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    INTERVIEW − 穴見真吾[緑黄色社会]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo(Live):Azusa Takada

    卓越したアレンジ力でポップスを拓く
    多才派の野心と矜持

    「Mela!」や「キャラクター」などの国民的ヒットを放ち、2022年末にはNHK紅白歌合戦初出場も果たすなど、ポップスの可能性を追求しながらスターダムを駆け上がる緑黄色社会。そんな彼らが通算4作目のフル・アルバム『pink blue』を5月17日にリリースした。ベーシストの穴見真吾は、「ミチヲユケ」「陽はまた昇るから」「Don!!」「White Rabbit」「Slow dance」で作曲者としてクレジットされているほか(共同作曲クレジットも含む)、多くの編曲クレジットにも名を連ねており、ベーシストにとどまらない働きで本作に貢献。ここでは、“明るくて元気をくれるバンド”というパブリック・イメージの更新もひとつのテーマにあったという今作の制作背景を穴見にじっくり語ってもらった。ジェームス・ジェマーソンからInstagramの新世代ベーシストまで、幅広い固有名詞が登場する本インタビュー。“多分、僕らがYouTubeでベースを学んだ第一世代なんです”と自らを俯瞰する1998年生まれによる言葉は、ひょっとしたら本誌長年の読者にとっても新鮮に響くものも多いかもしれない。その興味の射程の広さと吸収力は、彼の大衆音楽家としての底知れないポテンシャルを物語っていると思う。

    絞れば絞るほど音は太くなるんだなと改めて思いました。

    ━━2年前には本誌の試奏企画に登場してくれました。その取材中、穴見さんがジャミロクワイのスチュアート・ゼンダーやフリーのアンディ・フレイザーが好きだと語っていたのが印象に残っています。トーキング・ヘッズのフレーズも試奏で弾いていましたね。

     そうでしたね。アンディ・フレイザーは当時ハマっていました。トーキング・ヘッズはそこまで詳しくはないですけど、デヴィッド・バーンの映画『アメリカン・ユートピア』の影響もあって、その頃けっこう聴いたんです。

    ━━さて、緑黄色社会にとって前作から1年4ヵ月ぶりとなる新作『pink blue』がリリースされました。率直にどう振り返っていますか?

     前作までと比べて新曲が多い構成になっていることもあり、“自分たちが世に提示したいもの”をアルバムとして作ることができた感覚です。緑黄色社会って「Mela!」や「キャラクター」みたいな代表曲しか知らない人にとっては、“明るくて元気をくれるバンド”というイメージだと思うんです。もちろんそういう曲も入っていますが、今回はそのイメージを一度ぶち壊しに行ったようなところがある。作品タイトルのように、全体的にはブルーな気持ちが歌われていて、人間の気持ちの弱い部分みたいなものを表現できたんじゃないかと思います。

    ━━サウンドの印象としても、アルバムを通してとにかくアレンジと演奏が凝りに凝っていて、バンドとしての挑戦的なアティチュードを強く感じました。“明るくてポップ”だけではない魅力が存分に詰まっていると思います。キャッチーで力強い歌メロが中心にあるぶん、周りの演奏はかなり攻めたことをやっているなと。

     ありがとうございます。アレンジは年々すごいことになっていますね(笑)。まず、歌メロの話をすると、僕たちは4人とも作曲をするので、毎回コンペでアルバムに採用する曲を選ぶんです。そうすると結果的にメロディが強いものだけが生き残る。そして、強くてハッキリとしたメロディの曲が多くなると、“そこだけじゃない!”という意識で、違う部分を聴かせたくなってくるんです。バンドとして、基本的に今までやったことのないことをやり続けたい、というスタンスがあると思います。

    ━━普段バンドとしてはどのようにアレンジを進めるんですか?

     やる曲が決まったら、時間に余裕がある場合は基本的に僕がメンバーからの弾き語りデモを発展させて完成形に近いアレンジまで持っていきます。そこからアレンジャーさんに入ってもらう形ですね。だから、僕らは足し算がすごく多いんですよ(笑)。アレンジャーさんも“もっと何かおもしろいことをプラスしよう!”という姿勢でやってくれるので、どんどんアレンジが攻めた方向になっていく。今回だと特に「ミチヲユケ」とかはジャズっぽいフィールが入ってきたと思いきや、ハーフのリズムにドーンと落ちてヒップポップ的なノリに変わって……みたいな。全体的に遊び心や攻めっ気みたいなものをいつも以上に出せたアルバムだと思います。

    『pink blue』
    ソニー
    ESCL-5826(通常盤)

    ━━どの曲も、聴き返すごとに“こうなってたんだ!”という発見が多くて、たくさんの隠し味が巧妙に仕込まれているなと。

     それは嬉しいですね。メンバー全員が“これ入れたい、あれ入れたい”ってやりたがりなんです(笑)。ただ、それはそれでおもしろいんですけど、最近は“いかに引き算できるか”みたいなこともバンド内でけっこう話していて。

    左から、穴見真吾、peppe(k)、長屋晴子(vo,g)、小林壱誓(g)。

    ━━今作で、特に“引き算”を意識した曲は?

     けっこうあるんですけど、特に意識したのは「あうん」と「Slow dance」ですね。

    ━━「あうん」は身体が自然と揺れるようなグルーヴが心地良かったです。こういうノリって、鳴ってる楽器が多いとカッコよくグルーヴさせるのが難しいですよね。ダイナミクスがつけづらいというか。

     そうなんですよね。この前レッチリの来日公演を観に行ったんすけど、とにかく音が良かったんですよ。東京ドームでこんなに良い音で聴かせられるんだって、びっくりして。

    ━━私もあの公演はライヴ・レポートを書いたんですけど、まったく同じ感想でした(笑)。

     やっぱり、それって音数が少ないからじゃないですか? ギターとベースとドラムと歌の4つしか鳴っていないから、聴かせるものが明確に絞られている。絞れば絞るほど音は太くなるんだなと改めて思いました。その影響もあって、自分たちも次のツアー(現在開催中の“pink blue tour 2023”)では同期の割合を減らす方向で考えているんです。

    ━━そういった“引き算”のために、ベーシストとしてはどんなことを気にかけてますか? それこそレッチリがシンプルな編成で豊かなアンサンブルを聴かせられるのって、ベース・ラインが担っているところも大きいと思うんです。

     そうですね。やっぱり印象的で鮮明なフレーズ作りができるからこそ、少ない楽器でのアンサンブルが成り立つと思っています。シンプルすぎても寂しいし、ベース単体でも満足させられるフレーズ作りができるというのが最初にあって、だからこそ引き算ができるという順序な気がしますね。

    ━━「あうん」のようなグルーヴで聴かせる楽曲では、演奏面ではどんなことを心がけていますか?

     僕、音が“遅く”なりがちなんすよね。コンマ何秒とかですけど。遅いと自分の音も聴こえてくるし周りの演奏とも合わせやすい感じがするんです。でもそれだとリズムのポケットに入っていないということに2年ほど前に松村敬史さんというギタリストが挙げている動画がきっかけで気づいて。そこから“ジャストでポケットに入るところにいないとダメだ”と思うようになりました。もともと自分は突っ込んで弾きがちだったので、5、6年前から突っ込んで弾かないように意識してたんですけど、逆に遅くなっちゃってたんです。「あうん」は、そのあたりのことがモロに出る曲だと思って、“ちゃんと2、4拍目でポケットに落とそう”みたいなことを考えながら弾きましたね。

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