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ベーシストとライヴハウスPAが考える、“ライヴ配信時代のベース・サウンド”
- Interview & Photo:Zine Hagihara
バンドがコンサートを行なうのは、ホールやアリーナといった巨大な施設だけではない。多くのバンドはそのキャリアの初期に、キャパシティ100人ほどのライヴハウスで下積みを続け、チャンスを掴んで大きく羽ばたくのである。つまり、バンドという文化において街のライヴハウスは重要な施設なのだ。新型コロナウィルスの流行により突如襲いかかった“コロナ禍”は、そんなライヴハウスの営業に大きなダメージを与えたわけだが、今や新たなエンタテインメントのスタンダードな形となりつつある“ライヴ配信”は、視聴者にとってはもちろん、ライヴハウス関係者や出演者にとっても“コロナ禍”におけるひとつの光明になっている。だからこそ各地のライヴハウス・スタッフたちは、日々“ライヴ配信”のクオリティ向上を目指し、ベーシストたちはその環境に順応するように腕を磨いている。
今回は、若手からベテランまで多くのミュージシャンが出演する下北沢のTHREEとBASEMENT BAR(両ライヴハウスは同じビルの地下1Fに構える同系列の店舗)に在籍するふたりのPAと、バンドBurgundyのベーシストとしても活動しながらiri、東京女子流、KinKi Kidsといったアーティストでのレコーディングも行なうベーシスト井上真也の3名にお集まりいただき、“ライヴ配信”においてライヴハウスとベーシストがどのような取り組みをしたのかについて聞いた。“ライヴ配信時代の良いベース・サウンド”を目指すべきゴールとして、ベーシストは今、何を考えるべきか。そのヒントになれば幸いだ。
コロナ禍の始まりに、ミュージシャンとライヴハウスが何をしていたのか
━━本日は新型コロナウィルスの流行により、外出の自粛が促されるなかで、ライヴハウスがどのような施策を行なってきたのか。そして、その代表的な事例である“配信ライヴ”において、ベーシストたちがどのように自分のサウンドやプレイ・スタイルと向き合うべきかについて、お話を聞いていきたいと思います。状況が一変したのは2020年の4月頃だったと思いますが、ベーシストとしてバンドに所属してライヴハウスで活動するかたわらで、さまざまなアーティストのライヴ/レコーディングのサポートも行なう井上さんは、突然の事態によってスケジュールが大幅に変わってしまったのでは?
井上 そうでしたね。出演予定のイベントが軒並みなくなったのと、サポートでのライヴの仕事も決まっていたものがバラしになりました。レコーディングの案件も宅録したものを納品する形がメインになって、ほとんど家から出ずに行なう仕事をしていましたね。
━━それまでは、レコーディングは現場で行なう案件が多かった?
井上 まあ、アーティストによりけりだとは思いますけど、僕の場合は現場のほうが多かったと思います。とはいえ、家でレコーディングを完結させてデータを納品するスタイルをメインでやっていたベーシストはコロナ禍以前から多くいましたけど、僕みたいにスケジュールが大きく変わった人も多いと思いますよ。
━━その時期のライヴハウスは、営業が困難な事態になっていましたね。
神谷 まず、イベント自体の数が減って、どうやったらライヴができるかっていうことを考えていたっていう感じですね。そもそもイベントの開催ができない、演奏のある日が少ないっていうことに尽きます。緊急事態宣言が発令されてパッタリと営業が止まりました。
井上 そうでしたね。イベントをライヴハウス側に持ち込んでくれる主催者たちが、やるか/やらないかを判断して中止になったりしていったっていう感じでしたよね。
━━そんななかで、“配信ライヴ”という方法論が出てきました。ライヴハウスは配信ライヴの設備をどのように整えていったんですか?
兼岡 ライヴハウス・スタッフの誰もが配信ライヴについて無知ではありましたけど、個人的には3月頃にとあるバンドのライヴ企画が下北沢SHELTERであって、そこに乗り込みPAとして参加する予定だったんです。そのイベント自体も、お客さんを入れるのか入れないのか、開催方法について主催者が考えていて。結局はお客さんを入れずに配信をしてみようっていう流れになったんですが、何の知識もないのでパソコンのカメラで撮った定点映像をYouTube Liveで配信したもののクオリティはもちろん全然よくなくて……。そこから、映像や配信のプロの方を呼んで配信ライヴを行なうことにして、4月にBASEMENT BARでやってみたときに、プロの方の手際をみて何を用意すればいいのかを初めて知ったんです。
━━なるほど。
兼岡 具体的に必要なものがわかったんですけど、それとほぼ同時に緊急事態宣言が発令されて、そこから1ヵ月ほどはひたすら勉強しましたね。スイッチャー、カメラだったりっていう撮影に必要なものをひとつひとつスタッフ同士で相談していって。用意した機材を使ってまずは自分たちで観てみたりっていうチャレンジをしていました。
神谷 4月頃は本当にそれをやっていたっていう感じで、今回の取材の主題である音響よりも前に、映像のレベルが追いついていない状況だったんです。照明と音響はライヴハウスにいるのでわかるんですけど、それ以外の部分が必要だったということですね。音をPA卓でまとめて2ミックス音源を送るのはわかりますけど、それをどうやって映像と合わせるのかもわからないわけです。
━━映像まわりのインフラが整ったら、次は映像や音のクオリティ向上を図るわけですよね。
兼岡 そうなりますね。昨年の5月の上旬にBASEMENT BARで、とあるバンドの配信をやらせてもらって、自分たちとしてはなかなかいいものができたと思ったんですけど、そのあとに配信のアーカイブを見返したときに、サウンドに対して“思っていたのと違う”と感じてしまって。今までは映像について考えていましたが、そこで初めてサウンドのクオリティについて考えるようになりました。映像に関しては楽しめるものができたんじゃないかと思っていたんですけどね。
神谷 サウンド・チェックの際に、現場では外音スピーカーからも音をちょっと出しつつ、配信時のサウンドもヘッドフォンでモニターしながら音を作っているわけですけど、ホールにいる時点で会場の音も耳だけでなく体感しているわけで、それが入ってきている状態で判断している場面もあって。あとからアーカイブで配信の音のみを確認するとイメージがけっこう変わるんです。それがかなり難しかった。