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    チャック・レイニー流 大人のグルーヴ講座 Part1(2009年11月号掲載)

    • Photo:Yoshika Horita
    • Translation:Miki Nakayama
    • Cooperation:Hisafumi "JIMMY" Maeda, Billboard Live Tokyo

    伝説のベーシスト=チャック・レイニーの直伝セミナー

    エレクトリック・ベースが使われるようになった初期から現在に至るまで、数多くのアーティストの低音部を支えてきた伝説のベーシスト、チャック・レイニー。

    その独特なピッキング&グルーヴからくり出された名演名盤は、今もなお多くのフォロワーに影響を与え、ベーシストなら誰もが近づきたいと思わせる魅力に満ちあふれている。
    そんな彼の奏法に迫るべく、本誌の2009年11月号に掲載された直伝セミナーをWEB版として再構成し、音源とともにお届けする!

    取材および録音は、2009年8月にマリーナ・ショウのスペシャル・ライヴで来日した際に録り下ろしたものだ。大人なニュアンスたっぷりの音源で、チャック・レイニー流のグルーヴを体得してほしい!

    *本記事は『ベース・マガジン2009年11月号』掲載のコンテンツをWEB用に再構成したものです。

    数多くのセッションで、極上のグルーヴを残してきたチャック・レイニー。

    骨太なファンクからスムーズなジャジィ・チューンまで、彼はさまざまなベース・ラインを生み出してきたが、今回はその真骨頂である、ニュアンス抜群の“大人のグルーヴ”をテーマに演奏してもらった。

    音源に取りかかる前に、チャックの奏法を分析してみたい。特にピッキングの仕方はかなり独特なので、ここでしっかりマスターしてほしい。

    チャックのピッキングは、基本的には人差指のみを使う1フィンガーで、時折り2フィンガー、そのほかにスラップも行なう(サンピング・アップは使わずダウンのみの振り上げ型)。

    またスラップ・プレイではストラミングをすることもある。なかでもチャックのトレードマークと言えば、“1フィンガーでのダウン&アップ奏法”だろう。これは人差指で普通にアポヤンドで弦を振り抜き(ダウン)、次に爪の部分で弦をはじく(アップ)というもので、これで16分音符やゴースト・ノートをリズミカルに弾くのだ。

    まれに2分音符や付点4分音符などの長めの音符を弾くときに、“間”に人差指のアップを入れてリズムをとることもある。これは、ベーシストであれば誰しもがどこかでリズムを取っている感じと同じだと思う。例えば足を踏んでリズムをとる人がいるように、チャックは人差指のアップがリズムを感じるポイントなのだろう。このように人差指のアップを実音、ゴーストノート、空ピックといろいろな用途に使っているのだ。

    さらに1フィンガー奏法での欠かせないテクニックといえば、ダブル・サップ、ピッキングやレイキングといったテクニックだが、チャックのレイキングはジェームス・ジェマーソン直系と言えるだろう。このレイキングと人差指のダウン&アップとのコンビネーションで“これぞチャック節!”といった数々の名プレイを生み出してきた。一例を挙げれば、ルートでの人差指ダウン&アップからオクターヴ上に跳び、5度〜ルート〜とレイキングで降りるフレーズは、まさに十八番だ。

    またダブル・ストップは、ストラミングのように爪の部分を当てて弾くことが多いようだ。爪の部分が当たるとトレブリーな音を想像してしまうが、チャックはベース本体のトーンをほとんどの場合に絞り気味にしているので、爪が当たっても丸い音色なのだ。

    人差指をアップ/ダウンさせて弾く独自のスタイルは、基本的に写真の状態で人差指を動かす。これは何度も挑戦して慣れるしか習得する術はないかも……。また、手の大きいチャックは、1弦を弾くときでも親指は4弦に置く(下写真)。

    ジェマーソン同様、チャックもルーツのひとつにジャズを持つベーシストだが、この系譜に連なるベーシストであるチャック、ジェリー・ジェモット、ゴードン・エドワーズといったベーシストの特徴に、開放弦から5フレットを中心にしたポジショニングが多いことが挙げられる。

