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    【Live Report】 レッド・ホット・チリ・ペッパーズ – 2023年2月19日(日)/東京ドーム

    • Report:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Kazumichi Kokei(Main Photo)、David Mushegain、Teppei Kishida

    レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
    BASSIST:フリー
    ●2023年2月19日(日) ●東京ドーム

    ジョン・フルシアンテ復帰後初となる
    16年ぶりの単独来日公演

     ジョン・フルシアンテ(g)の3度目の加入後初となるレッド・ホット・チリ・ペッパーズの来日公演が東京と大阪で行なわれた。ここでは2月19日(日)の東京ドーム公演の模様をフリーのベース・プレイを中心にお届けする。前任ギタリストのジョシュ・クリングホッファー時代にも2011年(サマーソニック)、2016年(フジロック・フェスティバル)、2019年(サマーソニック)と3度来日している彼らだが、単独公演としては2007年の『Stadium Arcadium』ツアー以来16年ぶりとなる本公演。伝説的な一夜を目撃するべく、東京ドームには4万5000人を超えるオーディエンスが集まった。

    Photo by Kazumichi Kokei

     荘厳なSEが流れたあと、ほぼ定刻どおりにジョン・フルシアンテ、フリー、チャド・スミス(d)の3人がステージに登場。アンプはギャリエン・クルーガーのイメージが定着していたフリーだが、昨年リリースされた2枚のアルバム(『Unlimited Love』、『Return of the Dream Canteen』)のレコーディングではアンペグのアンプが採用され、この日のステージにもアンペグ製キャビネット(SVT-810AV)が3台並ぶ。また近年のメイン・ベースは、ハムバッキング・ピックアップをひとつ搭載したフェンダー・カスタムショップ製ジャズ・ベース。2022年の夏頃からメイン器となっているのはブラウンのボディ・カラーのもので、本公演でもチューニング変更のある「Black Summer」と「By the Way」以外、すべての楽曲でこのベースが使用された。“SUPPORT YOUR LOCAL FREAK”の黒いステッカーが目を惹く同器からファンキーなリフを奏でると、ジョンとチャドがそこに加わり、3人によるジャムがスタートする。そして初っ端からギア全開、5分以上にわたりソロを弾き続けるジョンのギターが会場の熱気を高めたところで1曲目「Can’t Stop」のお馴染みのリフが鳴り始めると、アンソニー・キーディス(vo)もステージに現われる。フリーは60歳とは思えない軽やかな動きで、ときに飛び跳ねながら鋭いスラップ・リフを聴かせる。低音を明瞭に聴かせることが難しい東京ドームという環境においても、“パキパキ”としたきらびやかな高域とタイトな低域を両立するベース・サウンドが非常に聴き取りやすいことに驚かされた。

    Photo by David Mushegain

     続く「The Zephyr Song」では、フリーはピック弾きでアルペジオ的プレイを繊細に聴かせ、ギター・ソロの裏では4弦すべてに触れるような大振りのピッキングで力強く支える。3曲目は新作『Unlimited Love』から「Here Ever After」。フリーはここでもピックを手にし、順アングルで弦に当てているであろう、アタック音を強調するようなワイルドなピッキングでリフをかき鳴らす。終盤にはニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」を彷彿させるパワー・コードでのリフをベースで繰り出し、パンキッシュなピック弾きで観客を魅了した。フリーの“サンキュー”のひと言があり、そのまま「Snow」へと続く。ステージ上を大きいモーションで歩き回りながらプレイするフリーは、ヴァースは指弾き、コーラスではピック弾きと奏法を使いわけながらベースで場面展開を演出する。曲の最後は長尺ジャムに突入。長いギター・ソロのバックではチャドのパワフルだが繊細なドラム・テクニックも光っていた。

    Photo by David Mushegain

     続いて演奏されたのは、2020年に逝去したエディ・ヴァン・ヘイレンに捧げられた「Eddie」。ほぼ単音のフレーズしか弾かないギターに対して、ベースが高音弦をメロディアスに動き続けるという楽曲だ。ラストのギター・ソロでは、エディの代名詞であるライトハンド奏法が原曲以上に随所に織り交ぜられ、それに胸を打たれた観客も多かっただろう。

     彼らのセンチメンタル・サイドの魅力を存分に味わったあと、イントロで大歓声が上がったのは「Suck My Kiss」。1991年発表の大名盤『Blood Sugar Sex Magik』からの1曲だ。バチバチとハマりまくる3人の痛快なキメがドームの大観衆を揺らした。

