはあまり聞いたことがないので、ラインで音を作り込むというのは良いことだと思っています。
◎Profile
たかまつ・ひろふみ●栃木県出身。2002年に高校の同級生だった小林祐介(vo,g)とともに前身バンドを結成する。2005年からThe Novembersとしての活動を開始し現在までに8枚のフル・アルバムなどを発表している。2021年からは京(vo)、yukihiro(d)を中心としたプロジェクトPetit Brabancon、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSのメンバーとしても活躍している。その他、Lillies and Remains、圭、健康のサポート・ベーシストも務めている。Petit Brabanconは8月7日に2nd EP『Seven Garbage Born of Hatred』を発表している。
◎Information
高松浩史 X Instagram