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ベーシストが緻密なエフェクト・システムを構築する光景が一般的となった今、各ペダル・ブランドより個性豊かなベース用エフェクターが登場し、市場を賑わせている。では実際にエフェクターを製作するブランド側はどのような考えのもと開発を進めているのか。ここでは新進気鋭の国産ペダル・ブランドとして、近年急速にベース・シーンで勢いを加速させるVivieより、ベース用製品開発監修の藤盛太一氏とサウンド・エンジニアの河合大気氏に、Vivie製品に込められたこだわりを聞いた。
なおベース・マガジン2022年11月号のSpecial Program『ベーシストのエフェクト・システム』では、老舗国産ブランドとして高品位なベース用エフェクターを世に送り続けているフリーダム カスタムギターリサーチに話を聞いているので、そちらも合わせてチェックしてほしい。
エンジニアの一番の仕事は、プレイヤーから出てくる
音のイメージを実際の回路と一致させること。(河合)
――Vivieはギター用/ベース用の両ペダルを満遍なくラインナップしていますが、そのぶん豊富な知識も必要になってくるという点では、2015年創業という歴史から考えると珍しい展開だと思います。そこにはどういった狙いがあるのでしょうか?
河合:回路エンジニアとして私がいる一方、藤盛がベーシスト、弊社代表がギタリストとして現役で活動しているので、プレイヤー側からサウンドを考える人物とエンジニアのチームとして開発を進められる点が大きいですね。だからギター/ベースのいずれかに左右されることなく、小規模でも両属性のペダルを製作できるということです。
藤盛:ギター/ベースどちらにも作りたいペダルがあるので、あくまでも自然な結果という感じですね。例えば私がベース用ペダルを企画するなかで大切にしていることが、他社製のペダルに対しての“あと一歩こうだったらいいな”って思いを具現化させること。それを河合に相談しつつ、オリジナル製品としてブラッシュアップさせていく作業が多いですね。
――Vivieのベース用ペダルの代名詞と言えば、2016年に初号機が発売されたペダル型プリアンプ“OwlMightyシリーズ”ですが、初号機からクリーンとドライブの2チャンネル仕様に加えコンプレッサーと、多彩な機能を搭載した複合的なモデルでした。ペダル型プリアンプはベース・エフェクターで最も激戦区となるカテゴリーですが、当時はどういったコンセプトで開発を進めていったのでしょうか?
河合:プリアンプ市場は激戦かつ、明確な“定番機”があるので、そのなかでわかりやすい魅力を表現するという部分では、おっしゃたような“一台で完結する多機能さ”は一番最初に挙がったコンセプトでした。
藤盛:初代のOwlMightyは価格帯的にビギナーも視野に入れていたのですが、例えば学生さんがペダルを揃えるにあたって、歪み、クリーンのプリアンプ、コンプレッサーを同時に揃えるのって予算的にも厳しいと思うんです。だからこそ高品質なそれらのエフェクトを一個にまとめて、バランスよく使っていただきたいという思いがありました。
――私も初代OwlMightyを所持しているのですが、クリーンは極めてナチュラル、歪みの質感としてはモダンかつ、過激な部分まで歪ませることができる印象で、まさに昨今のトレンドを体現した音だと思いました。
藤盛:そうですね。音楽のトレンドは流動的でもあるので、“現代の楽曲に必要とされるベース・サウンド”という観点は大切にしています。OwlMightyはその後2020年にOwlMightyIIを発売したのですが、その4年間でベースに求められる歪みの質感が変わったと感じたので、OwlMightyIIでは特に歪みのサウンドをブラッシュアップさせています。具体的に言うと、初号機の歪みはトゲのあるキャラクターで、ナチュラルなオーバードライブなんだけどディストーションのようなきめ細かさを持った、オケに馴染みやすい音というイメージ。対してOwlMightyIIはポイントで踏む歪みというよりは、楽曲で使いっぱなしにできる歪みサウンドを狙っていきました。
――プリアンプで重要な点として、クリーンにおける各EQの帯域設定があると思います。これは各社でも考えが異なる部分ですが、OwlMightyではどういったポイントを狙っていったのでしょうか?
藤盛:通常のOwlMightyシリーズと上位モデルのProシリーズでも変わってくるのですが、OwlMightyとOwlMightyIIに関してはビギナーさんも視野に入れるというところで、ツマミを大雑把に動かしても崩壊しない帯域設定を意識しています。特にOwlMightyIIではベースのポイントを一般的な帯域よりも少し上に設定していて、ブーストしてもブーミーになり過ぎないように、具体的にはロー・ミッドにかかるくらいのところから上がってくるイメージに設定しています。一方Proシリーズではプロ・ユースのものを想定していたので、EQ帯域の選択肢を増やしつつ、細かくフリケンシーを設定できるようブラッシュアップしています。
河合:エンジニアとしての一番の仕事は、プレイヤーである藤盛から出てくる音のイメージを実際の回路と一致させること。だから実際にプレイヤーが必要とする周波数特性にこだわって設計しています。なかでも“使いやすさ”という観点だと、セッティングに凝らずとも使いやすい音にできるようなEQポイントを狙っています。
藤盛:もちろんクリーン・サウンドにもキャラクターがあったほうが“このペダルの音”っていう定番にはなりやすいと思うんです。でも“OwlMighty”という名前のとおり、いろいろな音楽で使っていただきたいという思いがあるので、踏んだだけで音が太くなってクリアになるというキャラクター付けはしつつも、そのキャラが強すぎないナチュラルさも求めました。そのバランスを取る作業は特にシビアな部分だと考えています。
――アクティヴ/パッシヴ、弦数、ピックアップなどベース本体に違いがあるなかで、使用楽器の幅広さというのもペダル型プリアンプには求められる部分ですよね?
藤盛:もちろん。まずベースが違うことで発生する一番の問題としては、やっぱり出力レベルの差異。だから弊社では製品をテストする際は出力の大きいベースから小さいベースまで、いろいろな楽器でテストするんですけど、プレイヤーによってはこちらが想定する以上の高出力のベースを使うこともあります。そうなるとコンプをかけた際のリダクションがかかり過ぎてしまったりとか、こちらが意図していない効き方になってしまう場合もある。だからその場合に対処できるよう、Proシリーズには-15dBの入力を下げるスイッチを実装しています。
河合:ベース本体のパワーに関する点で言うと、入力レベルに対して信号がクリップしない範囲、いわゆるヘッド・ルームの確保はエフェクター由来のノイズとトレード・オフな部分があるんです。ヘッド・ルームを削減してノイズを減らす設計手法があるためです。だからそのポイントをどこに置くかが重要で、そこはエンジニアとして気を配るところ。それからベースによって出ている帯域も違います、そこがペダルでブーストする部分とカブってしまうと噛み合わせの悪く使いにくいものになってしまうので、そういった問題の起こりにくい周波数特性の設計や、汎用性の広いEQなどの機能の実装が重要だと考えています。
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