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    【Special Talk Session】トニー・レヴィン × 関根史織

    • Translation:Tommy Morley
    • Photo:Takashi Yashima

    対談を終えて

    念願だったトニー・レヴィンとの対談、そしてスティック・メンのライヴ鑑賞を終えた関根に、今回の対談とライヴの感想を聞いた。

    トニーのプレイを観ていると、
    “楽器って本来、どう弾くかは自由なんだよな”と思わせてくれる。

    ――今回、念願の対談となったわけですが、対談を終えた率直な感想を教えてください。

     このような機会を作っていただいたベース・マガジンと、インタビューに応じてくれたトニー・レヴィンに感謝しています。いつかお会いできたらと夢見ていましたが現実にそんなことが起こるとは思いませんでしたから。会ってしまったら感激しすぎて泣いてしまうかもと思ったのですが、浸る余裕もなく喋るのに夢中でした。あと、チャップマン・スティックを弾くことを諦めなかった自分のことを褒めたいです。

    ――トニーと実際に話をしてみて、どのような人物に感じましたか?

     紳士的で、柔らかく落ち着きのある人という印象を持っていたのですが、会ってみてもまったくそのとおりの人という感じでした。スタイルも良くて見た目もカッコよかったです。甘い物は食べないそうです。

    ――対談内で、特に印象に残ったトニーの発言は?

     スティックは弾くのがまず難しいし、できないことがたくさんあります。ギターやベースに触れていると、スティックは不便に感じることも多く、スティック・プレイヤーはその壁にぶちあたるのではないだろうかと想像していました。でもトニーは、スティックを弾くことを難しいと感じたと言いつつも“そんな風に考えたことはない”と言い切っていたのが印象的でした。スティックじゃないとできないフレーズがあるし、スティックの音が好きだと言い切っていました。自分も本来そうだと思っていたはずなのに、難しさに心が折れそうになっていました。背中を押されたような気持ちにさせてくれました。

    ――対談を終え、今後いちスティック・ユーザーとしてプレイや考え方に変化はありそうですか? 

     わたしはスティックを弾いていると、道なき道を進むような勇ましい気持ちと、同時に、草むらをかき分けてもかき分けても何もないような心細さを感じることがありました。なにか得体の知れない野心のようなものを抱えているからそうなってしまうのかもしれません。でもトニーからは良い意味でそういう特別な野心のようなものは感じませんでした。もっと純粋に、スティックという楽器が好きで、それで音楽をやることを楽しんでいるという印象でした。自分もそうでありたいなとハッとさせられましたし、今後はもっと柔らかい頭でスティックを弾けるかもしれません。

    ――今回、スティック・メンのライヴを観たのは初めてということでしたが、実際のプレイを観ていかがでしたか?

     以前にキング・クリムゾンで観たときは、会場が大きかったしほかの音数も多かったので、スティックの音がどんな風に出ているかあまりわからなかったんですよ。でも今回は大きなスピーカーで人が弾くスティックの音をあんなに間近で聴いたの自体が初めてでしたし、とにかく迫力がありました。

    ――トニーの演奏はどのように感じましたか?

     わたしはベース弦もメロディ弦も同じくらいの比重で弾くのですが、トニーは特にベース弦のほうに重点を置いた演奏でした。両手を使ったタッピングでしか出せないベースのフレージングが、やはりトニーの最大の特徴だと感じました。

    ――今回、対談を終えてからのライヴ鑑賞になったわけですが、対談をしたからこその発見や気づきはありましたか?

     あれだけキャリアのある人から、“音楽が好きで、楽しいと思えることはとてもラッキーなことだよ”と言われると説得力がありましたね。音楽にも楽器にも、そしてライヴにも飽きていないなと思いました。

    ――ライヴで特に印象的だったシーンを教えてください。

     わたしは2階席で観ていたのですが、最後に手を振ってくれたのがもう純粋なファンとしてただただ嬉しかったです。

    ――改めて、関根さんにとってトニー・レヴィンとはどういった存在でしょうか?

     トニーのプレイを観ていると、“楽器って本来、どう弾くかは自由なんだよな”と思わせてくれます。例えば教則本に書いてあるコードの押さえ方は、先人たちが導き出した本当に効率の良い方法だと思うけど、自分にとってベストかどうかはわかりませんよね。人と演奏するうえで知識や技術はもちろん必要なのですが、他人のセオリーに固執せず自分だけの方法を研究して見つけられるかどうかが重要だと思わせてくれた人です。

    ――最後に、チャップマン・スティックの魅力を教えてください。

     チャップマン・スティックの魅力はタッピングによって指板と弦がぶつかるときの木の音、そして低域の心地よさがたまらないこと。両手を使ったタッピングによって生まれるフレージングは独特です。弦の並びが変なのでコードを押さえるとヴォイシングも少々独特になります。ただこれは難点とも言えますが。あとベース弦とメロディ弦がステレオ出力になっているので、一本の楽器で弦によって使うエフェクターが分けられるところもかなりおもしろいです。ベースで例えると1、2弦だけにディレイ、3、4弦に歪みをかける、みたいなことですね。あとはなんと言っても見た目が好きです。機会があったらsticoのライヴでチャップマン・スティックの音を聴きに来てほしいです。

    Profile
    とにー・れゔぃん●1946 年6月6日生まれ。アメリカ・マサチューセッツ出身。70年代からスタジオ・ミュージシャンとして活躍し、ジョン・レノンからポール・サイモン、デヴィッド・ボウイまで、多彩なアーティストのパックを務める。その―方でピーター・ガブリエルのサポートやキング・クリムゾンでの活動も有名で、プログレ・シーンの最重要ベーシストとしても認知されている。エレクトリック・アップライトやチャップマン・スティックも自在に弾きこなし、チャップマン・スティックとドラムによるプログレッシブ・ロック・バンド、スティック・メンを2007年に結成している。曲のボトムで異影を放つ独特のフレージングで人気を博している。

    ◎Information
    キング・クリムゾン:Twitter Instagram YouTube
    スティック・メン:facebook 
    トニー・レヴィン:Official HP Twitter

    Profile
    せきね・しおり●1985年12月8日生まれ、埼玉県出身。2001年、同じ高校のメンバーとSUPERCARのコピー・バンドとしてBase Ball Bearを結成。2006年にミニ・アルバム『GIRL FRIEND』でメジャー・デビュー。これまで2度の日本武道館公演を成功させるなど、幅広い層から人気を集める。2018年にはバンド主宰レーベル“Drum Gorilla Park Records”を設立し、2020年1月に8thアルバム『C3』をリリース、バンド結成20周年を迎えた2021年10月27日には9thアルバム『DIARY KEY』をリリースした。また、チャップマン・スティックの奏者としても知られ、2018年には自身の主宰バンドsticoを結成。2020年2月には初の音源『像と話す女』を発表している。

    ◎Information
    Base Ball Bear:Officia HP Twitter YouTube
    stico:Official HP Twitter YouTube
    関根史織:Instagram