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プロのベース練習、覗いてみた。– 第2回:マーティ・ホロベック
- 取材:伊藤大輔
- 撮影:小原啓樹
- デザイン(メイン画像):猪野麻梨奈
- Presented by Positive Grid
プロのミュージシャンは、どんな練習を積み重ねてきたのか?──本連載では毎回、異なるベーシストに登場いただき、自身の練習遍歴や現在のルーティンについて語ってもらう。
第2回に登場するのは、2018年に東京へ移住して以来、ジャズを中心にポップスやロックの現場でも多方面で活躍しているオーストラリア出身のベーシスト、マーティ・ホロベック。初心者時代にジャコ・パストリアスのコピーから練習を始めた(!)という彼に、地元のジャズ・シーンで鍛えたというリズムのトレーニング法から、おすすめの基礎練、そして自宅練習ツールとして話題の多機能型スマート・アンプ、Positive Grid“Spark 2”のインプレッションまで、たっぷりと語ってもらった。
目次
・マーティ・ホロベックが語る、プロ・ベーシストの“自宅練習”
・Positive Grid “Spark 2” × マーティ・ホロベック
マーティ・ホロベックが語る、
プロ・ベーシストの“自宅練習”

“マーティがベースでやってみたい曲は何かな?”と聞かれて、“ジャコの「Donna Lee」が弾きたいです”って答えたんだ。
ーーマーティさんは、ジャズ・シーンを中心に活躍されていますが、ジャズに興味を持ったのはいつ頃でしたか?
13歳の頃だね。僕は音楽学校に通っていて、そこにはジャズ科とクラシック科というふたつのコースがあって。僕はジャズを弾く人たちがカッコいいと思ったので、そちらを選びました。
僕のお父さんはロックやブルースのギタリストなんだけど、僕が“ベースを弾きたい”と言ったらジャコ・パストリアスを教えてくれて、“これはすごいぞ”って思ったことも覚えています。
ーー最初からジャコだったんですね!
そう。それから僕にとって初めての音楽の先生、シリーン・ケムラーニさんが本当に良い先生だった。なぜなら、僕がベースを始めて間もない頃に“マーティがベースでやってみたい曲は何かな?”と聞かれて、“ジャコの「Donna Lee」が弾きたいです”って答えた。
そうしたら、シリーン先生は“OK、やってみよう”と言ってくれ、本当に少しずつフレーズについて教えてくれたよ。かなり時間はかかったけど、弾けるようになったんだ。
ーーそれは貴重な体験ですね。「Donna Lee」を音楽の先生に教えてもらうということは、ただフレーズをなぞるだけではなく、コードやスケールも学ぶことになりますよね。
だから、僕はすごくラッキーだったと思う。「Donna Lee」のコードやスケールは僕の身体に染みついているよ。
ーー若い頃によく観た演奏映像などはありますか?
よく見ていたのは映画『永遠のモータウン』(2002年)! この映画でジェームス・ジェマーソンを知って、シュリーン先生に“次はこれを弾きたい”と言って、教えてもらったよ。あとは『Live at Bass Day Live 1998』、『Drummers Collective 25th Anniversary Celebration and Bass Day 2002』だね。
ーーBass Dayと言えばヴィクター・ウッテンですが、彼の演奏も好きだったんですね。
大好きだよ! 僕はスラップはあまり上手じゃないけど、彼はスラップのテクニックはもちろんすごいし、何よりも彼の演奏は音楽的にも最高なんだ。
ーーマーティさんが、日頃から行っている練習はありますか?
最近はあまり練習の時間が取れていないけど、時間があるときはリズムの練習をするよ。メトロノームを使って3連符、5連符、7連符って、連符を右手だけで弾いたり、スケールと合わせて弾くよ。3、5、7、そして3に戻るというのはすごく難しい。
あとは5連符の符割りで4音のフレーズを弾いて、クリックからどんどんズレていきながら、また5音の符割りに戻したり……。20代の頃からずっとやっている練習だけど今でも難しい。だからもっとやらないとね。
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ーーそういった少し変わった連符の練習をするようになったきっかけは何でしたか?
僕の故郷、オーストラリアのメルボルンにはインプロヴィゼーションやジャズのシーンがあって、僕は当時の師匠について20代の頃にそのシーンに参加したんだ。みんなすごく難しい演奏をしていて、そこで演奏するのが楽しくて勉強にもなった。
その頃、同級生のドラマーのジェームス・マクリーン、ピアニストのジョセフ・オコナーと一緒にピアノ・トリオをやっていて、そのトリオでよく変拍子や連符の演奏をしていた。例えばドラムが4連符で僕は5連符、ピアノは7連符……それで演奏中に連符を入れ替えたりしていた。
ーーなるほど、そういった難解なジャズを演奏するシーンのなかでマーティさんは揉まれて成長したというわけですね。
うん、そのシーンにはスコット・ティンクラーというトランペッターとサイモン・バーカーというドラマーの強者コンビがいて、めっちゃカッコいいんだけどちょっとディープ過ぎるくらいだった。でも、僕は彼らのグループに入って演奏したこともあり、彼らは演奏にもすごく厳しかったけどすごく勉強になった。
日本でよく一緒に演奏している石若俊(d)さんは、僕も関わっていたオーストラリアのインプロ・ジャズにすごく詳しい。彼と演奏しているとインプロのなかで急に5連符とか7連符になったりもして、そうすると演奏の雰囲気がガラっと変わる。その感じがすごくおもしろいんだ。そんな若い頃の影響もあって、今でもそういうリズムの練習をしているというわけだよ。
最近だと自分が書いた曲のうえで、変わった連符で試したり、メロディを弾いたりするのが練習だね。

