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INTERVIEW – ローラ・バランス[スーパーチャンク]
- Question:Koji Kano
- Translation:Tommy Morley
- Artist Photo(group): Brett Vilsna
幾多の盟友らととも作り上げた
“オルタナ”の代名詞
ニルヴァーナやソニック・ユースらとともに90年代USオルタナ・シーンを牽引したスーパーチャンク。結成から33年を迎えた現在でも現役で“オルタナ”を鳴らし続ける彼らが、約4年ぶりとなる12th作『Wild Loneliness』をドロップした。今作はマイク・ミルズ(R.E.M.)やノーマン・ブレイク/レイモンド・マッギンリー(ティーンエイジ・ファンクラブ)といった、ともに凌ぎを削った盟友たちがゲスト参加。“古き良き”オルタナの形がこの一枚に集約されている。紅一点、ベーシストのローラ・バランスは、病のため2013年以降ステージからは離れているものの、音源では全曲でベースを担当しパンク・ロック然とした力強い低音を聴かせてくれた。同時にインディ・レーベル“マージ・レコード”の主宰者として最前線で現代のロック・シーンを見つめる彼女は、バンドマン/レーベル・オーナーとして世界を襲ったパンデミックとどう向き合ったのか。今作に込めた思いと、彼らがオルタナを鳴らし続ける意味を追うと同時に、当時のUSオルタナ・シーンへの思いも語ってもらった。
こういった時代で何に感謝すべきか考えることは
大切なことだと思うの。
――世界を襲ったパンデミックは日本のロック・シーンに大きな苦境を与えましたが、アメリカのインディ・ロック・シーンにとってはどのような影響があったのでしょうか?
何よりもまずツアーをすることができなくなってしまったというのが大きいわね。ミュージシャンたちが収入を得る最大の方法だったわけだけど……とはいえ、もともとその方法ですらストリーミング配信が始まってから揺らぎ始めていたのも問題ではあったけどね。だからアーティストにとって作品をプロモーションするチャンスを失ったというのが問題だったと思う。でもビッグなアーティストたちには問題がなかったと思うわ。パンデミックが始まったばかりの頃でも彼らはしっかりとレコードのリリースのスケジュールが組まれていたわけで、ファンはしっかりと付いていた。彼らをサポートするためにファンたちはアルバムを買うだけじゃなくて、特別盤やTシャツを買ったりしてくれていたしね。でも認知度の低い小さなアーティストたちだと、リリースをしたところで彼らに対して興味を持つような人たちがそんなにいるわけではなかった。彼らにとって人々の興味をひくための主な方法は演奏をすることだったわけで、それができなくなってしまったのは残念ね。
――あなたはインディ・レーベル“マージ・レコード”も主宰していますが、レーベル・オーナーとしてはパンデミックをどのように捉えていましたか?
マージ・レーベルからリリースしたアーティストでいうとFucked Upのメンバーふたりがほかのメンバーと組んだJade Hairpinsというバンドと、オーストラリアのCable Tiesというバンドが素晴らしいアルバムをリリースしたのだけど、パンデミックの影響を受けて良い売れ行きとはならなかったわ。この2年間ほどの間に人前でプレイできないことは、いくつかのバンドにストップをかけてしまったわね。ただ多くの人が家にいて、バーに行ってお金を使わなくなったおかげで、新たな音楽の購入にお金を充てるようになった。そういった意味で良い効果もあったけど、悪い効果もあったということね。
――そんななか、今作『Wild Loneliness』は前作から4年ぶりの作品となったわけですが、制作はいつ頃から始まったのですか?
この状況がどのくらい続くのか私たちにはまったくわからなくて、ずっと家で怯えながら過ごしていたの。ある時点でマック(マコーン/vo,g)が曲を書き始め、デモを私、ジョン(ウースター/d)、ジム(ウィルバー/g)に送り始めた。でもほかのふたりが作業をし始めた頃、私はまだレコーディングに取りかかることはできなくて、その時点で私はまだ自分のパートを考えている段階だったわ(笑)。モチベーションを掴むまでけっこう難しかったところもあってね。パンデミックという状況を目の前にして、まだ音楽を作るということがそんなに大事なことのように思えなかったのよ。でもいざベースをプレイし始めると、クリエイティブな作業をすることがかなりしっくりきたの。
――レコーディングはどのような流れで行なったのですか?
ジムとジョンは別々にマックの家に行って彼の地下室でレコーディングしていったけど、私はバンドと一切合流せずに録音していったわ。幸運なことに私の夫はレコーディング・エンジニアだから、私は自宅の地下室でレコーディングができたのよ。
――今作には“この悲惨な時代に感謝すべきことについて語った”というコンセプトもあるそうですね。それは具体的にはどういったことでしょうか?
歌詞を書いたマックの気持ちを推測するしかないけど(笑)、こういった時代で何に感謝すべきか考えることは大切なことだと思うの。このパンデミックの前からたびたび暗い時代というのはあったと思う。トランプ大統領の時代なんて世界中の人々にとっても恐怖でしかなかったわ(笑)。アメリカの政治は今でも混沌としていて、そこにさらにパンデミックが加わっている。この数年間に家でかつてないほど家族と濃密に過ごすようになって感じたのは、身近な人たちと一緒に過ごせていることがとてもありがたいということね。娘も夫にも感謝しているし、近所に出歩けば自然のありがたみも感じるようになったし、料理を作るという些細なこともより楽しめるようになったわ。
――今作のトピックとしては、ノーマン・ブレイク/レイモンド・マッギンリー(ティーンエイジ・ファンクラブ)、オーウェン・パレット、アンディ・スタック(ワイ・オーク)、マイク・ミルズ(R.E.M.)、トレイシーアン・キャンベル(カメラ・オブスキュラ)など、豪華ゲストが参加していることですね。多くのミュージシャンが参加するに至った経緯を教えてください。
マックが彼らに頼んだからというのもあるけど、これもパンデミックがなければ実現していなかったことだと思う。なんてったってみんなが同じ時期に家に閉じこもっていたのだからね(笑)。みんな家にいたから、レコーディングをちゃんとやったことがなかった人でもその方法を学び始めた。今回のアルバムはほぼホーム・レコーディングで行なわれていて、誰ひとりとしてきちっとしたレコーディング用のスタジオに行って作業をせずに、各自がやりやすいやり方でやっていた。それにホーム・レコーディングって私たちが若い頃に4トラックでやっていたようなものとははるかに違っていて、かなりのレベルのものが身近になってきているしね。
――パンデミック下だからこそ実現した、ということですね。
ええ。今回参加してくれた人たちはみんなツアーから遠ざかって家にいて、何よりも時間を持て余していた。もしこんな状況でもなかったら、彼らはみんなどこかしらで作業をしていたりツアーに出ていて、今回のようなことは実現していなかったと思うわ。
――マイク・ミルズやトレイシーアン・キャンベルはバンドの活動初期からの盟友でもあると思います。そういったミュージシャンたちとの共作ということで、特別な思いもあったのでしょうか?
それは当然あったわね。ティーンエイジ・ファンクラブだってそういった間柄よ。彼らは私たちがマタドールから最初のアルバムを出した頃からの知り合いなの。ちょうど同じ頃に彼らもマタドールからアルバムを出していて、1990年だったと思うけれど一緒にライヴをやったこともあるわ。ニューヨークのCBGBの隣にあった、もっと小さな会場でプレイしていたのよ。
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