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    INTERVIEW – 本村拓磨[ゆうらん船]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Ryo Mitamura

    国内オルタナ・フォークの最前線で
    拡張する低音世界

    2020年に発表した1stフル・アルバム『MY GENERATION』が、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が主宰する音楽賞“Apple Vinegar -Music Award-”にノミネートされるなど各所から高い評価を得た、ゆうらん船。そんな彼らが、5月に待望の2ndアルバム『MY REVOLUTION』をリリースした。フォーキーでストレンジなグッドメロディはそのままに、心地よい違和感をもたらすモダンなポスト・プロダクションや濃密なバンド・アンサンブルが前作以上に光る今作。カネコアヤノのバンド・セットなどでも活躍するベーシストの本村拓磨は“帯域的にどんどん下に潜っていく”ことをテーマに、今回から5弦ベースを大胆に導入。さらには3曲の楽曲のミックスも手がけたというのだから驚きだ。ここでは、彼にとっての新たな試みに満ちた『MY REVOLUTION』の制作背景についてじっくり語ってもらった。

    ゆうらん船では、
    ベースは帯域的にどんどん下に潜っていかないと。

    ━━前作の1stフル・アルバム『MY GENERATION』(2020年)ではポスト・プロダクションへの取り組みが増えるなど、それまでのEPから作風に大きな変化が見られましたが、この間にバンド内では何が起きていたのでしょう?

     一番わかりやすいのは制作過程で、最初の2枚のEPは内村(イタル/vo,g)くんが弾き語りで作った曲をリハーサル・スタジオでセッションしながら合わせていくっていう一番オーソドックスなやり方だったんですけど、前作ではそのアプローチを変えたんです。オケをできるだけDAWで打ち込むようにして、“勢いじゃなくて、丁寧に構築していこう”となりました。

    ━━前作からは、ピアニストの永井秀和さんが加入して5人編成になったというのも大きかったですか?

     そうですね。鍵盤が伊藤(里文/k)くんと永井くんのふたりになったことで、割り振りとかをどうしようかっていうところで、アレンジに与えた影響はありますね。でも鍵盤がふたりいるのは、そういうサウンドを狙ったというよりも、ふたりが内村くんの幼馴染みだったので、“その3人が揃う”っていうことが先にあったんです。

    ━━本村さんはカネコアヤノさんのバンドでも活動していますが、そちらは鍵盤がいないシンプルな4人編成です。やはり、両バンドでベースのアプローチも変わりますか?

     カネコさんのほうでは、シンプルに4弦のジャズ・ベースとアンプ直結って感じでやっているんですけど、ゆうらん船では、ベースは帯域的にどんどん下に潜っていかないと鍵盤たちが浮き出てこないっていう思いがあって。なので、今作からは初めて5弦ベースを導入したんです。

    『MY REVOLUTION』
    O.O.C Records
    OOC-003
    左から、本村拓磨、永井秀和 (p)、内村イタル(vo,g)、 伊藤里文(k)、 砂井慧(d)。

    ━━なるほど。5弦ベースは、どの曲で使いましたか?

     「Parachute」、「Tide」、「Bridge」、「Hurry up!」の4曲ですね。

    ━━5弦ベースの導入のきっかけは何だったんですか?

     去年、フィッシュマンズばかり聴いてる時期があって、もう本当にただ“フィッシュマンズの曲を弾きたい!”という思いで5弦ベースを買うことにして(笑)。渋谷の楽器屋さんで何本か試して、このBlack Cloudのベースに出会いました。全然情報を知らないまま試奏したんですけど、ものすごい音がキレイだったのと、パッシヴ・ベースだったのが気に入って。ブーストされたマッチョな感じがない5弦というのが新鮮だったんです。

    ━━確かに、今回「Bridge」や「Hurry Up!」ではダブ的なベース・アプローチを感じていたので、フィッシュマンズと聞いてしっくり来るものがあります。「Hurry Up!」は、規則的、機械的でありながらも、時折ランダム感が混在しているようなプレイが印象的でした。

     この曲のドラム・トラックは、最終的にはリズム・マシンを使ったんですけど、ベーシックを録ったときは普通に生ドラムだったんです。もともとドラムのヒューマン・グルーヴに合わせて弾いたものを、あとから機械的なドラムに差し替えたので、“カチッとしてるの? してないの?”みたいな不思議なところに着地したなと。

    ━━「Bridge」のベースはかなり深い帯域で鳴っていますよね?

