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    INTERVIEW – マーティ・ホロベック

    • Interview:Mitsutaka Nagira
    • Photo:ほしのやすはる

    石若駿、井上銘とのトリオで作り上げた最新リーダー作と、“マーティ&石若”のリズム体が最高な理由

    2018年に東京へ移住して以来、ジャズを中心にポップスやロックの現場でも多方面で活躍しているオーストラリア出身のベーシスト、マーティ・ホロベック。昨年の『ベース・マガジン2023年2月号』では、これまでのキャリアや機材について詳しくインタビューを行なったが、ここではマーティが4作目のリーダー・アルバム『Trio II: 2』をリリースしたタイミングで再び話を聞くことに。盟友であるドラマーの石若駿、ギタリストの井上銘と作り上げた最新作の制作背景はもちろん、年間100本以上の現場をともにしているという“マーティ&石若”のリズム・セクションについてや、ハイエイタス・カイヨーテの面々とも深い親交があったという地元オーストラリアの音楽シーン、今年実現した上原ひろみやカート・ローゼンウィンケルといったヒーローたちとの共演など、さまざまな話題を語ってもらった。マーティによるベース・プレイの実演動画も公開しているので、プレイをコピーする際の参考にしていただきたい。

    「本当は井上銘のトリオだけど、僕がゲットしました……すみません(笑)。銘のことがすごく好きだったからね。」

    ━━まずはマーティがやっている3つのTrioについて聞かせてください。最初のリーダー・アルバム『Trio I』(2020年)は、ジェームス・バウワーズ(p)、石若駿(d)とのトリオでした。

     ジェームス・バウワーズは僕のオーストラリアのころからの友達で、彼とは昔オーストラリアでポップスやジャズを一緒にやっていた。そして、2018年に日本に引っ越して石若駿と知り合った。ふたりは僕が一番好きなミュージシャンだから、いつか3人でやりたいと思っていたんだよね。それでジェームスがヨーロッパからの帰り道で5日間くらい東京に来たときがあって、(石若)駿に“ジェームスが来てるからレコーディングしよう”って言って都内のスタジオに入った。それで作ったのが『Trio Ⅰ』。僕のメルボルン時代と、新しい東京での人生が組み合わさった作品になったから、すごく嬉しかったよ。

    ━━2作目の『Trio II』(2022年)は、石若駿、井上銘(g)とのトリオで制作されました。

     僕らは新宿PITINNで“井上銘トリオ”(井上銘/石若駿/マーティ・ホロベック)としてライヴをやっていたんだけど、僕はそのトリオがすごく好きだった。このトリオのために自分の曲を書きたいと思っていたし、このバンドで自分の曲を演奏したかったからアルバムを作ることにした。一日で全部録音したね。本当は井上銘のトリオだけど、僕がゲットしました……すみません(笑)。銘のことがすごく好きだったからね。

    ━━『Trio III』はいかがですか?

     『Trio III』(2022年)では、それまでと違う雰囲気を作りたくて、石橋英子(p)さんと山本達久(d)さんと一緒にやろうって考えた。でも彼らをブッキングをしたけど、曲が書けてなかったからレコーディングの1週間前になってめっちゃパニックになった。だから最初は焦ってたけど、結果的にはすごい良いものになったと思う。『Trio III』のレコーディング・セッションは3日間。1日目にちゃんと曲を録って、リハーサルをして、2日目にもう一回録って、3日目はラストチャンスでほとんど休憩なしの1テイク(35分くらい)を録音した。ラストの2分間だけ少しエディットしたけどね。でも僕の“Trio シリーズ”は、ほとんど録り直しやエディットはしていないんだよね。『Trio I』でベースの音を1個ダビングで入れたくらい(笑)。『Trio II』も今回の『Trio II: 2』でも、エディットはほとんどなかったね。

    ━━バンド名はなぜこの名前にしたんですか?