    このポジションはウッド・ベースでは基本となるが、倍音の少ないウッドに比べてラウンド弦を張ったエレキ・ベースは無駄な倍音が出やすく、的確なミュートが重要となる。そこでチャックは、頻繁に親指をネック上から回し、4〜3弦をミュートしている。

    押弦は基本的に、いつでもミュートできるように指の腹で押さえ、3フレット4フィンガーと4フレット4フィンガーを場合によって使い分ける

    また4度音程は、セーハと小指+薬指を使い分けて押さえている。例えばメジャー・キーであれば、ルートを中指、3度と6度を人差指でセーハ、オクターヴ上から5度〜ルートは小指から薬指〜人差指といった具合だ。スライド・プレイは柔軟な手首の回転で、とてもスムーズだ。

    左手の押弦は、オーソドックスなスタイル。だが、手の大きいチャックは、4〜3弦などのミュートに親指を使うこともしばしばだ。

    エレアコ・ベース(シトロン)によるガイドのコード・プレイは極力シンプルにし、ベース・ラインもシンプルなものを弾いてもらった。

    【B】などの、大きな音符を弾くときの人差指の動きから、チャックのリズムの感じ方がわかると思う。また【A】の2小節1&2拍目の人差指空ピックは、8分のタイミングでとっている。4小節目は十八番の9thと13thのメロウなスライドだ。

    【A】の5小節目や【C】の1&5小節目のレイキング・フレーズは、以後のトラックでも最も頻繁に現れるチャック印のフレーズと言える。人差指のアップのタイミングは規則的なオルタネイトというわけではなく、8分であったり16分のウラであったり、さらには【A】の17&18小節目のようなものもあって、そのときのチャックのリズムの感じ方によって気のおもむくままという具合だ。

    左手の押弦だが、【B】の5小節目のように開放弦が連続する場合、親指を伸ばして3弦をミュートするなど、5本の指をとてもフレキシブルに使っている。【C】の9小節目はスラップをタッカートさせてリズムに緩急をつけている。

    こちらもメロウなコード進行でのプレイだ。【A1】の1小節目のフレーズは、1フィンガーによるダウン&アップ+レイキングを習得するにはもってこいの練習フレーズなので、ぜひトライしてモノにしよう!

    3拍目の押弦は小指と薬指を縦にして押さえる。【B1】の2小節3&4拍目のレイキング・フレーズは、彼のフェイバリットであるジェームス・ジェマーソンのプレイを思い起こさせる。

    同じく【B1】の4小節目におけるC7は5度をルートの分数コードにし、4〜6小節目までキレイな下降ラインを作っているのに注目。さらに7小節目は、付点8分+開放弦のゴーストを16分で引っ掛け、独特のはずむ感じを出している。

    【A2】【B2】は付点4分音符と8分によるシンプルなラインだが、譜面のタイミングで大きな音符の間を人差指のアップを空ピックのように動かしている。これはチャック流グルーヴを生む大きなポイントだ。

    【B3】の5〜6小節の和音はEm7のm3rdと4弦開放ルート、8〜9小節はD7のM3rdと2弦開放ルートという、1弦の高音+開放弦のボトムを駆使したチャックならではの和音プレイである。

    録音は、チャックのプレジション・ベースからラディアルのDI(J48)を通し、ラインにて録音した。

    リズム・トラックは、Track01〜04は前田“JIMMY”久史氏がチャックのプレイを想定して制作したもの(伴奏で弾いている楽器は、ギターではなくシトロン製の5弦ベースだ)。

    Track05〜06は、本誌2009年2月号のウィル・リー直伝企画と同じトラックに合わせてプレイしてもらった

    本来は冒頭4曲のみの予定だったが、ドラムのみのオケであるTrack05〜06で弾いてもいいよという、チャックの提案から録音することになった。期せずして、チャックとウィルのプレイの差を味わえることになったわけだ。

    今回のレコーディングで使用したベースは、チャックがマリーナ・ショウの公演のために持ち込んだフェンダー・プレジション・ベース。

    50年代製を再現した現行モデルで、アノダイズド・ピックガードなどが特徴だ。

    それ以外は極めて普通……と思いきや、驚くほど軽かったのが印象的だった。

    「チャック・レイニー流 大人のグルーヴ講座」
    が掲載されている『2009年8月号』はこちら!