PLAYER
ドライブで彩るポップスの流儀
TWEEDEESが奏でるポップスは、リスナーに果てしない多幸感を与える。12月3日にリリースされた4thアルバム『World Record』は、上質なメロディに繊細なサウンド・アレンジを施した、まさに“至福の一枚”と言えるだろう。作詞曲を手がけるベーシストの沖井礼二は、自身の持ち味でもある“歪み”を今作でも遺憾なく発揮し、楽曲内を駆け巡るリード・プレイを披露。もはや一聴すれば彼のベースだと認識できる唯一無二の存在感だ。TWEEDEESでの活動のほか、作編曲家/アレンジャーとして日本のポップ・ミュージックを日々支え続ける沖井は、今作の制作にどのように向き合い、どんなベース・プレイを描いたのか。制作の裏側を赤裸々に語ってくれた。
今まで弾かなくて申し訳なかったって感じでした(笑)。
――今作『World Record』は前作から4年ぶりの作品となりますが、この間は社会情勢的にライヴ活動ができない期間もあったと思います。いちベーシストとして何か新たなインスピレーションを感じる出来事はありましたか?
ライヴがなくなったことで、逆に改めてベースのリペアの重要性に気づかされたんです。ライヴはやらなくても自宅でデモを録ったりはするので、そのときに自分が欲しい音色を考えていく際、ベース本体のコンディションも大きく影響すると再認識しました。今作では今までのアルバムに比べてピック弾きがすごく多くて、それが自分でも不思議なんです。ピック弾きでも昔Cymbalsでやっていたようなものとは違うニュアンスのものが欲しくなったりもして、いろいろと楽器を持ち替えながら制作していったんですけど、作業しているうちにギブソンのサンダーバードが欲しくなって購入したんですよ。だからライヴ活動ができなくても自分のなかにあるベースに対しての情熱はしっかりしたものを持ち続けられていたと思います。
――新たにサンダーバードを導入した理由とは?
僕が普段メインで使っているのはリッケンバッカーで、適度な弦の暴れ方とそれを拾ってくれるピックアップの感じが好きなんですけど、もう少し粒が揃ったサウンドが欲しいなと。それって今までやってこなかったようなピックのルート弾きみたいなプレイが今作には多かったからだと思うんです。それで最初は所有しているB.C.リッチのイーグルで試してみたんですけど、イーグルだと暴れが少なすぎて音がキレイになりすぎた。だからイーグルとリッケンの中間くらいのものはないかなと考えた結果、サンダーバードを購入しようとひらめいたんです。まぁ結局今作の制作には間に合わなかったんですけどね。ライヴではもう使っているので、これからのレコーディングでは活躍してくれると思います。
――実際にサンダーバードを使ってみた印象は?
ピック、指、スラップ問わず使っていますけど、弾く前の印象よりもサウンドの幅が広いなと。今まで弾かなくて申し訳なかったって感じでした(笑)。
――沖井さんと言えば“歪みベーシスト”としての印象も強いですが、今作収録の「ファズる心」はタイトルどおり歪んだベース・サウンドがクールな楽曲ですね。
この曲にはマレッコのファズ(Malekko Heavy Industry製B:ASSMASTER)を使っていて、ピンポイントで“この音が欲しい”ってときにコレを踏んでいるんですけど、深くかける部分と浅くかける部分を別チャンネルで録音しています。EQで“ジージー”いう高い部分を若干削っていて、リッケンのピック弾きと弦の暴れを強調する帯域が残るようイコライジングしました。今作では本物のベース・アンプは一曲も使わず全部Logicで録っているので、Logicのなかのベース・アンプのシミュレーターをいじって音作りしているんです。Logicのベース・アンプのシミュレーターから何種類かをピックアップして、それぞれのベースや楽曲のキャラクターに合わせてEQをいじりながら調整していきました。
――ベース・プレイ的にはキメが連続するなか、キメとキメの間に細かいフレーズを入れ込むことで、絶え間なくベースの動きが目立つアレンジになっていますね。
この曲のキメはデモの段階で完成していて、最後にベース・ラインをアレンジしていったこともあって、上のほうでのグリスアップとかいろいろ細かいフレーズを入れられたと思います。ギターも僕が弾いているんですけど、そんなに細かく弾けるほうではないので、どうしてもアレンジはベースに集中する。ギターやピアノ、オルガンをいろいろアレンジしていじった挙句に、自分のなかで足りないと思った部分をベースで補完した形ですね。
――「Béret Beast」はベースが全体を牽引していくアレンジで、シンプルな4つ打ちのハウス・ビートに対してのオクターヴ・フレーズなど、全体をとおしてハネ感を演出するプレイになっています。
まずビート・トラックは極力シンプルに、ときどきスネアでフィルが入る程度に作ったんですけど、例えばこういうビートにそのまま打ち込みのシンベを入れてしまうと、しなやかな弾力性は出せないかなと。だからミュージックマン・スティングレイの5弦を使って、ファンク的な要素とヌルヌルしたダイナミクスをイメージしてベース・ラインを作っていきました。
――おっしゃるとおりヌルヌルとした質感のベース・サウンドですが、ミュージックマン・スティングレイの5弦を選んだ理由は?
2000年代前半のスティングレイの5弦で、今作では唯一この曲だけで使っています。こういうデジタル感のあるアンサンブルのなかで、このベースの持ついい感じのロー・カットがうまくマッチングしましたね。たぶんスティングレイのロー・ミッドの感じとシンセサイザーの相性が良いんだろうなと思います。スティングレイって4kHzあたりが持ち上がるけど、そのあたりもデジタルの感じと相性がいい。だからそういう曲のときはこのベースを使いますね。2000年代前半のミュージックマン・スティングレイって5弦と4弦で鳴りが違うので、5弦のスティングレイだからこそこういう音像になっているんだと思います。
――前後半の同パートで音使いを変えていたりと、全篇を通して指板を広く使った沖井さんらしいプレイを展開していて、一曲のなかにベースで起承転結が生まれています。
例えばAメロとBメロでメロディのニュアンスが変わればベースのニュアンスも変わるわけで、そういう意味合いでフレーズも変える必要がある。だからベースというよりは楽曲における起承転結にしっかり対応できるようなプレイを心がけました。僕は楽曲に引っ張られてベース・ラインがあとから変わることが多いので。
▼ 続きは次ページへ ▼