     バンド名は“Trio’s”(笑)。わかりやすくはないかもしれないけど、僕的にはわかりやすい(笑)。“Trio I”がジェームス・バウワーズと駿で、“Trio II”が駿と銘、“Trio III”は達久さんと英子さん。

    左から、井上銘(g)、マーティ・ホロベック、石若駿(d)。8月1月に開催された『Trio II: 2』のリリース記念ライヴの模様。

    ━━もしかして「Trio Ⅳ」もあります?(笑)

     実はこないだ半分くらい録ったよ。渡辺翔太(p)と石若駿とね。

    ━━『Trio II: 2』のレコーディング・セッションは、どのように進みましたか?

     『Trio II』、『Trio III』、『Trio II: 2』は自分でレコーディング・エンジニアもやったんだ。それで『Trio II: 2』では、みんなすごく忙しいけど何とか予定を2日間押さえられたから山梨に1泊してレコーディングした。でも1日目で機材の問題が起きちゃって(笑)。最初は借りた機材でセッティングを進めていたけど、オーディオ・インターフェイスやマイクとかの問題で、ちょっと録ったけど“これは使えないね”となっちゃった。それで次の日は僕が代わりのインターフェイスを持っていったんだけど、それも16チャンネルのうち4チャンネルがダメで……(笑)。結局12チャンネルで録ることにして、そうしたら音がインディ、ガレージっぽくなって、逆にそれがいいと思ったんだよね。この音けっこう合うな、クリーン過ぎなくて好きだなって。

    ━━先日ライヴも観ましたが、ライヴでもインディ、ガレージっぽい感じがありました。

     そう。それも間違いないね。僕のこのベース(アイバニーズ製ASB180-BS)もすごく味があって、クリーンなサウンドじゃないしね

    ━━『Trio II: 2』のレコーディングでは、全篇このベース1本で弾きましたか?

     「Campfire」は、60年代のYAMAHAのベース(SB-2)を使った。もともとライヴではウッド・ベースで弾いてたんだけど、レコーディング中に銘が“マーティ、エレキで弾いてもいいんじゃない?”って言ったから使ってみた。ウッドの音のイメージがあったから、ヤマハにもフラット・ワウンド弦を張ったよ。レコーディングはすごいおもしろかった。僕の曲は演奏するのがそんなに簡単じゃないし、エンジニアリングのことも考えないといけないから、ちょっと心が忙しかったけど(笑)。

    ━━リハーサルはしたんですか?

     全然していない(笑)。レコーディングの前にちょっとミーティングをしたくらい。セッティングをしたら、“やってみよう!”で、ほとんど時間もなくて各曲3テイクしかしてないかも。機材の問題もあったけど、いい演奏をしたいからめっちゃ集中した。ふたりも集中してタフだったね。間違ったポイントもあったけど、それもめっちゃ好き。本当の意味で、音楽的には正解だなって思えるものだった。

    ━━事前にライヴでやっていた曲はどの曲ですか?

     「Uncle Izu」と「Campfire」はライヴでやったことがあったけど、それ以外は全部新しいよ。

    ━━ほかのふたりが書いてきた曲もありましたよね

     「Campfire」は銘が6ヵ月前に書いて、「Omaru」は銘が“マーティっぽい曲”をイメージして書いた曲(笑)。すごくヘンな気持ちになったよ。“マーティっぽい”けど、僕は書いてないから(笑)。

    ━━どのあたりが自分っぽいと思ったんですか?

     ハーモニーとかメロディ、リズムが僕がいつも書くものと似ていたから、“えっ!?”って。やりやすかったけど、なんか恥ずかしい気持ち(笑)。例えば「Nagoya no Ie」(『Trio II」収録)は、キーは違うけど、「Campfire」と同じコード進行とムーブメントなんだよね。AメジャーからCメジャー。すごくマーティっぽい曲だったから、“銘ありがとう”って思った(笑)。

    ━━石若駿作曲の「Beki」の印象は?

