2025.01.24 UP

【映画『敵』】千葉広樹 × 吉田大八監督が語る「映画と低音の関係」＜インタビュー後篇＞

Interview：Shutaro Tsujimoto (Bass Magazine Web)
Photo：Takashi Yashima

P-MODELの『Potpourri』や『Perspective』のベース・サウンドが、自分の原点にあるベースの響きなんだなって。
━━吉田大八

──最後に、お互いに聞いてみたい質問がありましたら、この機会にいかがでしょう？

吉田：僕はコントラバスっていう楽器には、馴染みがなくて。自分が触ったことあるのはエレキ・ベースなので聞いてみたいんですけど、エレキ・ベースを使った映画音楽の可能性について、どうお考えですか？　今回はエレキではお願いしませんでしたけど。

千葉：可能性はすごくあると思います。だけど、エレキ・ベースって意外と表現の幅が限られるところもありますよね。うーん……でも、ベースには音楽のなかでの絶対的な立ち位置や役割があると思うんです。だから決してギターの役割をベースで代わりやるとか、そういうことをしなくてもエレキ・ベースの新しい使い方を模索していける気はします。さっきも話したように、僕は音楽をいつも立体的に考えていて。映像的とも言えるんですけど。そのなかでベースのイメージって“丸”なんですよ。柔らかい丸で、真ん中が硬くて、跳ねるんですよ。それがベースなんです。

吉田：なるほど。

千葉：だから、エレキ・ベースであっても、そういう役割を拡大解釈していくことで何か新しい音楽が作れるんじゃないかっていう気はしています。

吉田：いつか、映像を流しながら千葉さんにエレキ・ベースを自由に弾いてもらって、そこから音楽を肉付けをしていくやり方も楽しそうだと、話を聞いていて思いました（笑）。今回は千葉さんがベースを弾いている姿をたくさん観れたわけじゃないから、それを間近で観るっていう体験をもっとしてみたいですね。

千葉：嬉しいです。僕から監督に聞きたいことは、いろいろあり過ぎるんですけど……監督にとって、ベースとは？　というのを聞かせてください。

吉田：映像と低音の関わりについては、さっき話したような経験をそれなりにしてきたんですけど、ベースはね……“もっとちゃんと向き合っとけばよかった”っていう存在ですね。今回の『敵』の主人公じゃないですけど（笑）。自分の過去に対していろんな後悔があって、という映画じゃないですか。もっと楽器にちゃんと向き合っていれば、もう少し胸を張って“ベース弾けます”って言えたんじゃないか？　とかね。そういう思いがあるんですよ。

千葉：本当ですか。

吉田：自分の部屋にベースが置いてあるんですけど、もう視界に入るだけで辛いんですよ（笑）。“俺なんかのところに連れてきちゃって申し訳ない”っていうね。もう辛すぎて何回か処分しようと思ったんですけど、土壇場でやめちゃうんですよね、やっぱり離れられなかった。なんで部屋に置いてあるんだろうっていう、そんな存在です。

千葉：監督はどんなベースやベーシストがお好きなんですか？

吉田：昔の音楽になっちゃいますけど、デビュー・アルバムから死ぬほど聴いていてたのは平沢進さんのP-MODELですね。アルバムでいうと、3枚目（『Potpourri』／1981年）が出る頃に自分と同い年の高校2年生がベーシストになったんですよ。菊池達也さんっていう。その人が出ていたP-MODELのライヴにはけっこう通いましたね。ベース・ライン自体は平沢さんが作ることが多かったと聞きますが、何しろ大好きなP-MODELの音楽のなかで同い年の人がベースを弾いてあんなにカッコいいっていうのがとにかく羨ましくて、悔しくて。

千葉：そうだったんですね。

吉田：そんな思いでひたすら聴き続けたP-MODELの『Potpourri』や『Perspective』（1982年）のベース・サウンドそのものが、当時のザラついた音像含めて、自分の原点にあるベースの響きなんだなっていうのはよく思うんですよ。

千葉：いやー、いいお話を聞けました。

吉田：結局またP-MODELの話しちゃったな（笑）。

──ちなみにおふたりは、今回の映画の制作中にはどんな音楽を聴いていましたか？

吉田：僕はさっき言ったように、ノイズとかアンビエントとか抽象的なものが多かったです。今まで積極的には聴いてこなかったんですけど、去年はたくさん聴いて。それから、坂本龍一さんの遺作になった『12』（2023年）。あれはあの時期、よく聴いていましたね。『敵』が人生の締めくくり方についての映画だったし、坂本さんも若いときから好きで聴いていたぶん、“あぁ、最後はここなんだ”って。

千葉：なるほど。確かに。

吉田：僕の好きな、本当に聴き込んでいたときの坂本さんとはかけ離れた音の世界だけど、あれを聴くとなんか心が休まるというか。自分にとってあの時期必要だったアルバムでしたね。千葉さんは？

千葉：僕は、もともと超クラシック・オタクなんですよ。小学校〜高校で、ラジオでエアチェックしたクラシックのカセットが実家に1000本ぐらいあるくらいで。当時はお金がなくてCDが買えなかったので、ラジオで狂ったように録音していて。

吉田：1000本ですか！　すごいですね。

千葉：それで去年のその時期は、バッハはずっと好きなんですけど、あとはパレストリーナ（ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ）をたくさん聴いていました。やっぱり、さっきも話しましたけど、僕は対位法がすごく好きなんだなと思って。逆にアンビエントとかドローンは、好きですけど、引っ張られちゃうので聴いてなかったですね。ヒップホップは大好きなのでずっと聴いていましたけど。だからバッハとパレストリーナですね。