     「Bridge」は、自分が5弦を使って一番最初に録音した曲でした。レコーディング・エンジニアの池田洋さんが、“今までは4弦の帯域にいたけど、もっと深く潜りたい”っていう自分の意思を汲み取ってくれて。池田さんは必要であれば大胆にサブ・ローを出すことを辞さない人で、それをゆうらん船に取り入れてくれたのが印象深いです。あれくらい破壊力のあるサブ・ローをドーンって出してくれることで、“あ、こういうアプローチができるんだ”っていう、自分の新しい気づきにもなりました。

    ━━5弦を持つことで、プレイのアプローチにも変化はあったんじゃないですか?

     今までにない下の音域が出るっていうだけで新鮮で、弾くのがとにかく楽しくて仕方なかったです(笑)。音程が低すぎるとハッキリとピッチが認識できない帯域にもなるので、効果音っぽく使えたり、“ムムム”みたいな、すごく不明瞭な音を鳴らせるっていうのはすごく思いましたね。実際に触ってみると、ローBの弦っていうのは低いパーカッションやバス・ドラムの延長にもなり得るということに気付きました。

    ━━ベースの弦にはどういうものを使いましたか? 本村さんの音は、わりとフラットワウンド弦っぽい丸い音の印象があって。

     それがですね……5弦ベースには1、2弦がフラット・ワウンドで、3、4、5弦はラウンド・ワウンドを張っていて(笑)。

    ━━へぇ! それはおもしろいですね。

     実は、フラット弦って普段は全然使ってないんです(笑)。でも、自分が弾くと自然にそういう音になってしまうんですよね。

    ━━音自体は、やっぱりキラキラした音よりも丸っぽい音のほうが好きだと。

     倍音が豊潤に出てる音は聴く分には好きなんですけど、自分が弾くとなると“オレ、こんなにギラギラしてないっす”って気分になっちゃいます(笑)。倍音よりも基音がしっかり出ている、木材っぽい音というか、金属っぽい成分があまり入ってない音が好きですね。

    ━━そう聞くと、やっぱりラウンド弦よりフラット弦のほうが合ってそうな気がしますが?

     それが僕、ライヴのたびに新品のダダリオのラウンド弦に張り直してるんですよ(笑)。

    ━━え! 死んだ弦とかではなく、むしろ新しい弦を? 興味深いです。

     矛盾しているように聞こえるかもしれないんですけど、新しい弦でもタッチ次第で倍音をつぶしたような音を作ることはできるんです。だからこれは、ワーっとテンションが上がったとき用って感じで。ギラついた音を出したくなったときのための準備というか。本来だったらブースターとか歪みのエフェクトを使うところを、弦でまかなってる感じです。僕は踏み間違いなどのトラブル防止のためにライヴでエフェクターを置かないようにしてるので(笑)。ゆうらん船でもカネコさんでも、基本はチューナーしか置いてないです。エフェクターも本当は好きだけど、ライヴで使うのは心底苦手で……。

    ━━今回レコーディングでは、エフェクターを使ったんですか?

     エフェクター通した曲は……ないですね。基本、直結です。エンジニアさんとあんまり話を詰められないような状況だったら、自分の足下でできるだけ作り込んでコミュニケーションを円滑にするみたいなのはあるんですけど、池田さんとだとじっくり話せるので、コンプの具合とかもミックスの際に話しながら決めていきました。

    今作から導入されたBLACK CLOUD製Black Smoker Beta J5。
    今作の録音で使用された本村所有のアンペグ製B-15S。写真の掲載はないが、アンプ・ヘッドはそのほかアコースティック製Model 220を所有している。
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