ーーリズム系以外の練習もしますか?
最近だと自分が書いた曲のうえで、変わった連符で試したり、メロディを弾いたりするのが練習だね。あとはモード・スケールの練習かな。インプロをよくやるから、例えば一番明るいリディアンからイオニアン、ミクソリディアン、ドリアン……ロクリアンとだんだんと暗くなっていくというモードを順番に弾いたりしているよ。
ーー自宅でベースを練習するときはどんな環境で弾いていますか?
いろいろだけど、オーディオ・インターフェイスに楽器を挿してヘッドフォンで聴きながら弾くことが多いかな。DAWを立ち上げておけば練習がてらに良い感じの演奏になったらそのままデモを録っちゃうね。あとは、アコースティック・ベースをそのまま弾いたり、最近はアンペグのB-15買ったから、それにつないで弾くこともあるよ。
ーーマーティさんは最新ソロ・アルバムの『Trio II : 2』の「Uncle Izu」などでも聴けるような和音をベースで弾くことも多いですよね?
そうだね。この前ジェームス・マコーレというトロンボーン奏者と一緒に録音をしたんだけど、編成的にもコード楽器が僕だけだったから、彼の変わったリズムのうえでベースでずっとコードを弾いてて、“いつから僕はこんな演奏をするようになったんだ?”って思ったよ(笑)。
そうそう、今思い出したんだけど、ジョナス・ヘルボーグの『Good People In Times Of Evil』(2000年)を若い頃ずっと聴いていたね。これはお母さんがロサンゼルスのレコード・ショップ「アメーバ・ミュージック」に行ったときに、“息子がベースを始めたから、オススメのベース・アルバムを教えて”って店員さんに聞いて買ってきてくれた作品なんだ。
このアルバムでヘルボーグはアコースティック・ベースでコードを弾いてて、その影響もあると思うね。最近アコースティック・ベースを買ったんだけど、その楽器の音もすごく気に入っているんだ。
ーーコード弾きの素地があったんですね。
そう、あとは単純にギターのコードの響きが好きだからだと思う。僕にとって、ベースで弾いたコードっぽいと感じるのが1度・5度・9度の3和音で、この音はメジャーにもマイナーにも捉えられる広さがある。
そのうえで、メロディ楽器がどういうフレーズを弾くかによっ和音の印象が変わるから、そうやって“上で演奏する楽器”のことを考えてコードを弾くのが楽しい。そういうところが和音を弾くおもしろさだと思う。
Positive Grid “Spark 2”
× マーティ・ホロベック
Positive Grid / Spark 2は、高品位なアンプ・シミュレーターとエフェクト・サウンド、そして豊富な練習用の機能で、自宅練習の自由度を大きく広げてくれる注目アイテムだ。Spark 2を使ったベース練習の可能性について、マーティに聞いた。