     駿が書いた「Beki」は、今回のレコーディングのなかで一番難しかった。譜読みもプレイも両方難しいけど、すごくヘンな曲でめっちゃ楽しかった。でもそんなにストレスはなくて、一番タフだったけど良い意味でこの曲が終わったら“ハァ〜っお疲れさまです”ってなったよ(笑)。

    石若作曲の「Beki」の楽譜。“1回目:メロディのみ、2回目:奇襲ソロ、3回目:ベース・リフ・ユニゾン!、4回目:ハーモニー + ベース・リフ”という、ベース・プレイについてのメモが記されている。

    ━━マーティは自分で書いた曲を、どんな感じでメンバーにシェアするんですか?

     ちゃんと楽譜を書くよ。それで言うと、「Shizuru」の楽譜はちょっとおもしろいかも。普通のリード・シート的な楽譜なんだけど、最後のパートはギターで作ったんだ(以下写真)。僕はギターがあまり上手じゃないから、ふたつの指だけでおさえる簡単なコードで曲を書いたんだよね。

     それから「Misery Likes Company」はスウィングなものをやりたくて書いた曲。今まで駿と一緒にジャズをたくさんやってきたから、僕と駿の”スウィング・フィール”は歴史も長くてディープだと思うよ。あと「Uncle Izu」は僕が今回のアルバムで書いた曲のなかで演奏が一番難しいかも。この曲は移動中の飛行機のなかでPCで作ったから、楽器を使って書いてない。あとで実際に弾いてみたら、“え! めっちゃむずい!”って(笑)。飛行機で書いたからヘンな曲になったよ。

    ▼マーティによる実演動画を公開中!▼
    こちらもあわせてチェック!

    「Uncle Izu」のイントロ・パートを実演してくれた。ベースでは珍しい3和音でのフレーズとなっている。親指・人差指・中指で押弦しており、親指のピッキングは強め。本人いわく“3つの音のバランスがポイントだね。一番下の音が一番鳴っているのが大事。ベースで3つのノートを鳴らすのは、ピアノでもなかなか弾けないヴォイシングになるし、低音同士がぶつかる感じも独特ですごく好き”とのこと。

    ━━アルバムでもライヴでもアイバニーズの4弦ベースを使っていますが、4弦ベースへのこだわりについて聞かせてください

     4弦ベースというより、この楽器を気に入っているかも。SMTKのEP(『SMTK』/2020年)の頃からずっと使っているよ。なぜ好きなのかはわからない(笑)

    ━━ホロウ・ボディの4弦ベースで、速いフレーズを弾くプレイ・スタイルはちょっと珍しい気がします。6弦ならサンダーキャットがいますけど。インスピレーションになったベーシストはいますか?

     メルボルンの僕の同級生とか先生には、そういう人が結構いて。今年金沢ジャズ・ストリートでも日本に来ている、スーパー6弦セミアコ・ベーシストのクリストファー・ヘイルとかね。彼はメルボルンで、本当にみんなの師匠だよ。そのほかのベーシストはそんなにいないかな。

    ━━新作にはウッド・ベースの曲もありますが、エレキ・ベースとの使い分けについてはどう考えていますか?

     ウッドはデカいヴァイオリンで、エレキは長いギター。パートは一緒だけど、全然違うね。たぶん僕のプレイの内容も楽器によって違っていると思う。インプロヴィゼーションをするときも、メロディを弾くときも。両方マーティっぽいかもしれないけどね(笑)。ウッドではコード弾きができないから、インプロの考え方はちょっと違うかも。

    ━━石若駿が言ってたんですけど、“マーティは両方を高いレベルでやれるからほかに変わりがいない”って。

     おーいいね! 僕も駿のことは本当に最高だと思っている。去年は105本の現場が一緒で、前の年も90本一緒だったから、本当に僕の家族だよね。これまでめっちゃ一緒にやってきたけど、いまだにライヴで毎回びっくりするのってすごくない? 彼はプレイだけじゃなくて考え方とかも最高な人だよ。

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