    Photo by Kazumichi Kokei

     MCでフリーが日本の朝食に驚いた話と日本への想いについて語ったあとは、最新作からの「Reach Out」。ジョンの指弾きフレーズに有機的に絡む、作り込まれたフリーの緻密なベースが美しかった。一方サビではドライブ・サウンドで爆発力のある演奏を聴かせてライヴ・バンドとしての底力を見せつける。演奏における緩急の付け方があまりに見事、というのは次曲の「Soul to Squeeze」でも感じたことで、ベースが奏でる歌心ある繊細なラインと間奏での激しいスラップのコントラストには拳を上げずにいられなかった。

     “世界一遅い曲”という前置きから繰り出されたのは「Nobody Weird Like Me」。驚愕の速度と正確さを両立する高速スラップ(とチャドのドラム)が素晴らしい。そのあと、“歌いすぎない”カウンター・メロディが絶妙な「These Are the Ways」、フリーらしい小気味いいスラップが炸裂する「Tippa My Tongue」と続いた。

    Photo by Teppei Kishida

     ジョンがグレッチの“ホワイト・ファルコン”に持ち替え、ジャムを経て披露されたのは「Californication」。原曲と異なるメロディ運びでよりエモーショナルに展開したギター・ソロでは、ジョンの動きに呼応してフリーもアグレッシブなプレイで聴かせる。ライヴのみでしか味わえない、未知の展開と出会えるからこそレッチリのライヴに人は足を運ぶのだろう。そして、“ギター・タイム”の割合がジョシュ時代に比べて長尺な本公演を観ていると、改めてジョン在籍時の楽曲はギター・ソロにかなりのことが託されていたのだということに気づかされる。

     ジミ・ヘンドリックス、バンド・オブ・ジプシーズ風の「Carry Me Home」を経て、レリック加工が施されたシェル・ピンクのジャズ・ベースに持ち替えると、ジョン再加入後1発目のシングルで、半音下げチューニングでプレイされる「Black Summer」へと続いた。また次曲の「By the Way」ではフリーが大ファンのNBA(米プロ・バスケットボール・リーグ)チーム、ロサンゼルス・レイカーズ仕様の“Laker Bass”が登場。こちらはドロップDチューニングだ。ジョンとフリーが向かい合い、フリーの“1、2、3、4”のカウントからイントロが始まる一連のシーンに胸を打たれた。フリーはライヴならではのフレーズも効果的に織り交ぜながら熱のこもったパフォーマンスでドームを沸かし、割れんばかりの拍手のなか本篇は幕を閉じた。

    • Photo by Kazumichi Kokei

     手拍子のあと、アンコールのため再び現われた4人は「Under The Bridge」、「Give It Away」の2曲を披露。特に「Give It Away」での驚異のグルーヴは圧巻で、ベース・レジェンドとしか言いようのない気迫に満ちたパフォーマンスを見せてくれた。

     冒頭にも述べたが、とにかく音の良さに驚かされた公演だった。世界中でスタジアム公演をこなしてきたPAチームがそれを実現させている、というのはもちろんあるが、そもそも(鍵盤のメンバーが入る曲もあったが)“基本的に4人の音だけ”というシンプルな編成が各楽器の音の分離につながっている点には疑いの余地がないだろう。ではなぜ彼らが4人だけの演奏でこれだけの規模のオーディエンスの心を掴めるのかといえば、それはベース、ギター、ドラム、歌という最小単位のアンサンブルの可能性を彼らが究極まで追求してきたからだ。そしてそこで最も肝心なのは、“ベースがいかに立ち回るか”。指/ピック/スラップといった右手のバリエーションに加え、初期の筋力でゴリ押すようなプレイから近年見られる繊細でメロディアスなアプローチまで、とにかく引き出しの豊富なフリーのプレイを目の当たりにしたとき、ベーシストであればそんなことを考えずにはいられなかったはずだ。改めて、フリーというベーシストの奥深さと、彼が40年近いキャリアで生み出してきたエレクトリック・ベースにおける素晴らしいアイディアの数々を体感できたライヴだった。

    • Photo by David Mushegain

    ■2023年2月19日(日)@東京ドーム
    セットリスト
    Intro Jam
    01. Can’t Stop
    02. The Zephyr Song
    03. Here Ever After
    04. Snow(Hey Oh)
    05. Eddie
    06. Suck My Kiss
    07. Reach out
    08. Soul to Squeeze
    09. Nobody Weird Like Me
    10. These Are the Ways
    11. Tippa My Tongue
    12. Californication
    13. Carry Me Home
    14. Black Summer
    15. By the Way
    16. Under the Bridge
    17. Give It Away

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