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歩み続け更新する、“ベースマン”としての生き様
ロック・シーンにそのサウンドを刻み続けるTHE BACK HORNが、2年5ヵ月振りとなる13枚目のオリジナル・アルバム『アントロギア』を発表した。2020年には山田将司(vo)の喉の故障のほか、コロナによるツアー延期など、幾多の困難に遭遇した彼らだが、苦悩の末に希望の光を見出し今作を完成させた。ベーシストの岡峰光舟は、より多様化したバンド・サウンドのなかで、重心を低く保ちつつ随所で攻撃的なアプローチを展開し、ベースマンとしてさらなる“進化”を提示した。彼らが今作を完成させるまでの苦悩の道のり、そして岡峰が描く次なるプレイヤー・ステージとは何なのかをじっくり確認していこう。
日本各地のみんなが各々の環境で楽器を持って
制限なくできるってことがすごく新鮮だった。
――今作『アントロギア』は前作から約2年半の期間が空きましたが、この間には作家・住野よるとのコラボ作品や、3枚のシングル・リリースがあったりと、コロナ禍でも制作意欲は高いままだったように感じます。この間バンドとして、どのような期間を過ごしていたのでしょうか?
意外とバンドとしてはタフな期間だったなと。2018年の結成20周年のタイミングはアルバムを作ったり、昔の音源を再録したり、ツアーをやったりと駆け抜けた年だったので、その勢いのままにもう一枚アルバムを作ろうということで、2019年に『カルペ・ディエム』を作りました。そのツアーが2019年に始まったんですけど、ツアーの中盤ぐらいで山田(将司/vo)が喉を痛めてしまってツアーを中断したんです。そこは正直、今までの勤続疲労みたいなところがあって、ずっとダメージを庇いながら続けてきてしまったという、自分たちの反省もありました。自分たちの都合でツアーを中断するっていうのは、山田はもちろん、自分たちとしても心苦しく不本意ではありましたけど、実際自分たちも疲労していた部分もあったんですよね。
――20年間を駆け抜けた疲労がダメージとして表われてしまったと。
ええ。ツアーを中断してその間に山田は手術を行なって、2020年の2月からツアーを再開したいって目論みはあったんですけど、そうこうしているうちにコロナが蔓延してきて。自分たちの都合とは関係なく、ライヴができない状況が6月頃まで続きました。延期した公演をまた延期するっていうことを繰り返して、ライヴの目処が立たないかなり苦しい状況だったんですよね。
――ライヴができないことで、制作に意識を向けるバンドも多くいましたが、THE BACK HORNの場合は?
正直すぐにはならなかったですね。ツアーを中断しているなかで、次のことを考えるモードには切り替わらなかったというか、『カルペ・ディエム』のツアーがまだ終わってないのに次に切り替えるのは無責任かなって思ったし、心も頭もついて来てない部分がありましたから。でもその頃に山田のほうから“曲を出したい”っていう提案があって。山田から曲を作って持ってきてくれたのが大きかったし、そこからやっと一歩目が始まった感じでした。それは「瑠璃色のキャンバス」という、“もがきながらでも前に進んでいきたい”っていうパワー・バラードの曲で、バンドとしても光が見える曲だったんです。そういった曲を山田が持ってきたっていうのが何よりも大きかったんですよね。
――なるほど。岡峰さん個人としては2021年2月から個人のYouTubeチャンネルを開設しましたよね。
本当はコロナ禍になってすぐに始めたかったんですけど、40歳を超えると一歩目が遅いんですよ(笑)。きっかけとしては池部楽器と昔からよくイベントをやっていた流れで、オンラインでベース・セミナーをしないかって話を2020年の夏くらいにもらって、自宅から配信するセミナーをやったんですよ。そしたら観てくれる人たちからの反応がすごく良くて、こういうやり方があるんだって勉強になったし、日本各地のみんなが各々の環境で楽器を持って制限なくできるってことがすごく新鮮だったんです。だからひとりでもやろうと思ったときにできる環境を作るためにYouTubeチャンネルを立ち上げることにしました。
――THE BACK HORNの楽曲を自ら“弾いてみた”する動画もありますが、これはファンにとっては眼から鱗かと。岡峰さんのベース・ラインを耳コピするのはあまりに難しいですから……(笑)。
池部楽器のセミナーでは「コバルトブルー」「シリウス」「罠」を実演させてもらったんですけど、打ち込みドラムとベースだけのシンプルな構成なので、リズムの抑揚とかドラムとの絡みもわかりやすいって好評でしたね。こういうニーズがあるんだなっていうのに逆に気付かされたというか、普通ドラムとベースだけの動画ってちょっと地味じゃないですか。でもそれがおもしろいんだなって思ったし、需要があることがわかったので、自分のチャンネルでTHE BACK HORNの曲をやらせてもらうことにしたんです。
――そういった期間を経て完成した『アントロギア』ですが、印象として原点回帰した疾走感で押すギター・ロックがありつつ、ジャンル感を広げた新たな一面を提示した内容に感じました。どういったコンセプトで本作を仕上げていったのか教えてもらえますか?
正直、最初にみんなでディスカッションしたときは具体的なコンセプトはなくて、なんとなくそれぞれが曲を持ち寄って提案するデモ出しみたいなところからスタートしました。まずはアルバムではなくてCDとしてパッケージしたシングルを出そうっていう目標で制作が始まって、そこからいろんな曲ができていくなかでアルバムにつなげるっていう狙いだったんです。だから本格的にアルバムに取りかかったのは延期になった“カルペ・ディエム・ツアー”と“リヴスコールのストリングスツアー”が終わってからですね。
――シングル・カットで先行配信された「ヒガンバナ」は、初期のバンド像を思い出すストレートなギター・ロックですね。サビなどで縦横無尽に動き回るベース・ラインがまさに岡峰さんらしいなと思いました。
(菅波)栄純(g)がデモの段階ですごく動いている、うねったベース・ラインを打ち込んできたんですよ。“こういうベースを弾いてもらいたいんだな”っていう風に自分は解釈したのでそれに応えようと思ったし、サビでは自分らしさというか、普通やらないようなスウィープ的なプレイも入れています。そういうプレイを入れていくことが曲のフックになるし、一気に2オクターヴ上がったり下がったりっていうのを繰り返していくとクラシカルな様式美も出てきて、それが初期の頃のダークなんだけど様式美を感じる要素になったのかなと思います。
――サビでの盛り上がりがありつつ、“オン/オフ”が効いたベース・ラインの展開だと感じました。
そうですね。Aメロはガッツリ落としてますから。イントロのリフで一気に100に行って、何もなかったかのようにAメロでゼロに落として、またサビで100に戻すみたいな。この“静と動”っていうのは、COCK ROACHという盟友バンドとよく一緒やってた2000年当時のサウンドを思い返すというか、そこに現在のTHE BACK HORNのエッセンスも入ることで、絶妙なサウンドの融合を実現できたと思いますね。
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