プレイヤーの目線で良く考えられていると思う。
これはすごくおもしろい機材だね。僕が練習するときに必要なメトロノームはもちろんあるし、Smart Jamの機能がすごく良かった。いろんなドラム・パターンの上で5連符や7連符を弾けるから、無機質なメトロノームよりも符割りを体感的に理解しやすくなるね。ルーパーの機能はいろんな使い方ができるけど、僕ならコードを弾いてループさせて、そのうえにメロディを乗せていくという練習に使いたいな。

本体のツマミとアプリがちゃんと連携していて操作がとてもしやすい。Apple MusicやYouTubeに合わせて一緒に弾くときも、アンプ本体のコントロールでバック・トラックとベースの音量をスピーディに調整できるところは、プレイヤーの目線で良く考えられていると思う。エフェクトやアンプのアイコンやデザインも、プレイヤーなら一目見てわかるようになっていて、音のイメージがしやすいね。

ユーザーが作ったたくさんのプリセットにアクセスできるのもおもしろいね。
サウンドはモデリングしているアンプの特性をうまく表現していてビックリしたよ。好みだったのは“RB-800”、あと“Sunny 3000”は素直ですごくクリアなトーンだった。鳴らしたときの印象はハイファイというよりも少しヴィンテージ感があって、ちゃんとアンプを鳴らしているニュアンスがある。ベーシストなら好きな音なんじゃないかな。ヘッドフォンで聴くと、もっとクリアにそれぞれのモデリングの個性が感じられた。
エフェクターがたくさんあるのも楽しいね。昔と比べてベーシストもいろんなエフェクターを使うようになったし、Spark 2はリヴァーブやディレイだけでも個性豊かなたくさんの種類がある。あとプリセット・ライブラリの“ToneCloud”では、ユーザーが作ったたくさんのプリセットにアクセスできるのもおもしろいね。
試しに「Punchy Chorus」という音色を弾いたら、名前のとおりに深めにかけられたコーラス・サウンドで、ジャコっぽいハーモニクスが弾きたくなった。こうやって何となく選んだ音色からインスパイアを受けて演奏のアイディアが広がっていくところも、Spark2のおもしろいところだね。







Positive Grid / Spark 2の詳細はこちらから。
◎Profile
マーティ・ホロベック ● 1990年9月3日生まれ、オーストラリア出身で現在は東京在住の音楽家。自身のTrioシリーズをはじめ、SMTKやHishakaku Quartetの共同リーダーを務めるなど、複数のプロジェクトを率引している。サイドマンとして、日野皓正、石橋英子、ジム・オルーク、Answer to Remember、ROTH BART BARON、ermhoi、崎山蒼志、藤原さくら、HIMIなどのアーティストと共演する。2019年から2021年までNHK『ムジカ・ピッコリーノ』にレギュラー・メンバーとして出演。2024年7月31日にリリースした『Trio II: 2』のほか、これまでに4枚のリーダー・アルバムを発表している。2025年7月1日(火)にPOLARIS(東京)、7月2日(水)にCLUB METRO(京都)にて、Marty Holoubek’s Trio II アナログレコ発ライヴを井上銘(g)、石若駿(d)とともに行なう。
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