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INTERVIEW – Nob[MY FIRST STORY]

  • Interview:Kengo Nakamura

バンドとして、ベーシストとしての可能性を押し広げた
新境地と多彩さに満ちた挑戦作

硬質で攻撃的でエモーショナルなロック・サウンド━━MY FIRST STORYがこれまで展開してきた楽曲は、ライヴにおいて猛威を振るい、ロック・キッズをはじめ多くのリスナーに受け入れられてきた。そのイメージを持って、この度発表された通算6枚目のアルバム『V』を聴くと、その大きな変化に驚くだろう。R&BやEDM、Jポップなどの要素も加味された広がりのある楽曲たちは、ある意味肩の力が抜け、彼らが純粋に音楽を楽しんでいる様子が伝わってくるもので、“ポップ”とすら形容できる。アルバム収録曲の多くを手がけたベーシストのNobは、この変化を“脱線したっていうよりは、一歩前に踏み出した感じ”だと語る。曲調の拡張にともない、ベース・プレイもより幅広いアプローチを展開しており、ソングライターとしてもベーシストとしても、一層の充実度が感じられる。いかにして本作が生まれたのか、Nobに聞いた。

DTM上ではベースを一切弾かずに、
全部打ち込んでラインを作っていて

━━新作『V』は、一気に楽曲の幅が広がったアルバムになりました。どういった経緯でこのような作品になったんですか?

 僕たちはこれまでも、ジャンルにとらわれることなくやってきたっていう意識はあったんですけど、バンドを始めて9年くらい経って、思い返してよくよく考えてみたら、実はそんなに飛び抜けたことはしてなかったかなと思ったんですね。自分たち自身がいろんなジャンルの音楽を聴いてきているし、どんなアプローチでもできるんじゃないかと思ったし、極論、Hiro(vo)が歌ったらそれはもう“MY FIRST STORY”になるから、より思い切ってやってみようかと。それに、バンドをやっている以上、今聴いてくれている子たちはもちろん、そのお父さんやお母さん、おじいちゃんおばあちゃんも聴いてくれるようなバンドになれたらいいなと思っていて。万人受けする音楽をやりたいということではなくて、純粋に、もっといろんな人たちに聴いてもらいたいと思ったんです。それで今作は、一歩前に踏み出した感じになりました。

━━ベース・プレイに関しては、前作くらいから、いわゆる“ボトムを支える”ということに徹していたところから幅が出てきた印象で、今作はそれがより顕著ですよね。意識的にアプローチを変えているんですか?

 いや、逆に何も意識していないんですよ。確かに1stの頃なんかは、比較的海外のバンドの影響があったというか、基本、ルートでボトムを支えるという役割で弾いていたんですね。でもバンドを続けていくうちに、自分は日本人だし、別に海外で活躍したいと思っているメンバーもいないし(笑)、日本人に聴いてもらいたいと思っていたら、自然とベース・ラインも動き始めていたっていう感じで。すごく自然な意識なんですよ。

━━素直に“自分”を出したら、動くラインになっていたと。

 そうですね。自分らしくやったらこうなったというのが強いです。それはベースに限らずで、ほかのメンバーもそうなんですよ。

━━Nobさんが好きなベーシストに、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、LUNA SEAのJさん、L’Arc~en~Cielのtetsuyaさんをあげているのを読んだことがあるんですが、正直、これまではその要素はあまり感じなかったんです。でも、本作ではそこがすごく出ていると思います。

 意識してそういうプレイをしようと思ったわけではなく、単純に好きなだけではあるんですけどね(笑)。ただ、「大迷惑」の2サビ終わりのスラップのパートは、“めちゃくちゃレッチリっぽくしようぜ”って、みんなで取り組んだものなんです。ドラムのフィルとかも、めちゃくちゃチャド(スミス)になっちゃっていて(笑)。こういうのをブッ込んでもおもしろいかなって。

━━「大迷惑」は、楽曲全体でいうと、もうちょっとスタイリッシュな質感なので、間奏だけやたらロックだなと(笑)。

 そうそう(笑)。ちょっとやりすぎたかなと思いましたけど、そういう意味では、自分たちの好きなものをけっこう散りばめていますね。

『V』
INTACT RECORDS
INRC-0046

━━「無告」の2Aのハイ・ポジションでのフレーズやそのあとの動きのあるBメロなども、ベーシスト的に非常においしいアプローチだと思います。

 「無告」は実は5回くらい作り変えていて。メロディと基盤だけが入ったものをメンバーに送ったら、“これをリード曲にしたい”って言われたんですね。でも、もっとパンチが欲しいよねとなったときに、いろんなジャンル感をアクセント的にちょっと入れてみたんです。それこそ1Bはヒップホップのトラップ系のビートを入れたり、2Bはウォーキング・ベースでほんのちょっとジャズっぽくしてみたり。そういうことを試行錯誤して、今の形にたどり着きました。ベースのアプローチも、それに合わせてどんどん変わっていきましたね。

「無告」

━━本作ではNobさんがメイン・ソングライターになっていますが、作曲はどのようにやっていくのですか?

 僕はMY FIRST STORY以前はギタリストだったし、実は家にある楽器もベースよりギターのほうが全然多いんです(笑)。あとエレクトーンもやっていたりして。曲を作るときに関しては、思いついたものから打ち込んでいくスタイルが多いです。ベースに関しては、DTM上では一切弾かずに、全部打ち込んでラインを作っていて。そういう作り方だからなのかはわからないですけど、自分が作った曲になるとベースが動いちゃいますね。自分の頭に浮かんだラインをそのままMIDIで自然に打ち込んじゃうんです。

━━逆に、ほかの人の曲ではわりとベース的にはおとなしいというか、ボトムに徹しがち?

 今回は曲自体、そういうものが多かったっていうのもあるんですけどね。「証」はTeru(g)が作ったんですけど、わりとアプローチ的にハネ方が陽気なパンク・ロックの感じだったので、これで動いてもカッコ悪いなっていうのもあったし。あとは単純に、ウチはひとりひとりのデモの完成度がけっこう高いほうだと思うんです。そこからフレーズを変えてっていうよりは、レコーディングに入って、音色やグルーヴで自分の色を出していくっていうアプローチが多いかもしれないですね。

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